俺ァぬいぐるみ

ポピヨン村田

おはようカレンちゃん

 俺ァぬいぐるみ。


 小森カレンちゃん2歳の誕生日に贈られた、ママさんが気合入れてこしらえたテディベアだ。


 カレンちゃんはなんというか俺の妹というか娘というかそんなもんでね。だから四六時中、おはようからおやすみまで見守ってやるのが俺の生まれた意味ってやつなのよ。


「パピーちゃんおはよう!」


 ママさんがカーテンを開けたと同時に飛び起きたカレンちゃんが、タックルをかます勢いで一緒に寝ている俺を抱きしめた。


 お……おは……おはよう、カレンちゃん。


 もうすぐ小学生になる子供の力加減なしの締め技、軽く意識が飛びそうになるが、ぬいぐるみの矜持でなんとか堪える。


 そう、俺の名前はパピーちゃんという。知っての通り、『子犬ちゃん』って意味だ。さらに正式名称は『ふわふわふらっふぃーぷりんせすパピーちゃん2世』っていう。


 ちなみに俺は昔一度ぼろぼろになってママさんに作り直されていて、それで名前に『2世』とついているらしい……。もうどこから突っ込んでいいのかわからない。せめてテディちゃんと名付けてくれ。


「おはようカレン。早く顔洗って着替えてらっしゃい」


「おはようママ。はぁい、いってくる」


 カレンちゃんはのそのそと幼稚園の制服に着替えると、俺を抱きかかえたまま洗面所へと向かう。


 俺は戦々恐々としてカレンちゃんに従った。


 ここから朝一のぬいぐるみ試練が始まる。


「ふーっ、さっぱり!」


 自慢じゃないが俺のカレンちゃんはママさんのしつけがきっちり行き届いているので、6歳児ながら朝の洗面も歯磨きも完璧だ。


 が……。


「はい、つぎはパピーちゃんね!」


 きた!


 脇に置かれていた俺の頭を、カレンちゃんはむんずとつかみ、洗面台へと近づけていく。


 洗面台には栓がされており、冷たい水が張られている。時折、荒れた海のように波打つ水面。


「はーいパピーちゃん、おかおキレイキレイしましょうねー」


 そして俺は勢いよく頭を水の中沈められた。


 さながらそれは対象を逆さ吊りにして首から上だけを水桶に突っ込む拷問、水責めとほぼ一致している。


 呼吸などしない俺だが、何故か今にも頭が破裂しそうに苦しい。それが、カレンちゃんが飽きるまで何度も繰り返される。


 カレンちゃんが6歳になった今はいい方で、昔はカレンちゃんの服が水びしょになるまで拷問は続いた。


 だから大丈夫、耐えられる


 俺ァカレンちゃんの為なら水責めされるプロにだってなれらぁ――。

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