第4話 魔法のトレーニングを行います。

魔法の授業から一ヶ月が過ぎた。


俺はというと筋トレならぬ、魔法のトレーニングつまり魔トレを行っていた。


(通学路でモンスターとばったりからの死亡なんてのもありえるから仕方なし・・・)


なぜ聖剣を使わないのかって?


よく考えてみてほしい・・・・。


ただの少年が通学路で伝説の聖剣を振り回しているという、ゲームでは当たり前の光景が、ものひろいの力で可能だが・・・どう見ても異常である。


そして誰もが憧れる魔法という魅力的なワードには勝てなかった。


魔トレの内容は手のひらに硬貨を魔法の電磁力によって貼り付けるだけだ。

最初は10秒ほどだったが、2週間目ぐらいから常に貼り付けることが出来た。


そして手の平で硬貨を少し浮かせるぐらいならできるが10cmほど浮かせたところで制御不能になり違った方向に向かって飛んでいった。


一般的に魔法は発動者から離れるほど性能が落ちるらしい。

(これが性能の範囲ってやつか・・・)



今ではそれを更に大きな金具に変えて、おしゃれな装飾品といった具合で手首や足首に貼り付けていた。

どうやら金具はオリハルコンと呼ばれる重く丈夫な素材らしく、近所の防具屋でそれを使用した防具の値段を見ると軽く家が建てられるほどだった。

当然、ものひろいで手に入れた金具なので無料である。ものひろい様様だ・・・。


おまけで金具の重みを利用して筋トレも行うことができている。



継続は力なりという言葉があるがその通りで、天才や秀才というのは歩行時などの如何なる時も考え続け、努力し続けているということを知っていた。


練習を常にやっている者が、たかだが1時間から2時間しかやっていない奴に負ける訳がないのだ。



そんな様子を見ていたナシェから教えてほしいとお願いがあったので同時に指導もこなしていた。


加熱の魔法でマグカップの水から始まり・・鍋・・・と今では風呂レベルを沸かせるようになっていた。


日課がお風呂になっているらしい・・・しず子じゃん・・・・。


「もうこのぐらい余裕だよー。」


と、しず子はドヤ顔で風呂を沸かしてみせる。


「ナシェはすごいなー」


「覗かないでね。」


「覗かねえよ・・・」


なぜか少女は不満そうな顔をしていた。


俺の硬貨を浮かせたりできるレベルの魔法とは明らかに性質の格差というか、汎用性がある。

無論、体内にも水分はあるわけで・・・対生物に関してほぼ最強の魔法といった具合だ。

ナシェを怒らせないようにしないとな・・・・。


「それでねー、もっと魔法を強くしたいのー。」


どうやら俺の幼馴染は最強をご所望のようで・・・・のんびり希望の俺とは性格は真逆だった。


「仕方ないな。これを渡そう。」


俺はものひろいの能力で手に入れた火耐性のあるモンスターの毛皮を渡した。


「これを加熱し続けてみろ・・・」


「なにこれ?モフモフー。えいっ!」


しかし何も起こらなかった・・・・。


「ふえぇ・・・・燃えないよー」


風呂レベルの水をすぐに沸騰させる魔法を持ったナシェが全力で加熱をかけても、

人肌の温度を保ち続けるのだからかなり優秀な素材と言える。


「そりゃ火耐性のあるモンスターの毛皮だからな」


「私、頑張る!!」


ものひろいの能力はというと・・・平均一日100個ほどアイテムが手に入る。


大半がモンスター素材ばかりだが、何の努力もせずにレアアイテムなどが手に入るのだからこれも十分チートと言える。

(まぁ非効率的なことをするのは昔から嫌いだからなぁ・・・・)

