第6話 日雇い貰いました


「みっけた~!」


「きれいなのあったの!」


 イルとヨリの二人が向かった場所は村から少し離れた川辺であった。

 二人はとても楽しそうに、川辺で綺麗な石を拾い遊んでいる。

 そしてそんな二人を尻目に俺は


「はぁはぁはぁはぁ」


 上も下も服を脱ぎ、パンツ一枚の状態になりながら川から水を引くための土木作業のお手伝いを俺はしていた。


 土を掘っては運び、掘っては運びの繰り返しで、物凄く疲れる。

 そして何故俺がこんなことしているのかと言うと、まぁ、有り体にいえば賃金が貰えるからだ。

 どうやらこの土木工事は慢性的に人手不足らしい。

 とはいえ、浮浪者など身元のしっかりしていない者などの手を借りるつもりはないようだ。

 やっぱり身元がしっかりしていない者は盗賊の可能性が高いから、そこら辺はかなり警戒しているようだね。


「ほらほら頑張れ。そんなんじゃせっかく賜ったどこかの国への貢献度が下がっちまうぞ!」


「はぁはぁはぁ、はい、頑張りますよ。よっこいせっと」


 というか、俺の身元はしっかりしてなくね? と思うだろうが、ご安心召されよ。

 何と荷物の中に身元を保証してくれる安っぽそうな木札のようなモノが入っていたのを覚えているだろか?

 手先が器用な人なら複製できそうな代物ではあるあの木札で、あんなもの本当に身分証になるのかよと思っただろうが、これがまた凄いのよ。

 何とその木札は魔道具であったのだ。

 それも普通に全国民に支給されるモノで、俺がその木札の片側を持ち、他の人がもう片側を持つと淡い小さな光の玉が出てくるし用になっていたのだ。


 どうやらこの謎の発光玉が出せるのは、国に身元を保証された者、国に税を納め者、国に多大なる貢献をした者などなどの意味合いがあり、玉の数が多いほど、その人がどれだけ国に認められているのかがわかるらしい。


 そして俺のヘンテコ木札から出てきた玉の数は5つ。

 少ないかと思ったのだが、どうやらそうではないらしい。

 何と最大で浮き上がるのは7つの玉。

 どこの願いを叶える玉だよと思ったが、それは置いておいて、俺が5つも浮き上がったことで、国に貢献した凄い人と認識される事となった。

 ただし貢献した国が日本と書かれているので、今いる国では、何か凄い人なんだねと言う認識でしかない。


 ちなみに、今持っているのは木札ではあるが、貢献した国で申請すれば鉄・銅までの札に変更することができるとのことだ。

 木が平民、鉄が騎士、銅が男爵と言った感じで地位を示すもののようだ。

 わかりやすいような。わかりにくいような。なんとも言えないな。

 そして日本に申請などできないし、そんな爵位など貰った所で土地ももらえないのでホントに身分証代わりにしかならない感じだ。


「がははははっ! そのいきだ! 頑張れよ英雄にいちゃん!」


 唾が飛んできそうなほど大きな声で笑う俺と同じような姿の半裸の猫耳おじさん。

 当初この猫耳おじさんに俺の木札を確認して貰った時は、かなり国に貢献した者として凄い低姿勢で話しかけられたが、そう言うのは気にしないでくれと言ったらこんな感じで遠慮が無くなった。


