第2話 真実は?

「ようやく会えたわ。初めまして、ジルバードお兄様。妹のミーナです。」


「何を言っているんだ?

 俺の妹はここにいるシルフィーネだけだ。」


「ええ?その子はただの養女なのでしょう?

 私はジルバードお兄様とちゃんと血のつながった実の妹です。

 母親は違うけど…本当の妹よ。妾の子なの。」


「妾の子?父上の?」


「…お義父様に愛人が?」


あまりのことに言葉が続かない。この子がお義兄様の異母妹…本当に?

お義父様に愛人がいるという話も愛人の子がいるという話も聞いたことが無い。

周りにいた学生たちにも聞こえたようでざわつき始める。


「…お前の言い分はどうでもいい。俺の妹はシルフィーネだけだ。

 お前に関わるつもりは無い。今後は話しかけてこないでくれ。」


「えっ。どうして?やっと会えたのに!」


「…シルフィーネ、行こう。」


「やだ!お兄様、行かないで!」


お義兄様に冷たくされてもあきらめきれないのか、

すがりつくように制服をつかまれたが、それもすぐに振りほどいた。

まるで汚い手でさわられたように、不快だという顔でにらみつける。


拒絶されたのが信じられないのか、ミーナの目が潤んでくる。

あ、泣いちゃう?と思ったが、シルフィーネも関わらなくていいと言われ、

お義兄様に引っ張られて校舎の中へと連れて行かれる。


「…お義兄様、彼女はほっといていいのですか?」


「あれには関わるな。父上に愛人など聞いたことが無い。

 あんな風に貴族に取り入ってくる平民がいると聞いたことがある。

 おそらくその手のものだろう。

 シルフィーネも近寄らないように。」


「そうなのですか…わかりました。」


愛人の子だと言って取り入ってくるなんて。

そんなことをする平民がいるとは聞いたことが無かったけれど、

お義兄様がそういうのなら近づかない様にしよう。


でも、ちょっとだけ心配で振り返ったらミーナが泣いているのが見えた。

数人の男子学生が近くに行って慰めているように見える。


水色のサラサラしたまっすぐな髪。すらりとした長い手足。

女性にしては少し身長が高いのに守ってあげたくなるような雰囲気。

色気のある一重の目は濃い青色。水属性が強く出た色。

まるで…お義兄様を少女にしたような顔立ち…似ている。

並んだら間違いなく兄妹に見えただろう。


…お兄様の血のつながった妹。

もし、それが本当なら…私がこうして甘えることはできなくなるんだろうか。

不機嫌そうなお義兄様にそれ以上聞くことはできなくて、そのままついていく。



私の教室まで案内してくれると、お義兄様はもう一度私の頭を撫でた。

さっきまでの不機嫌さは落ち着いたようだ。


「二年の教室はこの一つ上の階にある。

 昼休憩になったら迎えに来るから一緒に食事をとろう。

 まずは午前中、頑張っておいで。」


「はい。頑張りますね。」


柔らかく微笑んだお義兄様を見送って、教室に入る。

この教室は高位貴族用の教室だ。

学年ごとに、侯爵以上、伯爵、子爵以下、平民の四教室にわかれる。

身分で区切ってしまっているので人数はばらばらだが、

同じ教室内の身分差が大きいと授業に差し支えるので仕方ない。


今年の一学年の侯爵以上は五名。そのうち令嬢は二人だけ。

私ともう一人、オータン侯爵家のエリーヌ様だ。


この国の貴族は大きく四つに分けられる。

火、水、土、木、それぞれの属性を持つ公爵家が四大公爵家と呼ばれ、

同じ属性を持つ貴族がその下に分家として存在する。


オータン侯爵家は火の公爵家の分家で、エリーヌ様の属性も火。

赤髪に朱色の目。情熱的というよりは攻撃的な性格に思える。


公爵家の私と侯爵家のエリーヌ様は、本来なら私のほうが格が上になるのだが、

子爵家の生まれの私よりもエリーヌ様のほうが血筋がいい。

そのため身分的にはほぼ同格とされている。


身分的には、というのは…


「あら、お早いですのね。シルフィーネ様。」


「ええ、お義兄様と一緒に来ましたので。」


「お義兄様、ねぇ。」


いつもエリーヌ様は私を見下すような態度をとるからだ。

バラデール公爵家は先代公爵夫人が元王女だということもあり、王家に次ぐ名家だ。

それなのに分家の子爵家から引き取られた私が、

自分より格が上のバラデール公爵令嬢になったのが許せないらしい。

事あるごとに血のことを言われるので、お茶会で顔を合わせるのが嫌だった。

ここしばらくは、なるべく挨拶以上の会話はしないように避けていた。


それが、これから三年間も同じ学園の同じ教室。しかも令嬢は二人だけ。

この状況では避けることができない。

ため息が出そうになるのをおさえ、微笑みを作る。


「聞きましたわよ?ジルバード様の本当の妹があらわれたと。

 大変でしたわねぇ?」


「…あれは違います。お義父様に愛人など聞いたことがありません。」


「あら!知らないのですね。有名な話ですのに。」


「え?」


「バラデール公爵家が所有している平民街の家に愛人親子を住まわせていると、

 もう何年も前から噂されていますのに、本当に知らないと?」


「…何年も前からの噂?」

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