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紗久間 馨

熊のぬいぐるみ

「それ、あなたが作ったの?」

「あ、はい」

 リナは昇降口で見たことのある女子児童に声をかけられた。確か上の学年の人だ。

 彼女の言う「それ」とは、リナが両手で持って眺めていた熊のぬいぐるみだ。小学校のクラブ活動で作ったものを、持ち帰るところだった。


「可愛いね」

 彼女が優しい笑顔を浮かべて褒めてくれたのに、リナは喜べないでいた。

 どう見ても可愛くないと思う。他の子たちは器用に縫ったのに、リナは上手く出来なかったと感じていた。全体的に形がいびつで、ボタンでつけた目も左右対称ではない。

 一人で昇降口にいたのは憂鬱な気分だったからだ。同じクラブの友達と一緒に帰らずに、自分が作ったぬいぐるみを眺めていた。

 クラブ活動は仲の良い友達と同じものを選択した。スポーツも音楽も苦手で、選択肢は家庭科か図工のクラブに絞られていた。友達が家庭科を選んだので、リナもそうした。


「これ、可愛くないし、好きじゃないです」

 リナの声は悲しみと怒りで震えた。

「じゃあ、わたしにちょうだい」

 彼女が右手をリナに差し出す。

「え、でも・・・・・・」

「ごめん、ごめん。好きじゃなくても、いらないわけじゃないよね」

「可愛くないけど、本当に欲しいですか?」

「うん。わたしは可愛いと思ってるし」

 彼女が目を輝かせているのを見て、本気で欲しいと思っているのだと感じた。

「じゃあ、どうぞ」

 リナは彼女にぬいぐるみを渡した。

「ありがとう! 大切にするね!」

 彼女は両手でぬいぐるみを受け取り、ギュッと抱きしめた。そんなにも喜んでもらえるとは思わなかった。


「わたし、可愛いものが好きなんだけど、親がダメだって」

 彼女が悲しそうな表情で言った。

「小さい頃からスポーツやってて、それ以外のことは禁止なの。この子は隠してちゃんと守るから、大丈夫だよ」

 そして「もう行かなきゃ」と彼女は慌てて帰っていった。

 リナの心は憂鬱から解放されていた。

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