いただきもの
陰陽由実
いただきもの
それはまだ自分が年端もいかない子供の頃だった。
多分、2〜3歳くらい、もう少し大きいとしたら4歳くらいのことだろうか。
叔父が私に、ぬいぐるみをくれたのだ。
叔父のことは父の兄であることから「にいちゃん」と呼んでいた。
結婚せずに祖父母にいる実家暮らしで、会いに行くとたくさん遊んでくれた。
そんなにいちゃんがくれたぬいぐるみは、白いくま。
手足にしっかりとした形があるタイプではなく、なかにビーズのようなものが入った、比較的自由に動かせるやつ。
大人の両手に収まるくらいの大きさで、背中にハートのアップリケが縫い付けてあった。ピンク色の帽子をかぶって、なぜか顔は若干左向きに向いていた。
私はそのぬいぐるみを大層気に入って、何度も布団の中に連れ込んで一緒に寝ていた。
祖父母に会いに行った時の持っていってにいちゃんに見せ、「にいちゃんにもらったんだよ」なんて言っていた。叔父は、そうだったっけー? なんて言って、よく覚えていないみたいだった。
名前はほとんどつけなかったに等しかった。何度かつけようとしたものの、いい感じのが思いつかなくて「くまちゃんにしよう!」とか言ったような気もするけど、すぐに名前をつけたことすら忘れてしまった。
母がぬいぐるみを綺麗にしようとして、私は何をするんだと泣きじゃくったこともある。結局、綺麗にされた。なぜか帽子の形をしっかりさせるために中に入っていた、綿っぽいものをとりのぞかれた。帽子はペシャンコになった。
ほとんど気づかなかったに近いけれど、白かったぬいぐるみはだんだんと黒く、少し黄ばんでいった。
少し前に何のぬいぐるみだったんだろうとタグを見たが、かなり掠れてしまっていて文字が存在すらしていなかった。
今ではクローゼットの中で、他の小さなぬいぐるみと一緒に箱の上に座らせている。
そうして、クローゼットを開けた時に何やら懐かしい気分になるのである。
いただきもの 陰陽由実 @tukisizukusakura
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます