聖女召喚!魔王の絶えない王国と懲りない面々
弥生ちえ
女子高生は聖女として、異世界平和のために奮闘――した!
暗雲渦巻く空。
それを貫く一条の閃光が、100年ぶりに地上へ光をもたらした――。
* * *
『何も知らぬ小娘――後悔するがいい』
魔王は最期にそう言った。だから
お城の中の私の部屋から見えるのは綺麗な青空。高層階すぎて空しか見えないのは溜息案件でしかないんだけど。
この空を取り戻すのに、ただの女子高生だった私はめちゃくちゃ頑張ったのよ。
「聖女様、国王陛下がお呼びです」
「あ、もしかして国外旅行に行きたい!って嘆願書のお返事かしら」
「尊き聖女様を危険な国外……いいえ、城外へなどお出しする訳には参りません。何度も国王陛下も仰っておられます」
18回目の旅行のお願いも却下されたみたい。じゃあ、今日のお話は何なのかしらと、迎えの騎士に付いて行く。前後を挟まれてまるでどっかの偉い人よね。ま、聖女だからね。
ここハールム王国は、何故か執拗にこの国を滅ぼそうとする魔王アーケミーの脅威にさらされ続けてきた。だから、魔王を倒した後の祝賀パレードをやった時は、生まれてからずっと厚い雲の隙間から覗く陽の光しか見たことのない王国民達には、めちゃくちゃ熱狂的に讃えられたわ。
歓声を上げる皆を包むのは歓喜のオレンジ色。今更遅いじゃないか!って私をひっそり憎む灰色も見えるのは遣る瀬無かったなぁ……。
そう、私は異世界から召喚されて聖女の力が覚醒した時から、人の感情を色で感じ取ることが出来るようになったのよね。だからこそ魔王や配下の魔族の動きを読んで先手を打って勝つことが出来たのよ。聖女特効とも言える、魔王を光の粒に変える事ができるのを知ったのは、意外に他愛なかった最終決戦の時になって初めてだったけどね。
けど人に対しても常に発動するこの力は、見たくもない人の内心を伝えて来るんだよねー。おかげで最近はちょっぴり人間不信よ。
「魔王は1人ではない。歴史が物語る通り1人を滅ぼしても、時間を経てまた新たな魔王が生まれて来る。この王国は、これまで何度も魔王の脅威に晒されて来た。聖女カナディよ、大業を成し遂げたそなたに今一つ頼みがある。この国のため、このままこの王国へ留まって欲しい」
そう言って私の手を恭しく取ったのは、この国一番の権力者である国王様。私を利用する気満々の傲慢・執着……それに色欲?!テカテカ光り輝くショッキングピンク色に包まれてるわ。
隣の優しい笑顔の王妃様からは嫉妬と憎悪、殺意の辛子色と深緑、それに黒色の靄が溢れ出て来てるし、勘弁してよぉぉ!
ここへ来てすぐに元の世界に戻れないことを聞かされた時はショックだったわ。
けど王様や王子様、それに沢山の貴族の素敵な人たち皆が優しくしてくれるし、私だけにその力があったから、この世界で生きていくために頑張ったわけよ。お陰で無事、聖女の力に目覚めたわけなんだけど……色々見えちゃう今となっては、それが良かったのか微妙な気もするわ。とは言え、ただの女子高生だった私が随分逞しくなったものよね。
「聖女よ!貴女は神殿で祈りを捧げ、神に仕える私とともに在ることこそが正しい在り方なのですぞ!」
神殿長が眉を吊り上げて王様から私の手を引っ手繰る。彼から感じるのは暗い深い濁った赤と黒が混じり合う中に刺す様な銀色の光がピカピカする、ぞっとする色。狂信、固執、虚栄を現すそんな色を撒き散らしながら、よく堂々としていられるわよねーって溜息が出ちゃうわ。何を隠そう、この人が私をこの世界に拉致してきた誘拐犯の筆頭なのよ。そして質が悪いことに聖女を召喚できる神殿長は、国王と並ぶくらい権力が強いのよねー。
「彼女は私の妃になるのだ!次代へと彼女の血を引き継ぐことこそが王国の本懐であるはずだろう!」
第一王子が神殿長から更に私の手を引っ手繰る。こっちは真っ赤でべたつく血糊みたいなモノがメラメラ燃え上がって――これって不義、強欲、反逆の色よね!こわっ!