この性格のおかげでプログラミングが上達し、ご飯が食べる事ができていた。


そして誰も居ない所で、気になっていた聖剣を取り出す。

説明を見るが何も表示されていなかった。


「取り出しっと・・・」

真っ白に輝く剣が目の前に現れる。


試しに持ってみるがそこに固定されているかのように重かった。

「重っ!魔法で何とかならないか?」


俺は魔法を使い、軽くなるようにイメージする。

筋肉だけではなく魔法の磁力によって軽くしようとしたのだ。

そして次の瞬間剣が嘘のように軽くなる。


「何だこれ!?イメージによって変化するのか!?」


(剣というより魔法に近い感じだ・・・となると・・・)


聖剣はイメージを描くとその形に変形し重さも変わったのだ。


「最初に剣は重いというイメージをしたから全くもって持ち上がらなかったのか・・・」


俺はよくゲームに出てくる台座にハマって抜けない剣の謎がわかったような気がした。


試しに羽のように軽く、切れ味のよい日本刀をイメージすると剣が輝き変形した。

そして近くにある岩を切断してみると、豆腐に包丁を入れるような感覚で岩を切ることができた。


(性能的に誰かの転生特典か・・・・)


途中であることをひらめき、イメージする。

すると聖剣はなんと一般的な木の盾に変形したのだ・・・・


「これ・・・便利だな」


重さや形を自由に変えることが出来るので、魔トレ用に聖剣を手に馴染む腕輪に変形させる。


「さて魔トレ続きをやるか・・・」


近くの岩に手を掛けた瞬間だった。


「ということはあなたは転生者なのですね・・・・」


後ろから声がして振り向くと土が人の形をして動いていた。


「えぇっと・・・・なんかウネウネしてるんだが・・・」


「えぇウネウネしていますとも・・・・・申し遅れました、私はヤツハシと申します。」


「名前からして転生者か・・・」


「はい、アルドリア王国の国防を任されているものです。あなたをスカウトしたくて来ました。」


「さっきのを見てたのか・・・」


「はい、かなり便利な転生特典をお持ちのようで、魔力もそれなりにありそうですし。」


付近に本体の気配はなく、土魔法をかなりの範囲で遠隔操作しているように見える。

明らかに敵に回すよりも仲間にした方が良さそうなタイプだ。

それに国の情報が手に入るのが大きい。


「スカウト役にはバッチリな魔法だな・・・・」


「えぇよく言われますよ。本体の方も暇ではないので・・・・報酬はいかが致しましょう?」


そいつは手なれた様子で呟く。相当数の転生者のスカウトをこなしているようだ。


「なら、その魔法の使い方ってところでどうだ?」


「えぇいいでしょう。こちらもそのぐらいの条件でスカウトできて幸いです。」


「安値を掴まされた感じだな・・・・」


「まぁ他にも協力はさせていただきますよ。それでは明日にでも王国内の王城にてお待ちしております。」


土人形はその場に土塊となり消えた。


「魔法でこんなことも出来るんだな・・・」


後日アルドリア王国の王城を尋ねると、門の付近に例の土人形がウネウネと待っていた。


実際には土人形は不思議なダンスを踊って居たのでこの場合、という言葉が正しいだろう。

近くにいた兵士は異様なダンスを見ても驚くこともせず平然としていので、有名人なのだろう。


笑えそうなシュールな光景の一部に加わりたくなかったが俺は渋々近づく。

俺を見つけると土人形は手を振る動作をする。


やめて欲しい・・・・


「お待ちしておりました、コウ様。こちらに・・・」


「あのダンス踊るのやめないか?」


「あれをやると魔力の乗りがいいんですよ。それにアピールもできますし。」


「へー」


これ以上聞きたくなかった。



王城の地下に案内されると、そこには前世で見た病院のような清潔感のある通路が広がっていた。

石レンガの壁から一変するその風景は圧倒的な違和感を放っていた。


「これは・・・」


「私が接収いたしましたもので。転生者の方々を配慮した作りになっております。」


「すごいな。」


「少々ここでお待ちください。」


案内された待合室に数人の若者がいた。おそらく転生者だろう。

そこには転生者としてマークしていた、ロウウェルの姿もあった。

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