うらみ屋悪魔のベルフェさん
夢水 四季
殺人を犯した男
「よお、お前が今回の依頼主か?」
男性が振り返ると、そこには若い男が立っていた。いや、正確には宙に浮いていた。
「あ、あなたは…、え、浮いて…」
「あんたが呼んだんだろ。『うらみ屋』を」
「あなたが‼」
「あんたからのメールは読ませてもらった。酷い話だよな。愛する妻と娘を殺し、裁判では精神不安定で減刑。あと何年かしたら普通に刑務所から出て来るなんて」
男は男性の耳元で囁く。
「殺したいよな、あいつを」
「ええ、ええ、殺して下さい! あの男を殺してくれるなら私は何でもします!」
「じゃあ、報酬は――――――」
男性は一瞬、戸惑ったが、それを承諾した。
「契約成立だ」
うらみ屋はニヤリと嗤う。
刑務所の中は黴臭く、陰気な雰囲気が漂っていた。独房に面した廊下を看守の男が歩いている。男は一つの独房の前で立ち止まり、鍵を開ける。独房の主は粗末な布団の中でいびきをかいて寝ていた。
「起きろ」
言うと同時に看守は寝ている男の腹を厚い靴底で踏む。
「お、お前、何しやがるっ!」
激昂する男を、看守は蹴り倒す。
「何って罰を与えてるだけだぜ。お前みたいなクソ野郎によお」
喚き続ける男を、看守は容赦なく蹴り続ける。
「看守が、こんなことやって、許されると思ってんのか!」
「じゃあ聞くが、お前は人を殺しておいて、ちょっと刑務所に入るくらいで清算できると思ってるのかよ?」
「おい、誰かっ! 他の奴はっ! 弁護士を呼べ!」
「助けなんて来ねえよ」
暴力を振るわれ続け、傷口を庇いながらも、男は叫び続ける。
「被害者が、何度も助けを求めても、お前は無視したよなあ?」
「う………」
男は呻き声を上げるばかりになった。
「目には目を、歯には歯を。俺はハンムラビ法典派でね。やられた分だけやり返すのが筋って
もんだ。人を殺すなら自分も殺される覚悟が必要さ。人の命を奪っておいて、自分はぬくぬく
と生きられるなんて虫が良すぎだぜ」
数時間後、強盗殺人を犯した男が一人、刑務所の中で亡くなっているのが発見された。
死因は、心臓発作とのことだった。
翌朝、依頼主の男性は、刑務所で犯人が死亡したことをニュース番組で知った。
「死んだ! 本当に……」
呆気に取られている男性の目の前に、音もなく、うらみ屋が現れる。
「よお、気分はどうだ?」
「ありがとうございます! 本当に!」
男性は、うらみ屋の下に跪いて、涙を流した。
「そりゃ、良かった」
男性は繰り返し、感謝の言葉を述べている。
「で、報酬なんだが」
「は、はい! いくらでも!」
「いくらでもって、まあ一つしかないんだけどな」
「ははっ、そうでしたね」
「じゃあ、お前が死んだ頃、また会いに来るよ」
「はい、よろしくお願いします」
「うらみ屋」
恨みを持つ者の願いを叶える闇の仕事。
暗殺、社会的抹殺、その他諸々の制裁、何でもござれ。
報酬は、依頼者の魂。
人間の魂を食らう、悪魔が運営している。
その悪魔の名は、ベルフェ。
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