ぐちゃぐちゃ馬コ🐴

スロ男

Lasciate ogne speranza, voi ch'intrate'

 冬至の頃になると村のこども達がそわそわしはじめる。森丘もりおかの風物詩であるぐちゃぐちゃ馬コが迫っているからだ。

 ぐちゃぐちゃ馬コはそれほどメジャーな祭ではないので知らない人も多いかもしれない。そもそも森丘村を知っている人もあまりいないだろう。

 中国伝来のビャンビャン麺を和風にアレンジした森丘ビャンビャン麺がラーメン通には知られているかもしれない。

 とはいえ、奴等は温泉に入りもせず、食べるためだけに湯河原に行くような連中なので尺度になるかどうかは怪しいところだ。


 元々ぐちゃぐちゃ馬コは神事である。寒い地方の、いよいよ寒さと飢えが酷くなっていく時期に、せめて気持ぐらいは暖かくいたい、春になったら豊かさが待っててほしい、そう祈る素朴な土着信仰の。


 兵児赤へごあかと呼ばれる稚児ちごが、蒼然様と呼ばれる化生けしょうへの供物として、着飾った馬コに連れられて自ら村の先の崖まで行き、連なりながら落ちていく——というのは伝承の話で、きっと天明の頃にでも口減らしとして行われた出来事が、祭事と混淆こんこうしているのだろう。


 現在は勿論そんなことはなく、蒼然神社と呼ばれる社に色とりどりに着飾った馬コを、兵児赤へごあか役のこども達が連れていくだけである。少子化のこの時代、ましてや限界集落と呼ばれかねないこの村で、こどもの数を減らすなどあり得ない。


 しかし、である。

 名称の由来となった「ぐちゃぐちゃ」を無視するのも塩梅あんばいが良くなかろうと村の青年部での声が大きくなり、ならばここはこれからひたすら増えていく年寄りの力を借りようということになったのだった。


「——というわけですので、あなた方に集まってもらったわけです。本当にこんな辺鄙へんぴな村までご苦労様です。あなた方は面倒を見てくれる子らがいるわけでもなく、生産性もなく、医療費や福祉予算を食い尽くすだけの人たちです。最後にね、こう、ぐちゃくちゃっといっちゃいましょうよ。ね?」

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