第14話 撤退戦2
スタンリーは勢いよく反対側出口から飛び出すとスタンリー直属の部下1000人が整列して待っていた。
「デフォー様! 指示をください!」
彼らの顔は、不安や陰りは一切なく決意に満ちていた。もともとこの部隊はスタンリーはじめ、全員徴兵された平民上がりだ。その中でスタンリーは手柄を立て、一級騎士まで上り詰めたのだ。平民からしたら正に英雄。憧れだ。
「よし!皆の者!武器を取れ!今ここで帝国軍を蹴散らし、ベルフィアの糧としてくれる!いくぞ!!!」
スタンリーが号令をすると周りにいたスタンリー部隊以外の兵士も叫び声を上げ帝国兵に 突撃していく。
スタンリーは近づく敵を一人二人と切り伏せる。味方の兵も敵をなぎ倒している。
(これは……いける!)
どういう訳か、敵に強敵らしい強敵はいない。敵の数も想定より少ない。
「いいぞ! このまま、一気に押し返す!」
スタンリーは味方に檄を飛ばし、さらに敵を切り伏せようとしたその時―――
バスンと重い音と共に隣で戦っていた兵士が倒れた。
倒れた兵士の腹には、不自然な大きな風穴があいてる。
バスン! バスン! バスン! と次々に兵士が腹に風穴を開け、倒れていく。
中には構えた盾ごと穴が開いている物もあり、その異様さが窺える。
(これは……魔法じゃない!)
「まずい! 皆、一度距離を取れ!」
スタンリーがそう叫んだ次の瞬間、黒く丸い直径80cmほどの円が前方から飛んでくる。
スタンリーはそれをギリギリで避けると、後ろにいた兵士の頭とその黒い円が重なった。その瞬間兵士の首は消し飛んでいた。
「ほう、良く避けたな。 褒めてやる」
黒く丸い円が飛んできた方向から、黒く長いぼさぼさの髪に、青い鎧、左の腰に剣を差し、そして帝国軍のシンボルである双頭の黒いワシが描かれている赤いマントを羽織った中年の大男が現れた。
「誰だ、貴様は。名も名乗らずに攻撃を仕掛けるなど帝国の軍人は騎士道の欠片もないな」
名乗らずに攻撃を仕掛けたのは王国軍も同じだが、今はベルフィア辺境伯の撤退の時間を稼ぐのが先決。
見るからに強者のこいつを会話で足止めをしようとスタンリーは試みる。
「はっはっは! 面白いことを言うな、貴様。貴様らの王国のように、我が帝国には貴族や騎士といった、下らん階級など存在しない。あるのは、皇帝陛下の絶対的な権力! そして、陛下の命令を忠実に実行する圧倒的な軍事力! それだけだ」
手を大きく広げ、大げさなゼスチャーをしながら語る男。
「圧倒的な軍事力と言う割には共和国の特殊部隊が出張ってきたみたいだが?」
「分かっとらんな、貴様は。これは帝国が共和国に借りを作った訳ではない。帝国が貸したものを返してもらっただけだ」
だとしても共和国に武力で助けられたのは変わらないが、こいつは絶対に認めないだろう。
「おしゃべりもこの辺でいいだろう」
そういうと男は右手を伸ばし、また黒く丸い円状の物体を飛ばしてくる。
「くっ!」
それを一つ二つと避けるスタンリー。
(やはり魔法じゃない。魔法陣も使っていないし、何よりこの黒い円からは魔力が欠片も感じられない。これは―――)
「
「ご名答! これは現人神であらせられる皇帝陛下より賜った力!
そういうと男は、能力を乱発してくる。
それをスタンリーは避けながら考える。
(こいつの
スタンリーは足に力を入れ、黒い円を上手く避けながら一気に距離を詰める。
(とった!)
スタンリーの剣が男の首元に掛かった瞬間、スタンリーの右手に力が入らなくなった。
(え?)
スタンリーは力が入らなくなった右腕を見ると、右肘から下が切り飛ばされ、血がダポダポと垂れていた。
「う、う、うで、うでが!!」
「おいおい、俺が
いつの間に抜いたのだろうか。男は右手に剣を持ち、語りかけてくる。
スタンリーはいったん距離をとるが、もはやこいつを倒せる手立ては思いつかない。
「それにしても、この帝国遠征軍の中にあの裏切り者のギュンターがいると思っていたんだが。その気配はなさそうだ」
左右を見まわし至極残念そうに呟く男。
もう男はスタンリーに注意も向けていない。
「くそぉ、くそぉーー!」
スタンリーは腰に下げていた予備の短剣を左手に持ち、叫び声を上げながら、男に突撃していく。
バスンと鈍い音がした。スタンリーは自分の腹を見ると、円形に風穴が空いていた。その事実を認識すると、口から大量の血を吐き倒れる。
「ユージン、イザベル……すまない……」
視界がブラックアウトする中、スタンリーは最後にそう呟いた。
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