汚部屋の夢

おくとりょう

おかえり

 ガチャン。

 玄関扉の閉まる音。乱暴に靴が脱ぎ捨てられて、裸足の足がペタペタ歩く。きっと靴下はまだ靴に残ったまま。

 足音が途中でピタッと止まった。短い廊下にかかわらず。同時に何か大きな音が響き渡る。ゴミの山でも崩れたのだろう。そう思って待っていると、居間の扉が軋んで開き、しかめっ面した部屋のあるじが悪態つきつつ現れた。

「缶詰タワーがまた崩れた。早く作り直さないと」

 そう呟いて、棚の桃缶を乱暴に開けると、彼のスーツもつられて裂けた。真っ白な腹があらわになる。彼はそれを特段、気にもとめずそのまま缶をあおった。

 澄んだ蜜が口の端からこぼれ落ちる。首をつたって、胸を流れて、たるんだ肉をしたたって、黒い茂みに染み込むゆく。醜い無駄毛の林の奥。白く醜い足肉がゆっくり蠢く。まばたきすれば、ただの蛆。甘い蜜に押し流されて、彼の蛆は床へと広がる。黄土の床は深く染まる。たるんだ腹も静かに沈んで、あとに残るは白き尻。黄桃の缶にするりと入り、無駄毛のマットをゆっくり転がる。


 屋根裏ネズミが小さくいた。彼は昨夜も地図を破いた。迷子戦隊、明日には解散。

「ミルクを買うのを忘れてた」

 缶が転んで星が溢れた。無駄毛の芝生を優しく照らす。土の毛穴が小さく震え、フナムシたちが顔を出す。

うみはとっくに腹の中」

 お尻がうたえば、明るい窓がドロリととろける。星も虫も覆い尽くす。お尻はべちゃんと床へと落ちた。黄色い中身がガラスを濡らす。

「虎の穴はここですか?」

 チーズの牛は黄色を舐め舐め、首を傾げる。紫の角がコロンと落ちた。お尻の皮はニチャっとわらって、ニンニク臭。

「父はやっぱり牛がいい」

 屋根裏ネズミのしっぽが叫べば、主はようやく靴下を出す。鼻をつまんで、つまみ出す。臭いそれをほおった床には、無駄毛も虫も牛もいない。いつかの埃がうっすら積もる。

 主はヨレヨレ上着を羽織って、いつも通り扉を閉めた。ネズミも星も尻もいない。朝日の射し込むワンルーム。

 さてさて、僕は誰でしょう。

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汚部屋の夢 おくとりょう @n8osoeuta

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