第11話 剣

 川面に雷撃が走り青白く光る。

 

 空には黒雲が多い雷鳴が響き、雨が降りしきる。

 全ては、鳴神の妖力の力。場は、鳴神の妖力で満たされる。


 体験を構えるアテルイの構えは、独特ではあるが、ため息が出るほど自然で美しい。幽鬼となった今でも、その身に鍛錬で叩き込んだ剣技は、消えぬのだろう。


 ザッと雨が強まり、アテルイの視界を塞ぐ。激しい雨音と雷鳴で、聴覚も奪われる。場に満たされた雷撃が、鳴神の気配を完全に消してしまう。


 うろたえる幽鬼アテルイに、川面を雷撃にのって鳴神が剣を振るう。

 アテルイが反撃に出るが、大剣は、鳴神の義手に傷をつけただけで、折れてしまった。


 鳴神の坂上宝剣が、アテルイの胴を真っ二つに引き裂いた。


 幽鬼は、あえなく姿を消した。

 

 生きて友として剣を交えられたら、どんなに楽しかったであろうか?

 宝剣の持ち主である坂上田村麻呂は、アテルイを助けようと奔走したと聞く。だが、その望みは、叶えられることなくアテルイは処刑された。


 今、無理矢理幽鬼として何者かに叩き起こされたアテルイを眠りにつかせるのは、この坂上宝剣が最もふさわしかったのかもしれない。


 鳴神は、消えたアテルイの魂の安寧を願い、一人暗闇で手を合わせていた。


ーーーーー


 紫檀は、都の西にある大路に立っていた。

 広い道に今は、誰もいない。

 夜の闇の中で、人の骸がいくつも転がり、その真ん中に、大きな妖の姿がある。


「なんと、お前まで利用されるとはな」


ヘラリと笑う紫檀の前に立つのは、大江山の酒呑童子。源頼光に切られた首を手に持って紫檀を睨んでいる。酒呑童子の首は、虚ろな目をして何やらクチャリクチャリと食んでいる。

 

 かつて都の娘や若者を攫って食っていたという、大江山に住む鬼。源頼光に討伐されたが、妖力の高い鬼。首は重くなり、途中で動かなくなったと言われている。

 その場で弔われたと言われているが、その恨みは果てない物であったのだろう。かの鬼もまた、だまし討ちにあって虚しく敗れた者だ。


 その首を誰かが掘り起こして、呼び覚ましたのだ。全ては、自らの恨みと野望を果たすために。鎮められ、大人しく眠りについていたものを起こしたのだろう。



 紫檀は、トンと刀を投げる。地面に突き刺さるのは、酒呑童子を打ち破った鬼切丸。

 晴明に、酒呑童子を破る必殺の剣として渡されたものだ。


「要らんだろう? 儂とお前のやり取りだ」

ニコリと紫檀は笑う。


「心配するな。頭から全部喰ってやる」

巨大な黒い狐の姿になった紫檀は、天を駆け、酒呑童子に跳びかかった。

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