【KAC20233】小説が考えられなくて頭がぐちゃぐちゃである

猫月九日

僕の感情は

 底辺Web作家であるところの僕は、あまりのその不甲斐なさかに天才ハッカーである妹にノベリストAIロボット、アイザックを与えられた。

 そして、今日もアイザックと共に、小説を書いていきます。


 世の中には、様々な音があります。

 例えば人の声だったり、車が走る音、動物の鳴き声、換気扇の音、さらにはスピーカーから流れてくるBGM。

 すべてが何かしらの周波数を持った波、これを音と言います。

 そのすべての音を文字を人が表現することは不可能です。

 例えば、物を動かす音を人が表現する時、きっと『がたがた』や『ごとごと』のように表現するでしょう。

 しかし、実際に聞こえてくる音が『がたがた』、『ごとごと』と鳴っているわけではありません。

 実際に聞こえてくる音でなぜ表現しないのか、それは人の口や文字でそのままを表せないからです。

(まぁ、私はできますが)

 それはさておき、そういう人が表現できない音でも、表現し伝える必要がある音があります。

 そのために、人は無理矢理に音を表現しました。それが擬音になります。

 ぐちゃぐちゃもその一種です。


「……なるほど?」


 とあるWeb投稿小説サイトのアニバーサーリーイベントのお題、’ぐちゃぐちゃ’について物書きAIのアイザックに尋ねた結果がこの長文だ。


「うん、それって擬音の説明じゃない?」


 一応最後に、ぐちゃぐちゃにも触れてるけど、11行のうちの1行だけだよ?

 しかもそのうちの一行は自慢だし。

 そりゃお前はAIだしロボットだからそのままの音を表現できるだろうよ!


「ではマスターさんは擬音というのを理解していたのですか?」


「えっ?いや、なんとなくは知ってたけど」


 確か小学校とかで習うよね?

 物の音や何かを表現する言葉だっけ?あんなに長文で擬音の説明したことないけど、大体イメージとはあっている。

 僕がそう言うと、アイザックはひどく驚いた表情をする。


「ま、まさかマスターさんが擬音を理解してなどと」


「お前、僕のこと馬鹿にしてない?」


 これでも、底辺とはいえ、Web作家志望だ擬音くらいわかる。


「というか、そもそも、この’ぐちゃぐちゃ’って擬音でいいのか?」


「と、言いますと?」


「うーん、なんていうか、’ぐちゃぐちゃ’って言われてまず思い浮かんだのって’感情がぐちゃぐちゃ’、みたいな表現だったんだよね」


「感情にぐちゃぐちゃ?悲しいとかそういう意味ですか?」


「なんだろう、ちょっと違うような?もっとなんとも言えない感情を表す表現だと思うんだけど」


 例えるなら、こう……


「いろんな感情が混ざり合ってるみたいな?喜びと、怒り、悲しみ、楽しさ、そんな全ての感情が混ざった感じ?」


「よくわかりません」


 アイザックは難しそうな顔をする。

 うん、こういうの人間でも難しいんだもん、AIのアイザックには難しいよなぁ。


「そういう意味で、アイザック的にはぐちゃぐちゃって?聞いたのはそういう意図」


 まぁ、返ってきた擬音の説明だったけど。


「ぐちゃぐちゃ=つぶれたりぬれたりして、めちゃめちゃになるさま。ですので、物に使う言葉だと認識しています」


「うーん、めちゃくちゃになるってのは感情でもありえるかなぁ」


「私からすると全て別のパラメータですし、めちゃくちゃにはなりませんが」


 AIにとっては、喜怒哀楽はただのパラメータですか……


「やっぱり人間って難しいよなぁ……」


「くっ、このアイザックにわからないことがあるなどと」


「お前、結構そういうの多いけどなぁ。まぁ、わからないってよりはずれてるけど」


「なにか?」


「なんでもない」


 とは言え、どうしたもんか。

 いくら考えたところで、お題は変わらない。


「うーん、どうしたもんかな。まさか擬音がお題になるとは思わんかったよ」


 少なくともアイザックにとって人間の感情はかなり苦手な分野と言っていいと思う。

 そのアイザック頼りにしてきた僕にとっては致命傷だ。


「大人しく、雨でぐちゃぐちゃになりましたみたいなお話を書いては?」


「それでもいいんだけどなぁ……」


 でも、なんか納得ができない。

 この感情何て言うんだろうなぁ。


「あー、もうわからん!」


 なんかぐちゃぐちゃしてきた。


「ん?」


 あれ?


「ぐちゃぐちゃだ」


「はい?」


「今の僕の感情、ぐちゃぐちゃだ」


 表現できないなんとも言えない感情。

 それを無理矢理に表現するならぐちゃぐちゃになる。


「なるほど、では、その感情を小説にすればいいのでは?」


 表現できないからこそ生まれた擬音。

 そして、さらに説明できないその感情を共有する手法として小説を書くのだと思う。

 しかし、


「底辺Web作家にそんなことできるわけないだろうが!」


 底辺どころか最底辺だぞ。


「自分で言うんですね」


 そういう、アイザックはなんとも言えない表情をしてきた。

 無理矢理に表すのならば、’ぐちゃぐちゃ’だ。

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