理想の夫婦像

くにすらのに

カレーライス

 私が理想とする夫婦像は母方のおじいちゃんとおばあちゃんだ。父方の祖父母は物心がつく前に亡くなっているから記憶はない。

 お互いに細かいこと気にせず大らかに生きてるおじいちゃんとおばあちゃん。あんな風に老後を過ごせたら本人も周りも幸せだ。


なお、私が両親を理想の夫婦像とすることは絶対にない。なんであのおじいちゃんとおばあちゃんからあんな母親が生まれてきたのか不思議だ。

 白黒ハッキリさせないと気が済まない性格は子供時代の私を追い詰めた。お父さんも母親の言いなりで私を助けてくれない。


 一応お正月くらいは実家に帰るけど連絡はほとんど取っていなかった。


 たぶん好きか嫌いかで判断して、嫌いと決めたんだろう。


 今日も今日とてマッチングアプリで知り合った男性とデートだ。初めてのデートでは必ずカレー屋さんに行く。そして出てきたカレーライスを思いっきりぐちゃぐちゃに混ぜてやるんだ。

 その時の反応を見て、アリかナシかを判定する。


 今回もナシだった。そんなにイヤそうな顔しなくていいじゃない。友達にはバカにされるけどこれだけは絶対条件。学歴とか年収よりも重要!


「おじいちゃんはね、ご飯とカレーをぐちゃぐちゃにしたのよ。それが結婚の決め手」


 幼稚園の時に教えてもらった二人のなりそめ。三十路を目前にしてこの条件のみで婚活している。


「申し訳ありませんお客様。相席をお願いしてもよろしいでしょうか?」


「え? ええ、いいですけど」


 カレーは大好物なので婚活の判定以外でもよく食べる。普段からよく利用しているお店がテレビで紹介されたらしく、相席にでもしないとさばき切れない人数が来店しているそうだ。


「すみません。ありがとうございます」


 現れたのは一人の男性だった。たまに見かける顔で、話したことはないけど覚えている。年は三十を超えてるくらいでそう離れてはなさそう。

 バリバリ働いているような感じではなく、普通のサラリーマンという感じ。


 ぐちゃぐちゃにかき混ぜられたカレーライスを見ても彼は何のリアクションもしない。


 私は目の前のカレーを食べて、注文した料理が出てくるのを待つ彼はスマホとにらめっこ。


 淡々と時間が過ぎていく。


 テーブルに届けられたのは二種類のカレーを楽しめるランチの定番メニューだった。中央にそびえ立つ山脈のようなご飯は趣向の異なるカレーをしっかりと分け隔てる。


そんな山脈を彼は迷うことなく崩してカレーとご飯を一体にした。


 いや、それはさすがにナシでしょ。最初からそれを混ぜるのは。二種類それぞれを味わってから最後の混ぜない?


 ちょうど自分のカレーを食べ終えたところでハっとした。

 混ぜ方にすごいこだわりを持っている、と。


 私はおじいちゃんとおばあちゃんの孫であり、あの人の娘なんだ。たぶん突然変異の遺伝みたいな感じ。


 どんなに嫌いでも親子である以上は似てしまう。私に結婚は無理なのかも。

 二種類のカレーみたいに感情がぐちゃぐちゃになって、私はお店をあとにした。

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