5.少年の仕事(5/5)
バンッ…。
「……」
016は酷く冷静だった。
発砲音と一緒に飛んできた弾を、自分ごと幸を突き飛ばして避ける。
「!!」
その拍子に幸がバランスを崩し、勢い良く地面に向かって落ちていく。
「っ……」
反射で目を閉じて、ぐっ…と、これから来るであろう痛みに耐えようと幸が体を強ばらせていると、
「……?」
いつまで経っても痛みが来ない。
「…!」
恐る恐る目を開けると、幸は頭と背中を016に優しく抱き抱えられていた。
「……」
幸が目を見開いて、その光景をぼーっと見ていると、
バンッ!!
「!!」
ハッと気づいたように016は幸から片手を離し、その手に持っていた小型の銃で弾が飛んできた方を撃つ。
撃たれた茂みから、ドサッ…と音がして一人の人が倒れる。
その間幸は、至近距離から放たれたその音にびっくりして、またぎゅっと目を閉じてしまった。
「なんであんな素人が…」
016はそんな事を呟きながら銃を持っている方の親指の爪を噛む。
「……は、やく……逃げるよ」
それから、銃を元の所……背中側に隠すようにあったホルスターにしまって、焦ったように幸に向かって話し出した。
「持ってる?キー……ねぇ、大丈夫?」
「怪我してない?ねぇ、…」
幸の頭を支えながら口々に言う016に、幸は片手を小さく肩の高さまで持って行って、
「ん……大丈夫…」
と言った。
しかし、016が安心する間も無く、
「でも、ゴメン」
幸は続けた。
***
(嫌んなるなぁ……)
016におぶられて、幸は情けない顔をする。
『先行ってて…って?キミは狙われてるんだ、分かるだろう…?』
幸は先程の会話を思い出してしまっていた。
幸がそう言った理由、それは…。
『こし……腰抜けちゃったんだよ……』
「はぁ……」
そんな恥ずかしい醜態を晒されて、幸は自己嫌悪に陥る。
(……何か眠いし……あの小さい体で、重くないのかな……。…あー…意識が……)
幸は016の小さな背中で揺られるうちに、段々と眠くなっていき、気づけば寝てしまっていた。
016はカクンとズレて落ちそうになる幸を見て、少し前の事を思い出す。
『せ…せめて背負え!それ以外なら残る!』
(でも、このままじゃ落っこちちゃうし……しょうがないよなぁ…)
016は若干申し訳なさそうにしながら、眠っている幸を落とさないように、いわゆるお姫様抱っこの形に持ち替える。
すると、その無防備な寝顔が視界に入り、016はフッと近づいて唇をギリギリまで寄せる。
「……」
…が、焦ったようにバッと顔を離して、バツの悪そうな顔で『キー』を使って扉を開けた。
****
「ん……」
幸が目覚めた時は、そこはもう見知らぬベッドの上だった。
「……おはよ」
幸のすぐ目の前のイスに座っている016と目が合うと、彼は小さくそう言った。
「うっ…」
幸は起き上がると、激しい頭痛に見舞われる。
…が、それを隠すように「…ここは?」と016に尋ねた。
すると016は、
「気休め程度の拠点。…でも、『キー』を使える人じゃないと、外からは絶対に開けられない」
と、部屋を見回しながら答える。
その部屋は殺風景で、ベッドと椅子、小さめの物置にあとは頑丈そうな扉しかない。
「ここで……これから隠れて暮らす…って事かい?」
その部屋を見て、幸は不思議そうに言う。
「何があっても死ぬんじゃなかったっけ?」
それもそのハズ、こんな厳重な場所に隠れる割には、016はいつだって『幸は死ぬ』というスタンスを崩さなかったからだ。
「それとも、何か大丈夫になったか?」
ふわふわと顔を赤らめて言う幸を見ながら、「いや…」と016は話し始める。
「ここは隠れ家なんかじゃない」
「えっ?」
聞き返そうとする幸を遮るように、016はそのまま続けて、
「……それよりキミ、昨日ちゃんと寝てないだろ」
と言った。
そして016が幸の額に手を当てると、…かなり熱い。
「酷い熱だ。辛いだろう」
そう言われて、幸はようやくその頭痛が熱から来るものであって、自分の体温が熱い事と、何だかクラクラする事に気づいた。
(しょうがない。少し早いけど……)
そんな幸を見て、016はそう考え、ポケットから何かを取り出して口に含んで近づいた。
「ね、おいで」
おでこをコツンと優しくぶつけて016は言う。
「……してると、少しは和らぐよ」
そう言って016は幸と唇を重ねる。
幸が楽なようにゆっくりと寝かせて、優しく触れるだけのキスを落とす。
「ん……」
抵抗もせずされるがままの幸。
しばらくして、その唇を016が軽く舐めた。
「ぅわっ!な、なに……」
「良いから。大きな声出すと頭痛くなるよ」
「……」
そのまま、2人のキスは深いものになっていく。
「っ……何か入れた…」
「ただの薬。飲み込んで」
「ん……」
016がべっと舌を出して舌に乗った薬を見せると、幸は納得したように大人しく飲み込んだ。
(なんだこれ……)
幸はと言うと、初めての『舐められるようなキス』に混乱していた。
それは蕩けそうな、安定しないような、……熱に浮かされているのもあり、幸は酷く意識が安定しなくなる。
(君が……君が入ってくる……)
そう思ったのを最後に、幸の意識はプツンと切れてしまった。
「……」
そんな幸からゆっくり顔を離して、016はしばらく黙っていた。
『……娘を…』
頭の中には、あの時の言葉が繰り返し回っていた。
『……娘をお願いします。…』
『…殺し屋さん』
「…終わった」
一言、そう呟く016は、酷く落ち着いた様子で淡々とそう言った。
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