スパゲッティ有向グラフ
名苗瑞輝
スパゲッティ有向グラフ
◇ノード:荒木章
俺はつい、伊波のことを目で追ってしまう。この恋心に気づいてから、もうすぐ一年になる。
毎日のように彼女を見ていたからこそ、俺は理解している。この恋が実ることはないと。
何故なら彼女はいつも宇喜多のことを見ているから。俺と伊波の視線が交わった事なんて、もしかするとただの一度も無いのかもしれない。
けれども同時に、伊波の恋も実らないと俺は思っている。宇喜多もまた、他を見ているから。
相手は江崎。可愛らしく人当たりも良い彼女は、俺の恋心抜きに考えればこのクラスで一番の存在だと言える。
もちろんそんな彼女だからこそ、既に彼氏だっている。相手は隣のクラスの岡村。美男美女のお似合いカップルだ。
悲しい片思いの連鎖。断ち切るにはどうするべきか。
◇ノード:宇喜多海春
親友の岡村の彼女、江崎。お似合いカップルなんて持て囃される二人だけれども、江崎が知らない男と手を繋いで歩いているのを見たと狩野が言っていた。
にわかには信じられないけれども、それ以来江崎の動向を追いかけてはいる。今日は放課後、一人で帰ろうとする江崎を追いかけている。岡村によると、今日は用があるとかで先に帰ると言われたらしい。
なんだか怪しい話ではある。どんな用事か岡村に訊いてみたけど、岡村は気にしていないようで知らないとのことだ。ちなみに江崎の件はまだ岡村に話していない。
江崎を追いかけるうちにやって来たのは駅前。まあ家に帰るなら電車に乗るから当たり前か。そう思ったものの、江崎は改札を通らず、改札前の柱にもたれ掛かった。手にはスマホ。まるで誰かを待つ姿勢。
少し離れたところから様子を伺っていると、やがて江崎の前に誰かがやって来た。遠くてよく見えないけれども、他校の男子なのは判った。
◇ノード:木戸雲母
「ねえ、江崎どこにいるか知らない?」
江崎の姿が見当たらなくて教室を出て捜していた。ちょうど玄関先で江崎と仲が良い國村を見かけたから、あたしはそう訊ねた。
「衛二なら帰ったぞ」
「うっそ、今日掃除当番なんだけど」
「あいつ今日デートとか言って秒で帰ったぞ」
「は? デート? 誰と?」
「妹」
江崎のシスコンエピソードは有名な話。だからその一言ですべてが腑に落ちた。だけども、あたしより妹を優先したって事実がやっぱりムカついた。
思わず吐いたため息に、まるで見かねたように國村が訊ねてくる。
「手伝おうか?」
「うん、ありがと」
◇ノード:剣野圭祐
何で國村を連れて来たのか。明らかに下心ありありなのに気づいてないのか。それとも、二人はそういう関係?
まあ、それでも別に良いんだけどさ。だって別に、好きじゃないし?
あー、なんか二人話ながらやってるし。手伝いに来たの? 体よく話しに来ただけ? どっちでも良いけど。
◇ノード:児玉こころ
「今日、いいか?」
体育館の裏は人気が無くて、それでも中から聞こえてくる声が被さって、内緒話にはちょうど良い。
だから岡村と話すときはいつもここ。私にだって後ろめたさはある。
「彼女は?」
「用事があるってさ」
つまり私は彼女と遊べないときの代わり。
だからって私は妬いたりなんかしない。そんなこと、織り込み済みだし。そもそも、お互い様だしね。
「遅くなるって連絡させて」
誰に、というところは
「オッケー」
顔を上げてそう一言声をかけると、岡村の顔が近づいてきた。
「ちょっと気が早すぎ」
岡村の顔を手で押しのける。スマホの画面、見られてないよね?
◇ノード:島村翔真
どうなってんの?
今置かれている状況を整理する。
部活が終わって帰り際、飯食いに行こうと須賀っちに誘われた。持ち合わせが無いと伝えたら奢ると言われたので、「行こうぜ」と秒で答えた。
ファミレスに来ると先約がいた。荒木と伊波は知ってる。あとは知らない他校の男女。
相席というわけじゃなく、いわば合コン。須賀っちがセッティングしたものだと後になって聞かされた。
まあそれは良い。荒木と伊波ってのがまず凄いわ。お膳立てしすぎ。須賀っちどんだけ気遣いさんだよ。
ってのもまあ良いんだ。問題はそこじゃない。いや、まあ……そこが問題かな、やっぱり。
「あのシーンほんと良いよね」
「だよね。だんだん記憶が薄れてく中でかける言葉がマジでやばい」
「それ。あそこ5回くらい見た」
「10回は見たわ」
「そこ張り合うなし」
なんか荒木のやつ、他の女子と盛り上がってない? お前それでいいの?
そんなことしてるから伊波も……って一人で飯食ってるし。何で?
なんか気になりすぎて、周りの話が頭に入ってこない。なんなのこれ。もうめちゃくちゃだな。
スパゲッティ有向グラフ 名苗瑞輝 @NanaeMizuki
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