第13話 とある看守長による証言

 正直屈辱的な思い出だからあまり話したくないんだがな。

 でもま、良い酒奢ってくれたから話してやるよ。


 オレは彼女の収容を最初に担当したんだ。

 正確には俺の在籍していた拘置所だけどな。


 女性の囚人とかは珍しくも無かったんだが、それでも当時は信じられなかったよ。

 だって見るからに華奢で大人しそうな女の子が、町一つを丸焼きにしたって言うんだから。


 でも現行犯逮捕って言うし、上からの命令には逆らえないから、その後1年間収容してたんだよな。


 ああ、模範囚並に態度は良くて礼儀正しかったさ。

 《むし》寧ろ他の囚人にナメられてたから、見ていてこっちがヒヤヒヤさせられてたよ。


 でもそれから1年後の春、急にヤツは豹変しやがったんだ。


 まるで何かに取り憑かれたかの様に暴れ始めてな、男性刑務官まで引っ張り出して総出で押さえ込もうとしたが、みーんな跳ね除けられちまった。


 《うかつ》迂闊にもオレは呆然としちまってね。

 その間にヤツはこの刑務所の壁をブチ壊しながら真っ直ぐ出て行きやがったのさ。


 我に返って直ぐに応援を要請して捕まえに行ったんだがね、ヤツは時速100km以上のスピードで近隣のスギ林まで逃げてった。


 いや、逃げたってのは正確じゃないな。

 どちらかと言えば、ヤツは怨みと執念めいた勢いでスギ林に突っ込んでったんだ。


 勿論オレ達は捕らえようと後を追ったさ。

 けどその先で見た光景に空いた口が塞がらなかったんだがね。


 周辺の木をへし折っていたんだよ、しかも素手で。


 信じられるかい? 

 あの可愛らしかった少女が、恨み節を吐き散らしながら殴ったり蹴ったり。

 しかも殴られた木々はたった一発でへし折られちまう。


 捕らえようにも人の手ではどうしようも無い。

 仕方なく機動部隊に応援を要請して、その間にネットランチャーを複数発当てたよ。


 そしたらどうしたと思う?

 猛獣ですら抜け出すのが困難な網を、ヤツは雄叫びと共に引き裂いたのさ。


 それで、恐らくヤツの逆鱗に触れちまったんだろうなぁ。

 その後の現場は《まさ》正に地獄絵図だったよ。


 そっからの記憶は断片的でなぁ……最後に覚えている光景は、ヤツがパトカーを片手で掴み上げ、次々と林の中に叩き込んでいく姿よ。


 その後の顛末はアンタもニュースで知ってんだろう?

 数台のパトカーと一緒に、一つのスギ林が燃え散ったってな。


 そういやアンタ、事件当時の《すぎやまめつこ》杉山滅子の声聴きたいんだってな。

ホラよ、物好きなもんだ。


 『林業は悪い文明! Killべし! 死すべし! 滅ぶべし!』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る