第12話 嫌な予感
1年たち俺は5歳になっていた。
「んー、この白人顔もいいけど、前世での日本人の顔も良かったよなぁ」
俺は鏡に映る自分の顔を見ていた。
そこには黒髪で青色の瞳を持つ美少年が映っている。
母であるフリーダは黒髪黒目なので、この目の色は父譲りだろうか? まだ会ったことないが。でも顔のパーツなどはなんとなくフリーダに似ているような気もする。
「フィンゼル様、お食事の準備が整いました」
今話しかけてきたメイドは、マリア・ペドロヴィア。ギュンターの娘だ。
娘と言っても、血は繋がっていない。いわゆる養子というやつだ。
最近俺の直属メイドとなりいろいろ面倒を見てくれている。
彼女は青い髪をセミロングにしていて、その透けるような白い肌と大きな青色の目がチャームポイントだ。
見つめると吸い込まれそうになる。始めてあった時は、見とれてしまうくらいだった。
「フィンゼル様、どうかされましたか?」
「いや、今行くよ」
危ない、危ない。
いくら可愛いといっても、まだまだ幼い。前世でいう小学2年生くらいの年齢だ。
この世界では5歳でも、前世では20歳。体はともかく、精神は立派な大人だ。いくら何でもないだろう。
しかし、今俺は貴族だ。彼女はメイド。俺はマリアを好きにできる立場にある。もうちょっと成長したら……。いや、やめよう。下種な考えは。
権力があるからこそ、強い力があるからこそ、それを正しく使わなければならないとサディーも言っていた。
まぁ、これから長く一緒にいるんだ。成長するまでにゆっくり口説いていけばいい。
要は本人の同意があれば、何ら問題はないということだ。
そう思い、俺は食堂に歩きだした。
食卓には肉や魚、いろいろな料理が並べられている。 特にベルフィアは海と面している為、新鮮な魚が食べられて美味しい。
しかし、毎度思うけど料理が多すぎて全部食べられない。
料理長には量を減らしてくれと頼んでいるのに聞いてくれないからしょうがない部分もあるかもしれないが、いやほんと、毎日残して申し訳ない。
「マリアちゃんも、フィンに使え初めてもう1年になるわねー。どう?少しは慣れなれたかしら?」
フリーダはマリアに問いかける。
「はい、奥様。フィンゼル様のおかげもあり、すっかり慣れました」
この城に貴族は俺とフリーダしかいない。そのため、フリーダの計らいで少数の使用人を残し、貴族と一緒に食事を取ることを許されている。
この大ホールには多くの豪華なテーブルがあり、その一番奥のテーブルで俺たちは食事をしている。中央の席にフリーダ、その右の席に俺、その隣にマリア。左にはギュンターとカトレアが座っている。
「マリアちゃんはまだ7歳なんだから、無理しちゃだめよ。 なにかあったら、私やギュンターに相談してくれていいんだからね」
「はい! ありがとうございます!」
マリアは立ち上がり勢いよくお辞儀をした。
「素直で可愛らしい娘ですね。ギュンターくんにはもったいないわ」
「確かに、その通りですな。 坊ちゃまとマリアだけはワシの命に代えても絶対にお守りします。それがやつとの約束ですから」
やつ……とはマリアの祖父の事だろう。
マリアは、代々ベンセレム王国の南にあるアポダイン子爵に使える騎士家の出身だ。そこは2年前に領民が反乱を起こして、マリアの両親は命を落としている。こんなに幼くして、命のやり取りを身近で体験した影響なのか、彼女の剣術は、幼いながらも凄まじい勢いで成長している。同じ剣術の授業でやっているから分かる。騎士家出身だけあって、彼女はとてつもない才能を持っているに違いない。
一方で、人間の首に執着していたりと、ちょっと怖い部分もある。それは幼くして戦争の闇に触れた影響だと思う。凄い才能を持っていると言っても幼い少女だ。精神が不安定になるのはしょうがない。問題はこの闇の部分をギュンターはじめ大人たちは気にも留めていないことだ。確かにいつ戦いが始まってもおかしくない世界だから、少しぶっ飛んでいた方が逆に生きやすいのかもしれないが……。
「そういえば、旦那様がもうすぐお帰りになるみたいですね」
「……。ええ、そうみたいね」
父が遠征に行ってもう5年と2か月になる。
遠征がどうなっているか俺のところには全く情報が来ない。まぁ、5歳だから当たり前だけど。
「ねぇ。フィンこれからは一層、魔法や、剣の稽古に励むのよ。 私たちは負けるわけにはいかないの」
フリーダのその眼には決意の炎がともって見えた。
しかし一体、何と戦うというのか?帝国や他の国が攻めて来るのだろうか?
状況は分からないが、なんとなく、良くないことが起きているという事は伝わってきた。
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