王女の寵姫はアンデッド

幽八花あかね


 ――私は、いつも、どの時代でも、十六歳のうちに必ず死ぬ。


「はぁ……はぁっ……」

「…………ひめさま、もう」


 今日も私だけが息を切らす。百年前と変わらぬ体温の貴女と手を繋ぎ、異国の地を駆ける。この私も、もう十六になっていた。

 死ねない貴女は救世主メサイアで、いつも我が王家の城に囚われている。何十年、何百年、貴女はいつだってそこにいた。

 私が疫病で死んだ時も、兄王子に殺された時も、戦争で死んだ時も。いつも隣にいてくれた。より正しく言うのなら、私が貴女を隣にいさせた。


 ――この国の王女が自由を奪われたのは、私のせい。


 貴女に惚れた私が、何度でも貴女を攫うから。儚い逃避行の数々は、我が王家の秘密の歴史に残されてしまっているから。王女たちは自由を失くした。

 悪いとは思うけれど、後悔の念は一縷もない。だって恋とはそういうものでしょう?

 束の間でもいい。

 貴女を人間らしく生きさせてあげたかった。願わくは、貴女を殺してあげたかった――。


 ぱぁん。っと残酷な音がして、貴女の足がふらりと縺れる。死ねない貴女も、腱を切られれば他の人間と同じように転んでしまう。私はそれを知っている。


 ――みんな酷いわ。


 貴女は死ねないだけで、世界を変える祈りを天に捧げられるだけで、それ以外は私たちと変わらない人間なのに。

 せっかく私が縫い合わせてあげた手が、足が、首が、瞬く間にもぎとられてしまう。それでも貴女は生きている。貴女は死ねない。死ねない。


 この狂った世界で、貴女だけは変わらない。


 そうして私は、また殺された。







 扉を開くと爆発音がした。

 石畳に吸い込まれていく赤は貴女で。

 また貴女はバラバラに散らばっていて。


 私は貴女を掬い上げて、もう一度、と欠片をくっつけていく。


「今度こそ、貴女と一緒に死んでみせるわ――」





【 恋したひとにすくいをもたらすために世界を呪い続ける王女まじょと、世界を救うために人柱にされ続ける聖女アンデッドの話 】

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王女の寵姫はアンデッド 幽八花あかね @yuyake-akane

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