31.少女のとある日(1/2)

(……?)


016は目を覚ました途端、違和感に起き上がる。


辺りを見回すと、スクールバッグの様なものが散乱していたりする。


(あっ、足が……)


そして、手錠の様なもので固定されている片足に気づく。


016が違和感に段々気づいてきている頃、


ガチャッ…


「?」


扉が開く音と共に、パーカーの男一人と黒服二人が部屋に入ってきた。


(誰だ……?)


見覚えのない人影に首を傾げていると、パーカーの男はぐいっと近づいて口を開いた。


「今日はあんまり怖がらないね」

「……?」


016に男の発言の意図は分からなかったが、今のこの状況……足の自由を奪われて知らない男に迫られているこの状況は結構危険なのではと気づく。


「……待て!僕に寄るな!」


016は咄嗟に声を荒らげる。


……が、


(何だ?僕の声じゃない……?)


聞こえる声は自分のものとは全く違い、016は混乱してしまう。


「へぇ……今更抵抗するんだ」


その言葉に反応し、パーカーの男は混乱する016を置いて話し出す。


「……でも、」


「『僕』ってつらじゃ、無くない?」


男はそう言って、腹部めがけて強く蹴りを入れる。


「がっ……!」


その途端、016に凄まじい程の痛みが走り、それと同時に感じていた違和感の正体が分かった。


(違う!誰の体だ?少し蹴られただけでこんなに痛みが来るなんて……)


「ほらー、余計痛い目見る……」


016が長い髪を確認しているうちに、パーカーの男は馬鹿だなぁと言うように話す。


「……それより、今日はお願いしないの?」

「?」

「早く殺してください……って」


男の言葉に、016は一瞬呆けた表情になるものの、すぐに腕を組んで眉をひそめて口を開く。


「は?……誰が」


その態度に、さすがに男も意外そうに目を見開く。


「驚いた、今日は別人みたいだ。……ついに壊れたか?」

「……」

「……まあ良いけど、今日はせっかくお望みを叶えてあげようと思ったのに」


(それって……)


016の頭の中には、先の男の言葉が蘇る。


あの男は、確かに『早く殺してください』とお願いしないのと聞いていた。


そして今お望みを叶えてあげるということは、つまり……。


ガチャッ


「……この子?」


016が考えていた途中、扉を開ける音と共に声が聞こえてきた。


(えっ、この声……)


「れいちゃん?!」


最初に入って来た3人には見覚えが無かったものの、その声には、016は確実に聞き覚えがあった。


「は?何言って……」

「……誰?……会った?」


僕の声にパーカーの男が困惑するものの、それを遮って『れいちゃん』と呼ばれた人物は話す。


「僕だよ!016……こんな姿だけど、016、だよ……」

「……016?」


016の言葉に反応して、『れいちゃん』は深く被っていたフードをとる。


すると、そこに現れたのは黒髪をパーカーの中に入れた少女だった。


「016を知ってるの?……変な子」


少女は016に近づいて、そんな事を呟く。


「そ、そうじゃなくて……」


少女に近づかれて、016は明らかにぎこちなくなる。


そんな様子を見て、少女はパーカーの男の方を振り返って口を開いた。


「……ねぇ、ちょっとこの子と2人で話すから」

「ですが……」

「待て!下がれ!」


黒服の一人が止めようとすると、それを焦った様子でパーカーの男が止める。


「……何か意図があるんだよ、あの人は」


そのまま、パーカーの男は黒服にそっと耳打ちした。


「知ってるだろ?かつてあの人に情で訴えて、助かった奴があるか……?」



***



「それで……今何が起きてるか、把握してる?」


2人きりの空間になり、少女は016にそう問いかける。


「いや……この体が誰のかも、分かんなくて……」

「……そう」


それに016が困った様に答えると、少女はそれだけ返事をして会話が途絶える。


「……でも、」


すると、016は表情を柔らかくして話し始める。


「キミが生きてる事が分かっただけでも嬉しいな……もう7年か、そろそろ8年くらいになるからね」

「……そう」


熱っぽく語る016だけれど、反面、少女の反応は薄い。


その温度差に気づいていないのか、016は意気揚々と話し続ける。


「でも……今まで何処に居たの?……帰ってくるって約束したのに、一度も姿を現してくれなかったし……」

「……」


そんな016に呆れたのか疲れたのか、少女は健気な表情で返答を待つ016を冷たく見下ろしてから、


「あなたとそんな約束してない」


と、突き放すように言った。


それに、016は誤解を解こうと声を荒らげる。


「ち……違うって!016と、そう約束……したでしょ……?」

「……あなたに関係ある?」

「分かんないかな……僕がその016なんだってば!」


話の通じないもどかしさに016が声を張ったものの、少女は相変わらずの温度で対応する。


「……鏡、見てみたら?」


少女はそう言ってしばらくその場に散乱していたスクールバッグの中を漁り、見つけた鏡を煽る様に016に渡して来た。


(……えっ)


それを素直に受け取って見た016は、そこに写った人物に絶句する。


「何で……この顔は……」


そこには、彼が『仕事』で貰った写真と全く同じ人物……


……昔の幸の姿があった。

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