ねじまきの小噺
立花 橘
第1話 全能者屋
「全能者ぁー、全能者はいりませんかぁー」
歪な紋様をかたどった仮面を被り、その身なりは薄汚れている一人の男が、怪しげな屋台を引いて歩いていた。
「あら、もうそんな時期なのね。せっかくだし、一つ買って行きましょうかしら」
「いけませんお嬢様。全能者であれば、私がしっかりとした全能者屋で買ってまいりますので…」
「まぁまぁいいじゃない。ね、店主さん。お一つ頂戴な」
どこかの令嬢かのような女は、お付きの者の静止も聞かず、ニコニコと笑って店主に話しかける。
「それではぁ、こちらをどおぞぉ…」
ガラガラガラと音を立てて、店主の引いていた屋台の扉が開いた。中から、真ん丸とした小綺麗で真っ白な機械仕掛けの球体が現れた。
「まぁ素敵。ちょっと試してみても?」
どうぞどうぞ、と促すように、店主はその球体を女の方に差し出した。
女はそれを、持ち上げてみたり小突いてみたり。
或いは、えい、と水をかけたり。
何をしてもただピコピコと怪しげな光を放つばかりのその球体に、どうやら彼女は酷く惹かれたようで。
イタズラをする子供のような声色で、一つそれに頼み事をした。
「ねぇ貴方。『重すぎて何者にも持ち上げられない石』を作ってちょうだい」
「お嬢様…!」
それは、無理のある願い。
女は口元を抑え笑いを堪える。恍惚とした表情で、困惑する球体を眺めていた。
「お客様ぁ…無理言っちゃいけませんよぉ…」
困ったように、店主が球体と女の間に割って入る。
「あら、そうかしら。でしたらやっぱり、全能性の定義が甘いのね」
「……と、言いますとぉ?」
ふんわりとした呑気な声で、店主は女に問う。
「全能である、ということを、『はなから何事にも縛られず行動できる』。そう仮定したなら、全能者は、人間の理解に縛られてはいけないんじゃなくって?」
理解したような、していないような。もしくは興味がないような。そんな様子で、店主は首を傾げた。
その様子を見た女が、パン、と手を叩く。
すると、彼女の背後にいた付き添い人が、いつの間にやら両手に盾と矛を取り出していた。
「店主さん、盾を持って」
言われるがままに、彼は盾を手にする。
「貴方が手にしているのは、『どんな矛も防ぐ盾』。そしてこっちは、『どんな盾も突き通す矛』。ねぇ店主さん、この矛でその盾を突いたらどうなるのか、分かるかしら」
「さぁ…どうなるんでしょうねぇ…」
間髪入れず、女は答えた。
「こうなるのよ」
「はぁ…不思議なもんですねぇ…」
ねじまきの小噺 立花 橘 @nezimakitokage
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