ぐちゃぐちゃな頭の中で

御影イズミ

『誰』が囁く?

 ――これはすべてが始まる前の話。

 ――箱庭世界『ガルムレイ』が形成されるより前の昔話。



「……ふう……」


 薄ら明かりの研究室の中、上位研究員フェルゼン・ガグ・ヴェレットはコンピューターを前にため息をつく。

 膨大な量の研究データを精査して、次に行う研究をどのような形で行うかと言ったシミュレーションをAIに任せていたのだが、どれも良い結果を得られるようなものではなく頭を抱えていた。


 彼が行おうとしていたのは世界重力の形成、および生成した重力の物理法則のチェック。

 移転用世界と言えど、人が生きるには今受けている同じ重力でなければ生存は難しく、物理法則の流れも等しくなければ立つことすらままならない。


 色々とごった返したテーブルの上で、腕を組んで頭を伏せるフェルゼン。頭が疲れた時はこれが一番休憩しやすい。

 ……けれど今日はそうもいかなかった。頭の中に住み着いた悪魔が邪魔をしてくるものだから。


『私の力を使えば、それを組み立てるのは容易なことだぞ?』

『さあ、私を表に出せ。そうすれば、お前の望むままに世界の土台を作ってやろう』

「……っ……」

『さあ』

『さあ!!』


 色々と囁いて、自分の頭の中をぐちゃぐちゃにしていくその声もまた、フェルゼンの声。

 その声の正体は幼い頃に、流れ星となって彼の右目に潜り込んで住み着いた侵略者インベーダー


 彼が憔悴しきったところで主導権を握って、思うがままの世界を作り上げて奪うつもりでいるのだろう。

 脳内をぐちゃぐちゃにかき乱すようにフェルゼンに甘い言葉をささやき続けていた。


「……俺は、抵抗し続けてやるさ」


 頭を上げて、軽く自分の頬を叩いたフェルゼンは再びコンピューターと対面し、キーボードを叩き続ける。

 世界を侵略者インベーダーに奪わせてなるものかと、執念の炎を灯し続けて。




 ――けれど、彼の執念の炎は絶えようとしている。

 ――彼が世界を奪う者へと成ったのは、それから十数年後。

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ぐちゃぐちゃな頭の中で 御影イズミ @mikageizumi

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