第10話 剣術授業
魔法の授業が終わり、昼食を終えると、次はギュンターの剣術の授業だ。そのため、外の修練上にフィンゼルとマリア来ていた。
修練上には鎧を付けたカカシのような人形がいくつも等間隔に並べられている。
「坊ちゃま! お待ちしておりましたぞ!」
「ギュンター……これお前が並べたのか?」
「いかにも! 今日こそ坊ちゃまに剣術の楽しさを教える為に! このギュンター!張り切って準備させていただきました!」
ギュンターは拳を固く握り、ガッツポーズを繰り出す。
「お義父さん……恥ずかしい……」
「では私が手本をお見せしましょう」
マリアは顔を手で覆い隠すような仕草をするが、そんなのはお構いなしにギュンターは木刀を正眼に構える。
「ハァァ!!」
その気合の叫びと共に、ギュンターは俊敏に動き、甲冑を着た人形は真っ二つに割れた。
「では坊ちゃま。やってみて下さい」
ギュンターは木刀を俺に差し出してくる。
その目に曇りは一切なく、俺ならできると確信しているような、期待に満ちた瞳だった。
「いや……無理だろ」
そんなギュンターの期待を裏切るように、俺は冷静に現実を突きつける。
「な、なぜですか坊ちゃま!」
「なぜも何も、あの人形木製だろ? しかも鉄製の甲冑も纏っている。それを木刀で叩き割るなんて芸当が俺に出来ると思っているのか? 絶対に無理だ」
「そんな! 坊ちゃま! やる前に諦めるなどと……。坊ちゃまの中には素晴らしい青い血が流れております! 必ずできます! 私を信じて下さい!」
「いや、そうは言うが、物理的にって言うか……普通に考えて筋力的に無理だ」
「しかし! マリアにできてフィンゼル様に出来ないことなどありません!」
「マリアが出来る? ははっ! そんなわけが……」
そこで俺は信じられない者を見た。
マリアは6歳。俺より2歳年上だ。しかし、4歳と6歳でどれほどの筋力の差があるだろうか? 確かに幼い頃の1年の差はかなり大きい。しかし、しかしだ。こんなことがあっていいのだろうか―――
「人形の首から上がなくなっている……」
並べられてあった人形の、半分ほどの首が刎ねられていた。
「ハッ!」
マリアは信じられないほどのスピードで駆け抜けると、また一つ、人形の首を刎ね飛ばした。
今刎ね飛ばされた人形の首は、俺の足元まで転がって行く。俺はそれを拾い上げる。
素材はやはり木製……だよな。マリアが使っているのも木で出来た木刀……。それを刎ね飛ばした? あんな幼い少女が?
俺は全く理解できなかったが、まず確認しなければいけないことがある。
「マリア……確認したいんだけどいいかな?」
「あっ! ごめんなさい! フィンゼル様の特訓用の人形を壊してしまって……すぐに新しい物を……」
「ああ。いや、いいよそれは。それよりも俺の質問に答えて欲しんだ」
「あっ。はい……」
マリアは、俺を怒らせてしまったと思ったのだろう。顔をうつむかせてしょんぼりしてしまうが、俺は気にせず質問をした。
「なんで……首なんだ?」
ギュンターが見せたのは人形を真っ二つにする業だ。純粋に真っ二つにする筋力がないのか、それとも他に理由があるのか……。
「え?特に理由はありませんが……効率がいいからでしょうか?」
「効率がいい?」
確かに真っ二つにするよりかは体力を使わなそうだが……。
「人を殺すには首を刎ねるのが一番効率良いんです」
「……え?」
「手をとったり、足をとっても人は死にません。でも首さえ落とせばそこで人間は死んじゃうんです。前の……アポダイン領の、領民の反乱でいっぱい見ました。手がない人、足がない人、目がない人……でも死んではいませんでした。でも……お父さんとお母さんは首をなくしました。それで……」
「ああ。もういい。分かった。俺が悪かった」
俺は聞いていられなくなり、そこで話を中断させる。話していたマリアの目は、本当に人を
マリアの話を聞いて、戦争がごく身近にあることを俺は改めて再認識したと同時に、そもそも俺の父であるオリバーが帝国に侵略しに行っていることを思い出した。
俺が勉強している魔法も、剣術も、人を殺すための手段だった。目の前にいるこんな子供でさえも戦争から闇を植え付けられている。俺は……いざという時戦えるのだろうか? サディーは有事の時は先頭に立ち、導くのが貴族だと言っていたっけ……。
「マリア。確かに首を狙うのはいいが、警戒されやすい箇所でもある。やはりすべてを叩き伏せる両断をお勧めするが?」
「そうですかね?」
フィンゼルが考え事にふけっている間に、親子は戦闘スタイルで話し合っていた。
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