カリーバッドエンド
秋乃晃
進軍前
夕方の情報番組のせいで食べ放題が知られてしまった。
俺は隠し通そうとしていたのにさ。
モアはすぐさま自分のスマホで近くの食べ放題を調べる。不運にもターゲットとして選ばれたのは上野のショッピングモールの上層階にある
「元が取れるほど食べられないし、同じ値段を払って美味しいものを食べたほうがいいよ」
俺が食べ放題のシステムごと否定するようなセリフを言ったら「じゃあユニと行ってくるぞ!」という話になってくれた。なんとか回避できた……と、その時はほっと一安心、胸を撫で下ろした。
ピンク色の丸っこい生き物も確か宇宙人だよな。腹ん中どうなってんだろ。モアの見た目は
食べ放題を出入り禁止となってからは、デカ盛り系の料理を紹介する動画にハマってしまった。
非常によくない。
この間は「レベルの高い合格点を超えるラーメンをオールウェイズ出してくれる、と聞いたぞ!」と言って、黄色い看板のラーメン屋に連れて行かれた。黒い文字で店名が書いてある。
できれば俺は行きたくなかった。ただ、常識のない宇宙人であるモアを一人で行かせたら何をしでかすかわかったもんじゃあないから、仕方なくついていった。おばあさまと二人で行ってもらうわけにもいかないし。
昼間からよくもまあラーメン一杯のために並ぶもんだなと感心させられつつ小一時間。
俺は麺の量を半分にしてもらっても食べ切るのに一苦労。
が、隣のモアは大豚(※バケモンみたいな量のチャーシュー麺)に全てのトッピングを増やした状態のものを平らげている。
大豚は、ラーメンの器に、背脂ともやしとキャベツが山盛りになっていて、その山を支えるようにゲンコツみたいなチャーシューが添えられていた。マジですごい量なのに千円しないから、そりゃあ並ぶよ。大食いの若者ならね。
俺は思い出すだけで胃もたれしそう。
少食だからさ。
ネットで攻略法を調べてきたモアは、もやしの下から麺を引っ張り出して持ち上げると、もやしの上に移動させていた。見映えは悪いけども、これで麺がスープを吸ってのびてしまうのが防げるらしい。並んでいる間に教えてほしかったな。
モアが大豚の食券をカウンターの上に出した瞬間から始まった周囲の冷ややかな視線が、退店する時には畏怖に変わっていた。
一生行きたくない。美味しかったけど。絶対顔覚えられたじゃん。
「おばあさま! これから攻略してくるぞ!」
土曜日の昼下がり。
今回のターゲットは路地裏にある中華料理屋、昇竜軒。
午前中はおばあさまオススメの映画を観て過ごした。
ここまでは良い休日を過ごしている。
ここからはどうかわからない。
わざわざチャレンジメニューと銘打って提供しているのであれば、食べ放題の店のように『過度に食べ過ぎて店を開店休業の状態にさせてしまったので出入り禁止』とはならないだろう。というか、あれだけの食べ放題チェーンで出禁になることってあるんだな。よっぽどモアがしでかしたんだろ。
チャレンジメニューに挑戦する際はランチタイムは外したほうがいい、とのネット情報がある。チャレンジメニューを用意する手間を考えたらそりゃそうだ。一人分を作る時間で何人分を作れるんだって話だよな。
「あら、じゃあお夕飯はいらないわね?」
「いるぞ!」
おばあさまがずっこけた。そうだよな。これからすり鉢に盛られたスペシャルドラゴンカレーを食べに行く。
おばあさまには昨日の夕飯の時に「チャレンジメニューに挑戦するぞ!」と話をしてある。おばあさまの知り合いの人の店らしい。昇竜軒、と店名を挙げたら「あー! あそこね!」となっていた。まあ、おばあさまは顔が広いしさ。昔からある中華料理店だっていうから、知っていてもおかしくない。
「俺は家で食べます」
俺は食べない。食べ切れる気がしないからさ。モアだけが食べる。
この宇宙人はスペシャルドラゴンカレーを食べた上で家の夕飯も食べるつもりらしい。胃袋どうなってんの。
「わかったわ。普段通り用意しておくわね」
普段通り用意してたら、――いや、モアは全部食べちゃうな、たぶん。
余らせるっていう考えはなさそう。
「健闘を祈っているわ。モアちゃんの樋口さんを取られませんように!」
おばあさまのエールに「我の樋口さんは渡さないぞ!」と気合十分の返事を返すモア。
スペシャルドラゴンカレーは、30分以内に一人で完食できたら無料。
提供から30分経過した時点で米の一粒でも残っていたら、五千円の支払いが発生する。
最初から五千円を支払うつもりで、三人で分け合う客もいるとネットの記事には書いてあった。
チャレンジメニューとは一体。
看板メニューでもあるのかな。
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