転生する神魂《ゼーレ》~魔力が豊富に宿る体に転生しました。世界が戦争ばかりなので平和にするため立ち上がる~
レノ
第1話 男の人生
人生を楽しく過ごすには……俺は弁当工場で作業をしながらそんな漠然としたことを考えていた。こんな事を考える理由は一つ。今が楽しくないからである。
金、権力、美女、確かにこれらに不自由がなければ人生面白おかしく過ごせることだろう。しかし、実際問題これらはすぐに手に入るものではなく、選ばれた一握りの人間しか持つことが許されないものである。
ではこんな俺が、これから先の人生を謳歌するにはどうすればいいのか……。
「ちょっと! 何やってんの! 煮干し少ないよ!」
「あっ、すみません……」
つい考えに没頭してしまい、作業がおろそかになってしまった。ここの工程リーダーは、おばちゃんのくせに怖いんだよなぁ。
俺は適当に謝り、ベルトコンベアーから流れてくるご飯に無心で煮干しを敷き詰めていく。工程リーダーはそれを見届けると、自分の作業に戻っていった。
しかし、この単純作業。俺の集中力はすぐに途切れると、また別の事を考える。
あいつらは今頃楽しく遊んでいるだろうな。
高校の頃つるんでいて、大学進学を機に上京していった友達のことを考えた。
俺は土日はもちろん、祝日も休みはないのに、あいつらの大学生活は華やかだった。
SNSを覗けばキャンプに行ったり、海行ったり、平日から仲間と集まって宅飲みしているのを見ていると羨ましくて仕方がなかった。
こんなことを言っても仕方がないし、誰が悪いと言われれば、大学行くため努力をしてこなかった自分自身と分かってはいるが、自分が働いている時に楽しい思いをしていると思うとイライラするものがある。
「俺……なにやってんだろ」
ご飯の上に煮干しを置きながらつい口に出してしまった。
周りには同じようにラインで作業をする人達がたくさんいたが、作業に集中して俺の言葉には気付いていないようだ。
俺はもともとこんなネガティブ思考の性格ではなかったはずだ。
中学高校でサッカー部に所属し、それなりに充実している学生生活を過ごしていたはずだ。女の子にもそれなりにモテていた……はず……。
それが今ではやりがいもない、単純作業の毎日……。
どこで歯車が狂ってしまったのか?
些細なトラブルでサッカーを辞めてしまったから?就職活動に失敗してしまったから?
そんなものは関係ない。俺だって分かっている。しかし、あのままサッカーを続けていればどっかの大学から推薦を貰えたのかもしれないし、辞めたとしても、勉強をもっと頑張っておけば別の道があったかもしれない。
俺はそんなどうしようもない『もしも』を考えながら、切実に願ってしまう。
もう一度やり直したい……。
ビー!と機械の甲高い音が鳴り響く。
考え事をしている内に最後の工程が終わってしまったようだ。
俺は若干の解放感を感じると、すぐに後片付けを開始する。
「山田君。君は良く頑張っているようだね」
後ろから声を掛けられた。この工場は食品工場の為、頭と口元を隠していて、顔で見えるのは目元の部分しかない。しかし、誰かは声で分かった。この工場の副工場長だ。
「はい。ありがとうございます」
「君のような若者がいてくれて心強いよ。この調子で頑張ってくれ」
「はい。ありがとうございます」
俺は同じ言葉をくり返す。
頑張っていると思っているなら、ライン工程から外してくれ。
就職してもう二年だぞ。そろそろ新しい業務についてもいいころだろ……そうは思ったが、さすがに口にはできない。相手は副工場長だからな。
まずは、ラインの工程リーダー。いや、製造主任あたりに部署異動の相談してみようか。
あいつらが羨ましいとか、もっと勉強しとけばとか、今更そんなこと言ってもしょうがない。今できることから始めよう。俺は世間一般的にはまだまだ若い部類だ。ここからまた頑張ればいいんだ。
俺は気持ちを切り替えると、後片付けを終えて更衣室に向かう。着替え終わり、部屋から出ると、食堂で何やら話し声が聞こえた。覗いてみると、男が女に言い寄っている様子だった。
女の方は、工場でも可愛いと噂されている子だった為、俺でも知っている人だ。しかし男の方の顔はパッとせず、体系も太めの様だった。ありていに言えば醜い、そんな印象だ。そんな男が自信満々に可愛い女の子を口説いている。
無理だろ……。
俺の想像通り女の子は男から逃げる様に離れていく。男はその女の子を諦めると、仕事を終えて着替え終えたまた別の女の子に話しかけて行った。
職場でナンパかよ……。別に禁止にはされていないが褒められた行為じゃない。まぁ、自分から注意しようとは思わないけど。
しかし、ナンパか……。自分に自信がないと絶対に出来ないことだ。あれだけ自身があれば人生楽しそうだな……ん……?人生楽しそう……?
