激戦、ぬいぐるみバトル

景綱

第1話

「さぁ、やってまいりました! ぬいぐるみバトルの時間です! 司会はわたくし、工藤守。解説は新谷闘矢さんでお送りします」


 ざわざわとする会場内には、きらびやかな光をまとうゴールデンユニコーンが鎮座ちんざしている。

 優勝者だけが手にすることができる特大ぬいぐるみだ。

 はたして優勝するのはどっちなのか。

 固唾を呑んで試合が始まるのを待った。


 決勝戦の舞台に来られたのは幸運としか言えない。

 ああ、もう興奮しすぎて身体の震えが止まらない。

 最強のヌイグルミストに輝くのはどっちなのか。

 ピンクグマのクマティか。ホワイトライオンのビックレオなのか。

 早く、早くゴングを鳴らせ。


***


「いよいよ、はじまります。両者、気合いが入ってますね。試合前から睨み合いです。おおっと、ゴングが鳴りました」


 ゴングと同時に頭と頭がガツンとぶつかり合い両者の身体が仰け反った。すごい、すごい。

 おおお!!


「キングレオ、早い動きだ。一瞬のうちにクマティの背後をとって脇腹をくすぐり出した。これはクマティもたまらない。歯をむき出しで笑っている」


 キングレオ1本先取だ。


「クマティ悔しそうな顔をしてますね。新谷さん」

「そうですね。クマティは最初のぶつかり合いで軽い脳震盪のうしんとうを起こしたのかも知れませんね」

「なるほど。それで背後を取られてしまったんですね」


 やっぱり生での観戦は迫力が違う。というか笑いっぱなしだ。

 この大会は、三回笑わせたほうが勝ちというシンプルな試合だ。

 格闘技ではない。ぶつかり合う必要はない。だが、二人はそうした。

 まあ、なんでもありの試合だから問題はないのか。

 笑わせれば、何をしてもいい。なんともおかしな試合だ。


「おおっと、クマティの必殺技ふにゃふにゃ変顔だぁ。堪らずキングレオが吹き出した」

「激戦ですね」

「そうですね、新谷さん」


 馬鹿馬鹿しい大会だと思うかもしれないが、これは意外とハマる。

 ほら、見てみろ。爆笑の嵐だ。

 もちろん僕もだ。笑い過ぎて腹が痛い。


「キタキタキターーー! クマティ、猫じゃらしユラユラからの脇の下くすぐり攻撃だ。しかしキングレオ堪えた」

「おっ、キングレオのカウンター攻撃、一人漫談ですよ。工藤さんこれは、R-1でも、決勝進出レベルですよ」

「ええ、ええ。もう私も、笑いがとまりま、せん」


 やめてくれ、腹がよじれる。キングレオはどんだけ面白いんだ。

 痛い、痛い、腹が痛い。く、苦しいよ。


「おおお! キングレオの連続攻撃、腹踊りからの音痴全開のアカペラ攻撃だ」


 おいおい、なんだあの歌は。

 会場全体が笑いで揺れている。

 すごい、すごい。


「決まった!! 優勝はキングレオだ!」


 大歓声の中、キングレオはゴールデンユニコーンのぬいぐるみを掲げて雄叫びをあげていた。


 帰り道、ふと思った。

 なぜ、優勝商品がぬいぐるみのゴールデンユニコーンなのかと。ぬいぐるみのバトルだから商品もぬいぐるみ、なのか。


「おい、そこのやつ」


突然、煌びやかなぬいぐるみを渡され受け取ってしまった。ゴールデンユニコーンだ。なぜ?


手渡してきたのはビックレオ。


「これでよし。おまえには恨みはないが頑張れよ」


意味不明なことを言われてビックレオを見遣ると、見知らぬオヤジが立ち去っていくところだった。


「わっ、猫さんだぁ」


子供が飛びついてきて困惑していると、向こう側に見える窓ガラスに猫のぬいぐるみ姿の自分が映っていた。

僕は理解した。

ゴールデンユニコーンが僕とビックレオを入れ替えたと。僕はぬいぐるみになってしまったんだと。


つまり、ビックレオは元々人だったってことか。元に戻るには、ぬいぐるみバトルで優勝するしかない。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

激戦、ぬいぐるみバトル 景綱 @kagetuna525

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