「聖女に無理強いをするものではありませんよ。女性は須らく満開の花の様に愛で、王女の様に傅いて扱うものです。ねぇ、聖女。私と一緒になるのがいいと思いませんか?」
遊び人で知られる第二王子が更に……。こっちは潔いほどくっきりとした情欲の色……。飴みたいにどろりとしたピンクと黄色のマーブル模様が美味しそう。いやそんな訳ない。
「いいえ、王子のお二方には既に婚約者が在るではありませんか!この国のことを思うのならば私の――」
王子の側近こと宰相令息が更に更に……。独善、略奪、金銭欲の色が入り乱れて彼の周りは鈍色と金色の大雨洪水警報発令中ね……。
もぉ!平和になった途端この人たち、自分勝手がひどくなってない!?
魔王討伐の後、朝から晩までこんな調子が続いてる。
しかも静養だの祝典だの理由を付けて私をこの王城から出してくれなくなって何日が経ったんだろう?その上、周り中湧き出る色の不協和音に囲まれて過ごすことに不調さえ感じることになってるんだから……。早く抜け出したいのに、少しの外出も許されない。このままここに縛り付けられるの?
何日も……今日も、明日も、この先も……――――!!
『何も知らぬ小娘――後悔するがいい』
ふいに、心の中で再生されたのは私に向けた魔王の最期の言葉。
そして気にも留めなかったけど、こちらへ何の抵抗もせず、ただ私に討たれるのを受け入れた魔王の表情は、満足げで笑みさえ浮かべていた。
代々女性である魔王が執拗に聖女を輩出するこの王国を狙うのは―――
そして消えゆく彼女の周囲を包んでいたのは、召喚時と同じ光の粒――それに変化して消えた彼女はもしかするとこうなることを分かったうえで、私をここへ残す代わりに自分は現世へと帰れたのかもしれない―――。
全ては返還の魔法が無いこの世界で、唯一の天敵である聖女によって討伐という名の帰還を果たすための計画された魔王による王国襲撃!!!
許せない!分かっていたなんて!!
許せない!!こんな自分勝手な人達のせいで、私のことを思う気持ちなんて一欠けらの色も見えない人たちのせいで!
私だけがこんな目に遭うなんて―――――
「もぉ!いい加減にして!ヤダヤダ!こんな嫌な感情の色が『ぐちゃぐちゃ』に溢れてるこんな所で生きていかなきゃいけないなんて嫌―――――――!!」
「「「「「聖女!?!!!」」」」」
カッと目の前が真っ黒い霧に包まれたようになった。
良かったこれでぐちゃぐちゃな感情の色を見なくて済むわ!
「聖女が……魔王になった……」
王様の弱々しい声が聞こえたけど、心は痛まない。
これでやっと私は自由に生きられる!それでもまだ縛り付けようとするなら、どれだけでも返り討ちにしてあげるわ?
手に入れた黒い翼を羽ばたかせて、私はふわりと大空に舞い上がった。
* * *
そうして新たな魔王は、自由に生きるために徐々に力を蓄え始める。
この王国は再び闇に閉ざされて行くだろう。
魔物とのし烈な戦いを繰り広げる時代の再来だ。
「何と云うことだ……また魔王を倒す聖女を召還しなければ……」
そうしてハールム王国では、国王が次代の王に聖女召喚を行うべく悲願を伝えて行く。
次に異界への扉を開く魔力が集まるまで100年。
そのころには、王族、神殿長も代変わりし、今回の教訓も薄れている事だろう。
《完――?》
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