俺はその瞬間、雷に打たれたような襲撃を憶えた。
そう、自信だ。人生を楽しくするには自信が必要だったんだ!
学生の頃、異性にもちょっとモテていて、充実した生活を送れていたのもこの自信のおかげだったのかもしれない。
もちろん自信をすぐに付けることなどできやしない。そんなことは分かっている。しかし、金や、権力を持とうとするよりかは、遥かに難易度が落ちることには間違いない。
俺は手始めに、携帯で「自信をつける方法」と入力する。
いろいろ書いているが、今日からでも出来そうなことも沢山あった。
まずは……そうだな、筋トレからだな。俺はそう思い立つと、自分の体を見る。良く言えばスレンダー、悪く言えばガリガリの体。まずはこれに筋肉をつける。
とりあえず、筋トレグッズを買うために駐車場に向かった。
あたりはすっかり暗くなっていた。親から譲ってもらった黒の軽自動車に乗り込み、車を走らす。
スポーツ用品店に向かって約10分。大きな交差点の赤信号で停車した。
自信をつけると言えば、車も定番か?大学に行かず働くメリットと言えば、金を稼げることだ。
あいつらは、所詮学生だ。あいつらが遊んでいる間に金稼いで新しい車でも買って自慢するか。
どんな車買おうかと考えていると、前からすごいスピードで突っ込んでくるトラックに気が付いた。
おい……まだ赤だぞ、そのスピードで停まれるのか?
そう思った瞬間トラックの運転席で運転手が突っ伏しているのが見えた。
居眠り運転だ。
これはやばい。ほっといたら大惨事になる。幸い対向車線だからトラックが直進してきても俺と衝突することはない。
警察に連絡しようと携帯に手を伸ばした時、何を血迷ったのか運転手が右にハンドル切ってこちらに突進してきた。
え?やば―――
俺が乗る軽自動車と、トラックが衝突する間際、走馬灯のようなものが見えた。
“ような“ものとはそのままの意味。一般的に、走馬灯とは自分の記憶が蘇るものだが、俺に見えた物は、真っ白なマントを羽織った男と黒いマントを羽織った男が激しい戦闘を繰り広げているシーン。
真っ白なマントを羽織っている男の光り輝く光線を、黒いマントを羽織る男は赤よりさらに赤い紅蓮の炎で応戦していて、最後には仰向けで寝ている黒いマントの男の心臓を、真っ白なマントを羽織った男が剣で刺しているシーンだった。
印象的なのは真っ白なマントを羽織っている男の神々しいオーラと、その遥か上空で飛び回っている赤く燃え盛った大きな鳥。その神々しいオーラで男がどんな顔をしているのは分からなかったが、黒いマントの男は、白い男に、いや……赤く燃えた鳥に向かって手を伸ばしていた。当然俺はこのような光景など見たことを見たこともないし、漫画やテレビなどで見た覚えもない。
なんだ……これは……?これは俺の記憶なのか?
そう思う間もなく、耐えられるわけもない衝撃が俺の全身に襲い掛かる。
これからの人生を面白くしていく……そう思い立ったところで、俺の……この世界での人生は、幕を閉じた。
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