不細工なチョコケーキへのお返しは

ここから始まるストーリー?!

 間近に迫ったホワイトデー。


 さて、どうしようか?


 俺はケーキ屋の前で立ち尽くしていた。

 入るのはちょっと……。

 甘いものは苦手じゃない。

 むしろ、減量に差し支えあるくらいなのだが、


【ホワイトデーフェア!】


 これ見よがしな看板の戸を開けられるか?


 何を目的としているかなんて、まる分かりじゃないか!!


 冗談じゃない。

 俺は生まれて18年、バレンタインデーに一粒さえもらったことがない。


「はあ? そんなもん、彼女にもらえ」


 重量級の柔道選手の俺がモテないのを知っていて、姉ちゃんはケタケタ笑いやがる。


「いらねえよ、そんなもん!」


 売り言葉に買い言葉だが、そもそも俺から訊いた時点で……。

 性悪の姉にはお見通しだ!


 ガラス戸に映った人影が怪訝な顔をしている。

 取りつくろってキュッと顔を締めれば、今度は逃げて行った。

 そんなに俺の顔て、怖いか?


 「どっちかてえと、愛嬌あると思うけどな」


 あいつだけは、明るく笑ってくれる。


 俺は憧れのオリンピック選手の大学へ行く。

 彼と共に俺もと、今までがんばって大会の成績も上げてきた。

 辛い減量にも耐えてきた。


 思えばあいつとは友達関係でずっと。

 それが心地よかった。

 

 2月14日の夜中だった。


「……ん!」


 呼び鈴に応答した姉ちゃんが、またいたずらっぽいニヤニヤした顔で、


「あんたに用事だってさ」


 出て見たら、幼馴染からもらったのは不細工なチョコケーキだった。


「落とした」


 真っ赤な顔で渡されたそれは、どう見ても、落として潰れたわけじゃない。


 


 それから俺は入学の準備や合宿で忙しく、あいつとはすれ違い。

 卒業式が終われば、別々の道へ。

 すれ違いのままで?

 冗談じゃない!!


 よし、決めた!


 きびすを返す。


 きっと俺の顔は試合直前のきつい形相になっているだろう。


 見てろよ。


 この俺が初めて菓子作りに挑戦だ。

 きっとぐちゃぐちゃになるだろうが覚悟しておけよ!!


 そして、同時に……。


 試合より緊張するわ!!

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