好きの欠片(かけら)
浅葱
私は単純なのです【完結】
※女の子同士の恋愛表現が出ます。ご注意ください※
思いもかけないことを言われて、私の頭の中はこんがらがってしまった。
好きな人がいる。
一年の時からいいなと気になっている先輩だ。友だちは私の趣味は悪いという。あんなのただ背が高いだけじゃないかって。
しょうがないじゃないか。私は自分が小さいから、背の高い人に憧れるのだ。それがたまたまあの先輩だっただけ。
あの先輩は電車の中で子連れのお母さんに席を譲ったりしていた。背が高いから、電車に乗る時頭を少し屈めるようにして乗るのを見るのもなんか好きだ。とにかく先輩のいろんな欠片が集まって「好きだなぁ」と思うようになったのだ。
「あの先輩さー、他校に彼女がいるみたいだよ~」
友だちがわざわざ調べてくれたらしい。
「……そう」
別に告白とかするつもりなんてない。ただ私が一方的に好きなだけだ。
でも校内に彼女がいる気配はなかったから、少しだけ、そう、ほんの少しだけ期待してしまったのだ。
「帰りにクレープおごってあげるから元気だしなよ!」
「アイス生チョコ」
「え?」
「アイス生チョコクレープ食べたい」
「わかったー」
友だちはしょうがないなぁと笑った。
クレープ屋でクレープをおごってもらい、それを食べたらなんかおかしいと思った。
友だちは善意で先輩の彼女の有無を調べてくれたのだ。私はそれに勝手にショックを受けただけ。なのにどうして友だちはクレープをおごってくれたのだろう。
首を傾げていたら友だちにおーい、と顔の前で手をひらひらされた。
彼女は私より20cmぐらい背が高い。
「どしたの?」
「……あのさ、私、おごってもらう理由なくない?」
「美幸がショック受けるようなこと伝えちゃった責任かな。私もクレープ食べたかったし、気にしないで~」
そう言って友だちは笑った。
「……先輩に彼女がいて、よかったけどさ」
「え?」
低い声で、友だちが何を言ったのかよく聞こえなかった。
「なんでもないよ。あ、生クリームついてるよ」
友だちはそう言って、一瞬だけ私の唇に触れた。
「……えっ……?」
「柔らかいね」
私は思わず周りを見回してしまった。店員さんも、他の女子高校生も、子どもも大人も、別に私たちのことは見ていなかった。
今のは気のせい? ううん、絶対気のせいじゃない。
「ねえ美幸、私もそれなりに背が高くない?」
「そ、りゃあ……高いと思うけど……」
運動部の彼女は、身長が170cm以上あって。今日はテスト前だから部活が休みで、それで。
じっと見つめられて、胸がどきどきしてきた。
「……私じゃだめ?」
何が? とは聞けない雰囲気だった。頭の中がぐちゃぐちゃでどう答えたらいいのかわからない。
頬が熱い。
どうしよう。
「……美幸の頬、真っ赤だね」
頬にそっと触れた手は嫌いじゃない。
クレープは皮が温かいから、アイスはすぐ溶けてどろどろになる。あまあく溶けて、食べ終わってもずっと口の中がおいしい。
「……クレープまた食べたい」
「いいよ、いくつでも食べよ」
一緒にクレープを食べたいのは、彼女とだけ。
背が高いとか、優しいとか、彼女の欠片が集まってくるような予感がした。なんというか、元々要素は散らばっていたのだ。そういう風に彼女を見る機会がなかっただけで。
単純?
そうかもしれない。
意識したのは今である。
だから、まだ集まってくる欠片に名前はつけられないのだけど。
おしまい。
好きの欠片(かけら) 浅葱 @asagi
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