第18話 バルコニーでティータイム1
月光歴500年10月20日
夕暮れ時、俺は城のルーフバルコニーで優雅にアップルパイを食べていた。
俺はそれをナイフとフォークを使い、慣れた動作で口に運ぶ。甘く芳醇な香りが口いっぱいに広がる。どの世界変わらずアップルパイは絶品だ。
この家は辺境伯家となかなか高貴な家柄だけあって、俺に英才教育を敷いてくる。
ギュンターの剣術や馬術、カトレアの魔術、サディーの貴族作法などなど。
今日はそんな忙しい日から久しぶりに開放された日だ。
しかし、休みとはなぜこんなに時が経つのが早いのか。
俺はアップルパイを食べ終わると、沈みゆく太陽を見ながらマリアに話しかける。
「マリア、紅茶をいれてくれ」
俺の隣で佇むマリアに命令する。
「はい。 フィンゼル様。 そう言われると思い。 ご用意しています」
「お、気が利くな。さすがは俺のマリアだ」
褒められて嬉しかったのか、髪を弄りだし、下を向いてしまった。
よしよし。お願いを聞いてもらい、いつの間にか好きになってました作戦は順調だ。
後は、この人は私がいないと駄目な人ね……。ほっとけないわ。と思われれば作戦成功。
前世で見た、マインド系の動画の知識がこんなことに役立つとは……沢山見といてよかった。
俺は入れてもらった紅茶の匂いを嗅ぐ。フルーティーな甘い匂いがした。
ズズと熱い紅茶をすする。
うん苦い。なんで紅茶は甘い香りがするのに味は苦いのだろうか。ミルクを入れれば飲みやすくなるのだが、この世界ではその飲み方は邪道だ。一回やったら恥ずかしいからやらないでとフリーダに怒られてしまった。
「うん! 今日も美味しいよ。いつもありがとう、マリア」
俺は笑顔を作りながらお礼をする。ここで正直に不味いと言ってしまうのはモテない人間の行いだ。嘘でも美味しいというのが正しい選択。
そして極めつけはこのイケメンフェイスでの笑顔。これは中々破壊力がある。事実カトレアや他のメイドにやっても上々な反応を見せてくれた。まぁ、まだ子供だから、フィンゼル様かっこいい!ていうよりは、可愛い!と言う反応だろうが。
「はい! フィンゼル様! ありがとうございます」
思った通り、マリアも上々な反応。 顔を真っ赤にし、照れている。
これは落ちるまで時間の問題だな。
これからマリアをどう落としていくか考えていると、バルコニーのドアが開かれた。
「あら、フィンゼル様、奇遇ですわね」
入ってきたのはカトレアだった。
カトレアは失礼しますねと言い、俺の目の前の席に座りこちらを見つめてくる。
いつもよりさらに胸元が開いた赤いドレス、紫の口紅、いつもは下ろしている紫の髪を今日はハーフアップにしている。
「カトレア。今日はどうしたんだ?そんなにお洒落して。どこかのパーティーにでも行くのか?」
「まぁ、フィンゼル様ったら。 今日はオリバー様が帰ってくる日ですよ。一応わたくしは客人扱いになっていますから、出迎えるのにいつものローブじゃ無粋ではありませんか?」
やっべ。そうだっけか。でもたしかにフリーダがそんなようなこと言ってたような……。
今日はあの人が帰ってくるから、ちゃんと準備しなさいねって言われた気がする。
あ……だから今日はオフなのか。しかし、準備と言っても別に用意する物もないだろ。
「そうだったな。でも別にお父様が帰ってくるだけであろう? 何か準備する必要あるのか?」
「フィンゼル様がなにかする訳ではないですから、特には必要ないかと思いますが。しかし準備した方がいい物もあるんじゃありませんか?例えば心の準備とか」
心の準備か。確かにこの世界の父と会うのは初めてだが、別に緊張することでもないだろ。
普通の子供であれば多少は緊張するかもしれないが、生憎と俺は転生者。緊張どうこうより、どんな父親か純粋に興味が湧く。
「そうか? 別に必要性を感じないが」
「そうですか。フィンゼル様のお年頃なら、初めて会う御父上に緊張されるものかと思いますが……フィンゼル様、あなたはやはり……」
そこで言葉を止めてしまうカトレア。やはり、なんだ?と聞こうとする前に、カトレアは俺の手を撫でたり、指を絡ませたりしてくる。
あの修練上での魔法実施からカトレアはずっとこんな感じだ。顔を赤く染めながら、俺にスキンシップを図ってくる
まぁ、俺としては若く、飛び切り美人に好かれることは悪くない。カトレアのいい匂いを嗅げるし、何より子供の立場を利用して、いろいろできる。
「カトレア様、お茶を入れましたのでどうぞお召し上がりください」
そういってマリアは笑顔でお茶をだしたが目は笑っていない。その目は俺の手をさすっているカトレアの手に向いていた。
なるほど、意外な発見だ。マリアは意外と嫉妬するタイプらしい。
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