第31話 エルフの奴隷少女
「本日はありがとうございました。坊ちゃまのおかげで何か大切な事を思いだしたように思います」
ゲオルグは俺に感謝の言葉を言う。そういう割にエルフはしっかり売ったけどな……。
「いや、お礼を言うのはこちらの方だ。我が父の我儘に付き合ってくれてありがとう。様々な葛藤があっただろうが、その忠義は本物だ。これからもベルフィアの為に尽くしてくれると嬉しい」
「はっ!ありがたきお言葉です」
ゲオルグとその部下たちは片膝を付き畏まる。
片膝をつくのは騎士が貴族に忠誠心を見せることだ。
反ヘストロア派の騎士たちが何を思ったのかは分からないが、此方の有利になることなら黙っていることが賢明だろう。
「ゲオルグ殿はこれからどうするのですか?」
「私は一度この金を辺境伯様に納めに行きますが、他の騎士たちはヘストロアから兵が到着するまでこのアバディンの国防任務に就きます」
「そうですか。ではお気をつけてお帰り下さい」
「お心遣い感謝する。それでは坊ちゃま、マリア嬢、ギュンター殿、私はこれで失礼させて戴きます」
そういってゲオルグはブリステンに、その部下たちは任務に就いていった。
「フィンゼル様。良かったのですか? エルフの奴隷など」
黙っていましたが、私は不満です。といった不機嫌な感じでマリアは言ってくる。
「ああ。だって理不尽だろ奴隷なんて。救ってあげられるなら一人でも救ってあげたい」
俺の言葉にギュンターは、流石です坊ちゃま!と感極まっているが、マリアはまだ納得いっていない感じで反論してくる。
「でしたら、今すぐにでもスカリアの森にその子だけでも返してあげるべきではないですか? 呪印もフィンゼル様に所有権が移りましたし、解除できますよ」
「そんな勿体な……!」
マリアの正論に反射的に本音が出そうになる。いや、もう半分出ていたか。
俺は咳払いをしてマリアの説得を試みる。
「いいかいマリア。この子一人返しても、この子は自責の念に駆られるだろう。自分は助かった、他の9人を犠牲にして……と。それにゲオルグたちはエルフをどれくらい追い込んだのかは分からないが、エルフ側は相当な被害に合っているはず。もしかしたらこの後一人でずっと生活していかないといけないかもしれない。それは可哀そうだろ? そして、俺はこの子を一度でも引き取った責任がある。騎士や使用人に限らず、俺に仕える者は俺が最後まで面倒を見る! それは奴隷でも同じこと。それが主として責務だ」
言い切ってから俺は思った。
めちゃくちゃ苦しい言い訳だ。後半なんかは奴隷を開放するのに関係のない貴族の責務とか口走ってしまった。
俺はマリアの反撃を警戒しながらマリアを見ると、どういう訳か顔を赤く染め、さっきの不機嫌な顔はなりを潜めていた。
「そうですか……。最後まで面倒を見て下さるのですか。私の事も……」
マリアは消え入りそうな声で、何かぼそぼそ言っていたが、何とかなりそうで良かった。
俺は改めて、奴隷エルフの方を見た。
金髪で若干くせっ毛な感じのロングだ。瞳の色は緑でたれ目、大きくぱっちりとした目のマリアとは違い、どこか優しい印象を受ける。
そして、目を見張るのはその胸囲だ。見た目に反してなかなか驚異的なものを持っている。
エルフはスレンダーで胸が小さいというのは嘘だな。
俺は座り込んでいる彼女の猿轡を取り話かける
「俺はフィンゼル・ライ・ベルフィア。君の名前は?」
猿轡で息が苦しかったのだろう。外れた瞬間、ぷっは!と息継ぎをする
「お、お姉ちゃん、お姉ちゃんたちは!?」
お姉ちゃん達…か、やはりあの二人は姉妹だったのか。
それと今初めて気付いたが、この子には耳栓がしてあった。魔制具の様で、外の音を完全にシャットアウトできる物だ。
魔制具とは、魔法が籠った道具の事だ。魔制石は魔石を加工し、魔法を込めた水晶だ。魔制具も同じように魔石を加工した物だが、それに道具を組み合わせることで、魔制石より幅広い用途で使用できる。もちろん魔制石よりコストは段違いに高い。そんな高級品を使っている事からも、エルフ狩りへの本気度が窺える。
俺は耳栓を外してあげて、改めて話しかける。
「冷静に聞いてほしい。君はこれから、俺たちの屋敷に来るんだ。お姉ちゃん達とはもう会えない……」
出来るだけ刺激を与えないように言ったつもりだが、お姉ちゃんに会えないというのがトリガーになったのか、グスグス泣き出してしまう。
「奴隷。まだフィンゼル様の質問に答えていないようだけど」
この子は耳栓をしていて俺の質問が聞こえなかったわけだが、そんなこと関係なしにマリアは威圧する。
俺はもう一度優しく質問する。
「俺の名前はフィンゼル。君の名前は?」
「ふぇ……。る、ルーナです……」
「そうかルーナ。いい名だ」
「本日はもう夜更けです。一旦屋敷に帰り、今後の事をゆっくり話しましょう」
俺とマリア、ギュンターそして新しく加わった奴隷のルーナと屋敷に向かった。
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