スライム達は魔王軍に叛逆したい!!

神白ジュン

第1話 散って行った同胞達の恨み辛みを何倍にもして

 万年雑魚敵として扱われるスライム。


 今まで勇者や一般の村人達にすら蹴散らされてきた数は計り知れない。


 しかも最近では、魔王軍からの扱いも酷くなってきた。

 どうやら属性を持ったスライムはあらゆる方法で溶かされ、ぐちゃぐちゃにされた後加工され、魔法能力を底上げするアクセサリなるものに変えられているらしい。


 どうやら幹部の研究員の一人が、ある日このような強化魔導具を偶然発明してしまったらしい。


 なんと残忍なことを。いくら種族の中では数を増やしやすい魔物とはいえ、あまりにも扱いが酷すぎやしないか。


 しかも魔王は軍を上げてそのアクセサリの増産を推している。


 スライム達は思った。

 

 早く何か行動を起こさなければ種が根絶やしにされてしまうのではないか。


 これは、もはや叛逆するしかないのでは。


 


 だが、現実は非常である。


 属性持ちで魔法を使えるスライムですら、魔族の下級兵士に過ぎないオークやガイコツにすら勝てなかった。


 そこでスライム達は数で勝負することにした。


 幸いスライム達のボディは斬撃や打撃にはそこそこの耐性を持っていた。多少切られても種族特有のスキルでもある分裂行動によって、大したダメージにならなかった。


 加えて、属性持ちのスライム複数体による同時魔法攻撃は、そこそこの敵を蹴散らすには充分な威力を持っていた。


 微々たるものあったが少しずつ、スライムの軍隊は下級魔族の軍を押し返していった。



 だがそこに大きな障壁が現れた。


 魔法を使える魔族の登場だった。


 魔法耐性というものはほぼ皆無に等しいスライム達にとって、彼らは天敵だった。

 

 彼らは炎魔法でスライム達を溶かしたり、氷魔法で凍てつかせたりした。


 数で押すにも、広範囲に攻撃できる魔法の前に、手も足も出なかった。


 案の定、数多くのスライム達がドロドロ、ぐちゃぐちゃにされ、原型を留めることなく散って行った。


 万事休すかと思いきや、一体のスライムがとあることを提案した。


 それは、一つに合体してしまうことだった。


 結果、これまでとは違い多くの属性を持つスライムが合体することで、少しずつ各属性にも耐性ができ、加えて能力値も大幅に上昇した。


 数で戦うということを捨て、大きな一つの個として戦うことを選んだスライムの選択は正しかった。


 多少の魔法ではびくともしない巨大なスライムは、敵対する魔物達を巨体で押し潰しながら進んでいった。


 この時、スライムは偶然倒した魔物の一部を吸収することに成功した。そして、獲物を捕することを覚えた。


 

 結果、数時間前よりも数倍に膨れ上がった巨大なスライムは、魔王がいる城を目指し進行していくのだった。


 

 


 魔王城の壁前には、これまでとは比にならない程の強さを誇るであろう魔物達がひしめき合っていた。

 もはや数えきれない程の魔物達は、半ば興奮状態でそのスライムの到着を待っていた。


 巨大化したといえたかがスライム。ここに集結した魔物のほとんどが、そして魔王自体も甘く見ていたに違いない。


 

 遂にそのスライムが姿を現した。


 想像以上の巨体に怯み腰が抜けてしまうような個体も一定数いたが、基本的にそこは訓練された魔物達であった。


 各々が得意な武器を用いて次々と特攻していく。

 

 魔法が得意な者はそれぞれ強力な魔法を遠距離から撃ち込んでいく。


 しかし、いくら切ろうが殴打しようが魔法が着弾しようが、効いている様子が見られなかった。


 スライムは複数の魔物を取り込んだことで変化を遂げていた。斬撃耐性や打撃耐性、魔法耐性はおろか、攻撃面でも取り込んだ魔物達の特色を喰らい、自分のものとしていた。


 だが、スライムは魔物達に攻撃しようとはしなかった。




 なぜなら…喰らうためであった。


 いくら攻撃しようともびくともしない相手に怖気付き、逃げようとする者が出始めた。


 だがスライムはそれを見逃さなかった。


 突如ぐちゃぐちゃにどろけたかと思うと、数十体に分裂した。

 分裂したといえ、素の巨体は魔王城に匹敵してもおかしくない大きさであったため、魔物達からすれば巨体であることは変わらなかった。


 そして、一方的な蹂躙が始まった。


 それぞれの個体が自分自身の体を自由に変形させ、餌を刈り取っていく。


 あるものは数多の触手のような物でひたすらに捕まえ、またあるものはドロドロに液状化し地面に溶け足を奪うことで一網打尽にした。


 スライムに捕まった者は一瞬で意識を奪われ、ぐちゃぐちゃに溶かされ、吸収されていく。


 一滴も血は流れない。なぜならそれすら全て吸収してしまうからだ。



 全てが終わり、再びスライムが一つに合体すると、それは既に魔王城の大きさを遥かに上回っていた。



 最後の仕上げと言わんばかりに、スライムは巨体をさらに広げ、まるで魔王城そのものを喰らいつくすがごとく、巨体で城を包み込んだ。


 おそらく逃げられなかった者は即死であっただろう。


 

 ついに魔王が出てきた。


 怒り狂った魔王は自分が使えるありとあらゆる魔法をスライムに撃ち込んでいた。


 

 しかし、そのどれもがスライムにとってはこそばゆいものでしかなかった。


 

 そして、複数本の腕とも言えるような触手が魔王をついに捕らえると…



 一瞬で喰らい尽くした。



 

 空は曇天であった。

 その地には、もはや巨大なスライムの蠢く音しか響かなかった。

 

 何もかもを吸収しながら、ついに復讐を遂げたスライムであったが、果たして自我どの辺りまであったのであろうか。

 

 もはやスライムの色は当初の透明色から澱み濁った色に変わっていた。


 他種族を喰らい始めてからというもの進化の代償として失ったものも大きかったのではないか。



 

 全てを喰らい、目的を果たしたはずのスライムは進むのをやめなかった。


 まるでこの大陸の生命全てを喰らい尽くさんとするがのごとく、ゆっくりと、だが着実に進んでいくのであった。

 

 


 


 

 

 


 



 


 


 


 

 

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