ぬいぐるみ
猫又大統領
ぬいぐるみ
学校が終わるとすぐに僕は駅の近くにあるゲームセンター向かった。
赤貝をとるために。彼女のために。
昨日、バイトの帰り道に偶然僕の彼女がクレーンゲームを熱心にしたいたところを目撃したのだ。だが、何も取れなくて彼女は肩を落として帰っていった。あまりの落ち込み様に声を掛けられなかった。
僕は彼女が立っていた所にいってみるとそこには、教室の椅子くらいに大きい赤貝の寿司のぬいぐるみがあった。
それを見た瞬間、閃いた。これを取って彼女に渡せば数か月は高い好感度を維持できる。このぬいぐるみを見るたびに彼女は僕の貢献を思い出すだろう。恩着せがましいけれど、何にも取柄のない僕は捨てられるかもしれないと頭の片隅にいつもうごめいていた。
「よし、先月の稼ぎはここですべて溶かすつもりでいくぞ」
僕はクレーンに決意表明をした。良心があるなら1回で取らせてくれ。
とれた。こんな達成感を味わったのはいつぶりだろうか。
赤貝がとれた。先月の稼ぎは消えた。
近くの公園に急いだ。
「あ、早いね」
「そうね、暇だった……それ、赤貝の寿司のぬいぐるみ!」
「うん、これ」
僕が赤貝を差し出すと彼女は両手で大事そうに受け取り、赤貝を抱きしめた。
「あ、そのぬいぐるみ……」
「なに?」
「詳しくいうと回転寿司で誰にもとられずに回り続ける赤貝のぬいぐるみなんだって。タグに書いてあった」
「ぬいぐるみのくせに悲しい過去ね。尚更大事にしないと」
「赤貝は確かにとられないで回ってるような」
「私のこと赤貝と同じだと思ってないわよね?」
「とんでもない。僕のほうだろうな、赤貝は……」
「私がとったでしょ」
「そうでした」
僕はそういうと自分の顔が熱を帯びて赤くなるのを感じた。
「じゃあ、私は回転寿司のどれでしょうか?」
「何をいっても怒られそうだな」
「一番高いヤツ言えばいいでしょ!」
「だったらラーメンになっちゃうよ」
僕が言い返すと彼女はこちらをみて右のほっぺを膨らませた。
「じゃあ、赤貝でいいもんね。私は赤貝のぬいぐるみを取ってきてくれる赤貝くんが好き……」
そういい終わると、ほっぺを赤らめながら彼女は夕暮れの公園に笑顔を振りまいた。
ぬいぐるみ 猫又大統領 @arigatou
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