奇妙な2人

国城 花

奇妙な2人


駅前から少し歩いたところある細い路地の先に、奇妙な本屋がある。

その本屋の名前は、「時喰ときぐい本屋」。

客から時と記憶を対価に貰う、奇妙な本屋である。



「毎度あり」


客が帰った後、店主のヨウは珍しくため息をついた。


「酷い客だったわね」


本屋の店員であり、相棒でもあるルイが店奥から出てくる。

そして店内を見ると、ヨウと同じようにため息をついた。


2人で本棚を見上げると、いつも綺麗に陳列されている本の並びがぐちゃぐちゃになっている。

先ほどの客が本を読んだ後、本を元の場所ではなく適当な場所に戻していったのだ。

そのせいで、本棚は悲惨なことになっている。


「もう少し多めに対価を貰った方が良かったかしら」

「この後の労力を考えると、それでもよかったな」


ヨウは、ルイと一緒に本棚を整理していく。


時喰ときぐい本屋では、客は本屋にいる間は好きなだけ本を読むことができる。

その客から貰う対価は、時と記憶。

本屋にいる間の時間と、この本屋に関する記憶を貰う。

しかし今回のように仕事量を増やすような客には、多めに対価を支払ってもらわないと釣りあいがとれない。


本を並べ直している時、ヨウはふと頭に疑問が浮かぶ。


「ルイは人から記憶を喰っていて、自分の記憶がぐちゃぐちゃにならないのか?」


ルイは、記憶を喰らうものである。

他者の記憶を喰らうことで、自分のものにできるのだ。


ルイは、整理整頓が終わった本棚を眺めて青い瞳で微笑む。


「この本棚のように、綺麗に整頓しているから大丈夫よ」

「なるほどな」


ヨウとルイは、綺麗好きである。

本屋という空間も好きである。

だからこの場所を汚す者には、容赦しない。


「追加の支払いをしてもらうか」

「そうね」


ヨウとルイは頷くと、本屋を出る。

カランカランと、人のいない店に鈴が鳴る。


もしあなたが時の流れを速く感じた時。

ふと思い出せないことがあった時。


この奇妙な2人が、近くにいるかもしれない。



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奇妙な2人 国城 花 @kunishiro

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