ある晴れた日の午後に

ろくろわ

ぐちゃぐちゃになったモノ

 佳子よしこは変わり果てた部屋の中にいた。


 元はと言えば彼が悪い。「お前には無理だ」「お前は何も出来ない」何て言うから。だから私も感情的になってしまって。

 あぁ、もっと準備をしておけば良かった。

 道具も色々あったし、方法だって他にあったはずだと今更ながら後悔した。

 しかしこうなった以上仕方がない。私はスマホで偶然見つけた掃除屋に電話をかけた。

『お客様の素性は一切お調べしません。掃除屋黒木』

 そんな怪しい掃除屋に。



 黒木は新人の山川と依頼主の女性向けのワンルームマンションに来た。

 呼び鈴を鳴らし玄関に入ると鼻を突く異臭で思わず顔を背けた。玄関からでも分かる惨状。掃除屋として日の浅い山川は顔を青くしていた。黒木はそんな山川に車から薬剤を取って来いと目配せをした。

 壁や床に飛び散った脂や血肉は洗剤では落ちない。


 黒木は部屋の奥で項垂れている依頼主をみた。

「今から片付けます。貴方も手や服に付いた血を流して来ては如何ですか」

 黒木に促されるまで佳子は自分が酷い姿になっていた事に気がついていなかった。


 黒木はそんな佳子をみて「さてと」と呟くと慣れた手つきで壁や床に染み込んだ血肉を取り除いていく。

 こういった仕事は血が固まって染み込む前に落として行くのだが、壁や床に散らばったモノは最早原型を留めていなかった。


 黒木は掃除をしながら佳子にこの後どうするのかと訊ねた。

 佳子は焦点の合わない目で「分からない」と呟いた。

 黒木はそんな佳子に「いい人を紹介してあげるからその人の所に行くといい」と一枚の名刺を手渡した。

 佳子は乗り気では無かったものの素直に黒木にお礼を言うと「後を頼みます」と伝え部屋を後にした。





 掃除を続ける黒木に山川が話しかけてきた。

「彼女、上手くハンバーグ作れますかね?」


 黒木は笑いながら答えた。

「大丈夫さ。いい先生を紹介したからね」



 部屋に飛び散った汚れはまだ落ちそうにない。



 了





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ある晴れた日の午後に ろくろわ @sakiyomiroku

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