 まぁ、いいんだけどね。

 自分は何もしてないのに偉ぶりたくないし、女神様? が用意してくれただけだから、別にいいんだけどね。

 けど、なんか・・・ホント遠慮が無くなってびっくりだよ。

 それでいいのか? と思うほどに。


 ああ、それと俺を英雄と呼んでいるのは別に名前がわからない訳じゃない。

 5つ以上の光の玉が出てきた者に対して、敬意を称して人々は英雄と呼ぶらしい。


「なぁ~なぁ~、えいゆうのサムにいちゃん! これみろよ! すげぇとんがってんだ! んでもってデカくてカッコイイだろ!」


「えいゆうのサムおにいちゃん。これきれいなの」


 ただ弄られているとしか思えないが、そう言うモノだと割り切っている。

 それに光の玉が5つ浮かんだおかげで、ヨリちゃんも怖がらずに話しかけて貰えるようになったので良かったと思っておこう。


「お前達、英雄にいちゃんの邪魔すんなよ」


「しつれいだぞとうちゃん! べつにじゃまなんてしてないんだぞ! なぁヨリ!」


「うん、みせてただけだよ? ほらおじさん、これとってもきれいなの」


「わかったわかった。わかったからあっちで遊んでろ。それかほれ、釣竿やるから魚でも釣って遊んでろ」


「よっしゃぁぁぁっ! さすがとうちゃんだ! さかないっぱいつってばんめしのめしにしてやるぞ~!」


「あ、まってよぉ~、いっく~ん!!」


「うごっ!?」


「こらイル! 石を投げるな! 英雄にいちゃんにあたっただろうが!」


 叱るおじさんの声など無視してイルは川へと駆けて行き、ヨリは叱るおじさんの声にピタリと動きを止めオロオロとした後、ぺこぺことおじさんに頭を下げ、イルの後を追いかけて行った。


「たく、全然話を聞きゃあしねぇ。すまないな。英雄にいちゃん。せわしなくてよぉ」


「い、いえいえ、子供はあれくらい元気な方がいいですから。あてて」


「そう言ってくれるのはありがたいが・・・頭大丈夫か?」


「ちょっと変な所にあたっただけですから、大丈夫ですよ」


「そうか? そんならいいが・・・・おぉそうだ。良かったらこのポーションでも飲んでくれ。 飲みかけで悪いが」


「ぽーしょん?」


 結構デカイ石が頭にぶち当たった痛みよりも、聞きなれない単語の方が気になった。

 ポーションってアレだよね。

 ゲームとかで出てくる傷とか一瞬で直す感じの、摩訶不思議な薬品。


「そこまで質は良くない物だが、飲めば少しは痛みも和らぐだろ」


 そうして取り出したのは、ゲームとかで見たことある薄青いポーション。

 あれだ。ブルーハワイのかき氷シロップを水で割った感じの色だ。


「ホントは封を開けてないのを渡したかったが、もうこれしかねぇんだ。一口分しかねぇけど良かったら使ってくれ。一口だけでもそのくらいの痛みは引くはずだ」


 そう言って渡してきた、小さな瓶。

 瓶の中には確かに一口分くらいの青い液体が入っていた。


「質が良くないポーションでも全部飲めばそれくらいの怪我すぐに治るんだが、これには疲労回復の効果もあるからちょくちょく飲んじまってこれしかねぇんだ。だから勘弁な」


 そういうと、おじさんはペコリと頭を下げ仕事に戻っていった。


「ポーション・・・か」


 ファンタジー要素ありありの謎薬品を手に、一瞬どうするか悩みながらも、せっかくのご厚意であるため飲ませて貰った。

 ぶっちゃけ身体に合わなかったらどうしようと思わないでもないが、こういう摩訶不思議な治療薬は今後も世話になる可能性が大きい。

 故に試さないと言う選択はなかった。

 というか、こういう摩訶不思議な薬品が売っている店を見かけなかったのだが、いったいどこで売っているのやら。


「ごくん・・・・・うべぇ、まっず、草汁飲んでいるみたいだ・・・・けど、痛みが引いたな」


 現代日本の痛み止めも真っ青なほどの効果。

 味は最悪だが、ホントに一口飲んだだけで痛みが引いた。

 凄すぎて引くレベルだ。

 そして僅かながらに疲労も回復した感じがする。

 先程まで息を切らせていたというのに・・・・・・・ヤバイ薬じゃないかと心配になって来るぞ。


「異世界のこういう所が疑問でならないよなぁ。技術力はないのに、こういう変な所では科学技術を凌駕しやがる。ホントこの謎仕様はマジでわからん。まあこれは異世界あるあるってことで片付けるしかねぇけど・・・」


 ほんとよくわからない世界に来たもんだと思いながら、俺は仕事に戻った。





 ちなみに仕事が終わった後は川に飛び込み身体を綺麗に洗いました。

 冬などの寒い時期ではないのですが、川の水はとっても冷たく長時間入っていると風邪を引きそうでした・・・・・・ふふ、やっぱり科学技術の進んでいない異世界なんて大嫌いだ。

 あったけぇ風呂に入りたいよぉ。

 泥汚れが落ちる石鹸使いたいよぉ。

 柔らかいタオルが使いたいよぉ。ぐすん。



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