探偵の告白【KAC20233】

吉楽滔々

第1話

 昔から、ぐちゃぐちゃしているものを解くのが好きだった。


 幼い頃は、毛糸を、ネックレスチェーンを、絡めては解き、絡めては解いて遊んだ。知恵の輪、立体パズル、解けるものはなんだって解いて解いて解きまくり、終いには事件を解くようになった。


 人は多かれ少なかれ、心にぐちゃぐちゃしたものを抱えていることが多い。そのぐちゃぐちゃが絡まり合って、時に事件へと変貌する。


 レモンを見て唾液が出るように、絡まりを見れば条件反射的に解きたくなった。この衝動を満足させるために、事件を解いて解いて解き続けていたら—————


「いつの間にか探偵なんて呼ばれてたのさ。正義感からじゃないんだよ」


 世界中の警察機関が躍起になって捕まえようとしていた知能犯を前に、探偵はそう語った。


「だから私を捕まえることに興味はない、ですか」


「いや、事態はもっと切実なんだ。言っただろう?解かずにはいられない性質さがだから、自分自身のことを解くのも例外じゃなくてね」


 探偵は微笑むと小首を傾げた。


「知っていると思うけど、人は刺激に慣れてより強い刺激を求める生き物だ。君が人の心のぐちゃぐちゃを増幅させてつくる事件は、本当に素晴らしかった。それを追い続けたものだから、僕はもうそのあたりに転がっているものでは満足できそうもない。解かずにはいられないから解きはするけれど、せいぜい前菜がいいところだろうね」


「……つまり見逃す代わりに、私にメインディッシュをつくれと」


「そんな野暮を言うつもりはないよ。ただ、僕は君の敵ではなくファンなのさ。いや、中毒が正しいか。逢瀬を邪魔されたくなかったから、君を追ってる人たちにここは教えてないんだ。よかったらお茶でもどうだろう?」


 迷った末、差し出された探偵の手を握り返す。


 この混沌とした世紀末では、倫理観がぐちゃぐちゃで犯人より難ありな探偵がいてもおかしくはないか、と思いながら。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

探偵の告白【KAC20233】 吉楽滔々 @kankansai

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