王女の寵姫はアンデッド
幽八花あかね
✝
――私は、いつも、どの時代でも、十六歳のうちに必ず死ぬ。
「はぁ……はぁっ……」
「…………ひめさま、もう」
今日も私だけが息を切らす。百年前と変わらぬ体温の貴女と手を繋ぎ、異国の地を駆ける。この私も、もう十六になっていた。
死ねない貴女は
私が疫病で死んだ時も、兄王子に殺された時も、戦争で死んだ時も。いつも隣にいてくれた。より正しく言うのなら、私が貴女を隣にいさせた。
――この国の王女が自由を奪われたのは、私のせい。
貴女に惚れた私が、何度でも貴女を攫うから。儚い逃避行の数々は、我が王家の秘密の歴史に残されてしまっているから。王女たちは自由を失くした。
悪いとは思うけれど、後悔の念は一縷もない。だって恋とはそういうものでしょう?
束の間でもいい。
貴女を人間らしく生きさせてあげたかった。願わくは、貴女を殺してあげたかった――。
ぱぁん。っと残酷な音がして、貴女の足がふらりと縺れる。死ねない貴女も、腱を切られれば他の人間と同じように転んでしまう。私はそれを知っている。
――みんな酷いわ。
貴女は死ねないだけで、世界を変える祈りを天に捧げられるだけで、それ以外は私たちと変わらない人間なのに。
せっかく私が縫い合わせてあげた手が、足が、首が、瞬く間にもぎとられてしまう。それでも貴女は生きている。貴女は死ねない。死ねない。
この狂った世界で、貴女だけは変わらない。
そうして私は、また殺された。
扉を開くと爆発音がした。
石畳に吸い込まれていく赤は貴女で。
また貴女はバラバラに散らばっていて。
私は貴女を掬い上げて、もう一度、と欠片をくっつけていく。
「今度こそ、貴女と一緒に死んでみせるわ――」
【 恋したひとに
王女の寵姫はアンデッド 幽八花あかね @yuyake-akane
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