6.拠点と秘密
「ん……」
幸は何かが動く感覚に目が覚める。
「……」
幸はしばらく経ってから状況を理解する。
自分の頭を抱いて016が眠っていたのだ。
ゆっくり起き上がろうとしても、かなりしっかりと抱かれていて身動きが取れない。
「…ね、ねぇ、!」
「ん……」
幸は仕方ないけど起こそうと思い大きめに声を張り上げると、016は身動ぎしてからすぐにパチッと目を開けた。
「えっ…」
「おはよ」
「……おはよう…」
余程びっくりしたのか、016は寝転んだまま目を見開いてまじまじと幸を見た。
(確かに僕は、あの薬を…)
「た…い調、大丈夫なの…?」
「うん。もうバッチリ」
「……」
起き上がってしばらく放心したようにしていた016だったが、「?」という顔で幸に見られて、慌てて立ち上がる。
(とにかくあれはもう無い…から…)
「で、これからどうするの?隠れ家じゃないんでしょ?ここ」
「……」
(僕も決めてないよ…)
016は困ったように口をつぐんだ。
…でも、こればっかりは答えなきゃいけないと思い、「一日だけ待って」と言った。
「分かった」
幸はそう答えて軽く笑った。
****
「…さすがにお腹空いたなぁ」
昼を少し過ぎた頃、幸はそう呟いた。
それもそのハズ、昨日の夕方屋台で軽く食べてから、2人は何も食べていなかった。
「……」
016は苦い顔をしてチラッと幸の方を見る。
「…我慢しろってならするけど、ずっと食べなかったらそれこそ死ぬぜ」
幸はその視線で察したようにものを言うが、016は「違う」と言って立ち上がった。
「……仕方ない。一回出よう」
そう言う016の顔は明らかに嫌そうだったけれど、急ぎ足で扉に向かう彼に幸は何も言えなかった。
「……」
(来る時は何とかなったのに…)
そんな事を思いながら、016は『キー』を扉に付けて触れる。
「…!君は……」
その後の彼を見て、幸は驚いたように目を見開く。
016は目を伏せながら扉を開けた。
「……あんまり見ないでくれ」
(こんな形で出るつもりは、無かった…)
***
「……」
016が黙ってシャツのボタンを閉めるのを、幸もまた黙って見つめていた。
「…僕がキライになったかい?」
フッと笑うように口角を上げて虚空を見つめながら、016はネクタイを首に掛ける。
幸はそれを聞いて、静かに、ゆっくりと彼の方へ近づいた。
トッ……トッ……ト……
そして、彼の真後ろで止まる。
「……」
あんな事を言いつつも、小刻みに震える016に幸は、
「ネクタイって、こう結ぶんだろ」
と、後ろからキュッとネクタイを締めた。
「そんな震え手じゃ結べないぜ」
「……」
アレを見ても、いつものように接する幸。
「……泣くなよ」
「っ…」
そんな幸に、016は思わず泣いてしまった。
「誰がいつ、君の事をキライになったって?……笑わせるなぁ」
幸の言葉に、016はわっ、と盛大に泣き出してしまった。
「な…そ、そんなに泣くなって……な?」
「な、泣かない……泣かないよ…」
そんな事を言いながらしゃくり上げる016を見て、幸は、
(ガラじゃないけど…)
なんて思いながら、016の頭をポンポンと触れるように撫でた。
「……私…そう、私はな……君のこと、好きさ…」
ちょっと言いにくそうに顔を赤らめながら言う幸に、016もつられて赤くなる。
「『私』なんていつぶりに……って、何だよ、そんな顔するなよ」
そのまま空気を戻そうとしていた所に赤面している016を見つけて、幸は更に恥ずかしくなってしまってぶっきらぼうに自分の袖で彼の目元をぐしぐしと擦る。
(あぁ、もう……何で今更こんな感情が…)
涙を横から拭かれながら、016は考えていた。
(助けて……僕にはもう無いと思ってたのに……こんな……何でこんな……)
016は十分に涙を拭かれた後、幸の方を向いて背伸びする。
(……めんどくさい感情が…)
幸はそれで察して、ゆっくりと頭の位置を下ろして口付けする。
(……あぁ、やっぱり…)
( 死なないで…… )
『おい、お前』
「!」
その途端、016の頭の中には男の声が響く。
焦ったようにバッと離れる彼に、幸はびっくりして目を瞑る。
『…お前、これが仕事だってことを忘れるなよ』
『それ以外は知った事じゃ無いが、仕事はきちんとこなして貰わないと』
幸が目を開くと、目の前にはどこかを見つめて目を見開き、冷や汗をだらだらとかきながら黙りこくる016。
「……」
『な?分かるだろ?』
(僕は…)
焦る様子を見つめる幸。
016の脳内に聞こえる『お父さん』の声。
(……僕は…)
(あの人には……お父さんには、逆らえない……)
ガチガチになりながらゆっくり幸から手を離す016を、幸は無言でじっと見つめる。
(そう育てられたんだ、僕は…)
瞬きもせず右下の何も無いとこを狂ったように見つめ続ける016を、幸はあえて深入りせずに、
「ん?どうした」
と軽く言った。
その言葉に016は、救いを求めるようなか弱い瞳で幸を見つめる。
「…しっかりしろよ」
……が、幸はそれをあえて突き放す。
(こういう目する癖に、聞いたら答えてくれないんだろうな)
「……それで?この後どうすんだ」
幸の考えはおおよそ間違っていなかった。
話題を変えられると、016も普通に考え出して、目を閉じた。
(普通に考えて……この子に死んで欲しくないなら、まず僕がお父さんの呪縛から逃れないといけない…)
そして、目を開いた016は一言、
「…旅だ」
と言った。
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