第38話 スケルトンの行方

「おお!どうもこんにちは!フィンゼル様!今日は美味しい魚を仕入れているんですよ!どうですか?」

「ああ。それは良いことだな。だけどまだ用事があるんだ。また今度な」

「フィンゼル様! フィンゼル様! いい剣を仕入れたんですよ!どうぞ見て行って下さい!」

「悪い。今日は急ぎの用があるんだ」


 俺は沼地に向かう道中アバディンの市場で多数の商人から声を掛けられていた。それもこれも、商人とのコネクション作りや、将来の領主として良い印象を与える為に、人々の話を聞いたり、クエストで得た金などを羽振り良く使ったりしたことが原因だ。慕われることは良いことだが、あまり過剰になりすぎても鬱陶しいだけだな。


「フィンゼル様」


 マリアが俺に耳打ちをしてくる。


「なんだ?」

「最近領民が調子づいているように感じます。お優しい事はフィンゼル様の美徳でもありますが、あまり過剰なのは……領民のこの視線……慕われているというよりも……」


 ああ……やっぱりか……。なんとなくは気付いていた。慕われているというよりも羽振りの良いカモとして見られている。

 冒険者ギルドでは、俺を舐めるやつもいなくなったが、領民たちにはちょっと優しくしすぎたか。慕われることは良くても舐められてはいけない。これからは領民との付き合いも調整していかなければ。


「フィンゼル様。必要ならご命令下さい。正直この視線、反吐が出るくらい不快です。フィンゼル様を侮る人間は消すべきかと」


 マリアは前の領地で領民の反乱を見ている為か、民の態度に敏感なようだ。

 しかし、不快だからといってやりすぎるのも良くない。俺にとって人を消すくらい簡単なことだ。魔力を何も考えず放出すればいい。だがそれをやってしまえば、貴族としてだけでなく、人間として終わりだ。


 今回は領民との距離感を間違えた。しかし、これからはそれを調整して領民と良好な関係を気付いていけばいいだけのこと。


「必要ない。なにかあれば俺から指示出す」

「畏まりました」


 俺たちは速足で目的地の沼地に向かった。


――


 沼地まで戻ると、朝方とは打って変わって、多数の冒険者がいた。


「なんかここら辺魔物少なくないか?」

「ああ。いつもならスケルトンがわんさか出て来るのに」


 冒険者のボヤキが聞こえた。

 朝、結構な数のスケルトンを狩ってしまったからな。いなくなっても不思議はない。また魔物が出現するには、多少の時間が必要だろう。


 しかし俺のスケルトン達はどこに行ってしまったんだ? まさかこいつらに狩られた?

 俺が不安に思うと、カタカタと骨のなる音を響かせながら、スケルトンが沼から姿を現した。


「あっ! おい! 出て来たぜ!」

「よかったー! これで一応クエスト完了だな!」


 冒険者達は意気揚々とスケルトンに走って行く。


「おら! 魔石を出しやがれ!」


 冒険者が振った剣を、スケルトンが剣で受け止めた


「え?」


 冒険者は一旦距離を置き。自分の剣と、相対するスケルトンを交互に見る。


「どうした?」

「いや、いつもなら一発で仕留められるのに……」

「おい! 上位種が出て来たぞ! 気を付けろ!」


 また違う冒険者が声を張り上げ、他の冒険者に危険を知らせる。

 そちらの方に視線を向けると、骨が太く、ガタイの良いスケルトンが冒険者と切り合っていた。


「フィンゼル様、この場所に何か用でもあるんですか?」


 じっと冒険者とスケルトンの戦いを見つめる俺を、不思議がって理由を尋ねてくるマリア。


「用はある。まさしくあれだ」

「あれ? あの冒険者達ですか?」

「いや―――」

「なんだこいつらは! 普通のスケルトンじゃねぇぞ!」


 違うと言いかけたところで、冒険者の絶叫が聞こえてきた。

 普通のスケルトンは何体か退治しているようだが、上位種のスケルトン・ウォーリアやガーディアンに苦戦し次々と敗走しているようだ。


「あっ! あそこにいるお方は!」


 そんな冒険者の一人が、俺の存在に気付き、近寄ってくる。


「あ、あなたはフィンゼル・ライ・ベルフィア様ですよね!? ベルフィア辺境伯様の息子さんの!」

「ああ。そうだが?」


 その声を聴いて、他の冒険者も詰め寄ってくる。


「あのBランク冒険者の!? お願いです! 助けて下さい! あんな強いスケルトン初めてだ!」

「ここの領主の辺境伯の息子ならあんな魔物余裕だろ!?」

「ああ。分かった」


 俺が迷いもなく了承すると、冒険者たちは一目散に逃げていく。


 ベルフィア辺境伯当主であるオリバーの評判はあんまり良くない。帝国との戦いで、アバディンにとどまっていたため、住民から結構な税を徴収したためだと思うが、その影響で息子である俺まで不評になるんだから困ったものだ。


「フィンゼル様。こんな魔物にお手を煩わすことはありません。私が片付けます」


 マリアは剣を抜き、正眼に構える。


「マリアその必要はない」

「え、しかし……!」


 マリアの肩に手を置き、剣を納める様に指示を出す。

 俺は冒険者達と十分に距離が離れたのを確認し、スケルトン達に近づいてく。


「ふぃ、フィンゼル様……危ないですから……」


 スケルトンに十分近づいてもスケルトン達は攻撃してこない


「やはり俺が召喚したスケルトンか」


 この場にいるスケルトンの数は、普通のスケルトンが20体、アーチャー10体、その他の上位個体が2体ずつ。


 こいつらどうしようか……。せっかく召喚したのに消すのも勿体ない。

かと言ってアバディンに連れて帰ることなどできようもない。

 俺は悩んだ末に、バッグから赤いバンダナを取り出した。


「今日からお前がリーダーだ」


 そのバンダナを、スケルトン・ウォーリアの片腕に巻いてあげた。


「これからはこいつを中心に思うが儘行動してみろ。ただし、人間に危害を加えないようにな」


 それだけ言い残すと、後ろを向いて歩き出す。


「驚きました。まさかフィンゼル様が召喚したスケルトンだったなんて……。しかし、そうであれば、そのスケルトン達と交戦して、少なくも被害をだしたあの冒険者どもには罰を与えないといけませんね……」

「やめろマリア。そんなことは良いんだよ。それよりもこの事は誰にも言わないでくれ」

「え? どうしてでしょう? 召喚魔法という高等魔法をフィンゼル様が扱えるなら、どんどん公表してフィンゼル様がどんなに素晴らしい方か広めないと……」

「いや、駄目だ。もっと違う、例えばペガサスとかだったら、そう言うのもありだが、スケルトンはなぁ。なんか悪いことに利用されそうだ」


 例えばスケルトンが人里を襲った時、俺がスケルトンを召喚できることが広まっていると、俺の召喚したスケルトンだと難癖付けられる可能性もある。あとシンプルに自分の情報が出回るのは不利だ。


「なるほど……。畏まりました。そう言うことならこのマリア! フィンゼル様の秘密を墓場まで持っていくことをお誓いします!」

「よろしく頼む」

 

 スケルトン達は俺達を見送るように、歯をカタカナ鳴り響きかせた。

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