不気味な放課後
※ホラー要素あり。
「うん、じゃあ新入部員は決まりだね♪」
旧部室棟にある、不法占拠された部室(仮)。戻って来た僕達を見て、サレナはぱんと手を叩いた。「言うと思った」と川内。
じゃあ、と言われましても。持続詞というのは関連性があやふやだと相手方には意図が伝わらないぞ。
「またまた、知らないふりはよくないよサキト君。決まってるじゃん、君にとって初めての相手だよ」
くそ。もちろんわかってて僕は右から左へ受け流したかったのだ。こいつはわざと察さないようにしているのだろう。おおいにごかいをまねく言い方をしやがって。
そう言ってサレナが面白がっている原因。僕が恐怖する理由だ。
「…………」
ここに戻ってくる途中からずっと、星河はむっつりと黙ったまま。こちらから話しかけるどころか視線を向けただけで、
『死ねっ。死ね死ねこのゴミ!』
と、殴る蹴る叩く刺す(定規、コンパスで。ガチ)を見舞ってくるため真の意味で触れぬ神と化しているのだ。もちろん理由は全くわからない。
他人事だと思ってか、ずっとそっぽを向いている星河を見てサレナは四割増しでニコニコしてやがる。
川内に至っては、
「何というか、マジでアホなのね」
などと侮辱してくる始末。自らの存在が消えかかっている今の状況より、女子の心理の方がよっぽど複雑怪奇にして脅威だと言わざるを得ない。恨みを込めて睨みつけると、川内は謎のウィンクの後ニンマリと笑った。ギャルの高度なアイコンタクト、見極めて見せる――
「……地獄でも殺そ」
死ね死ね団と化した星河がボソリと漏らす、恐怖の殺害予告に一瞬で竦み上がる。哀れ、僕。
逃げるように、サレナへと話を振る。
「そういや、あの白い集団はどうなったんだ? 結構な数だったけど」
「サレナと星河ちゃんで処理しといたよ。といっても、『本流』は皆、一階の方に行っちゃってたみたい」
ミスっちゃった、とてへぺろするサレナ。まあ、マスクで見えないんだが。
「くそー、あたしも参加したかったのに。呼べよな」と愚痴る川内に軽く謝りつつ、サレナは続ける。
「でも、あの子――
「『見えない女』のアンタ以上に掴めない奴も中々いないと思うわ」
「えへ、照れるなあ。サレナってすごいでしょ♪」
「ハイハイ、すごいすごい。生きてて偉い」
頭を撫でられに行くサレナと、しぶしぶ応える川内。相も変わらず憮然の星河も含めて、何だかんだこいつら仲いいんじゃねと思わなくもない。
それに、気になるのは話題の中心、謎の後輩美少女だ。色々と強烈な印象を残していった、正統派後輩の皮を被った得体の知れない存在。
「雲竜かかお……また、とんでもない名前持ちが出て来たもんだ」
元、降魔の名を冠した自分が言えることでもないが、経験上生物の名前を持つ刺客は非常に厄介だった。ましてや神話級の生き物となると……
僕が考えているうちに「それじゃ」とサレナは、
「明日、かかおちゃんに声掛けてみるよ。お楽しみに~♪」
その一言を最後として、その日の部活(?)は解散と相成ったのだった。
*
それにしても、旧部室棟というのは中々のホラースポットになり得るのではないか。そう思える程、古い落書きが放置された壁やギシギシと軋む廊下はその手の趣味嗜好を持つ者をそそる何かがあると感じる。
まあ僕自身、全く霊的なものは信じないし肝試しどころかお化け屋敷にさえ行くことはないと断言できる。でも、
――祟りや言い伝えは案外実現するんだよねー、これが。
人は名を持ち、名は人を表す。
だからこそ、僕やサレナは今までひどい目に――って、あれ?
「何で、会ったばかりのアイツの昔を知っていると思ったんだ?」
それもあるが、違う。今のざわめきはそんな細かい所じゃない。
もっと直接的な、致命的な何かを見失っていないか?
「ここ、今。全員でほぼ一緒に出て帰ろうと。え」
言葉、廊下。人の姿。反応がない。少女三人は? 整合性が消える。何故かとっくの昔に蒸発していたかのように、当たり前の如き孤独と欠落が寒気を呼ぶ。
「あ、うん。廊下だよ廊下。よかった。何も違和感ない、よな」
……………………………………………………………………………………………………………………?
いや、おかしいだろ。何を言っているんだ? でも何がおかしい……?
支離滅裂な頭に向けて、どこからか声がする。
『教室だったらいつも通りかも』
「下駄箱にも靴戻って来たし、走っていくか」
うん。何を考えているのか不明瞭だが、さっきから思考がまとまらない。言葉にしようとした矢先、文字が、発音がするりと抜けていく。
その前にも、後ろにも、隣にも古い制服の生徒達がぞろぞろ、ぞろぞろ。
なのに無我夢中で、旧部室棟を走る。廊下が、窓が慌てたように視界の端で流れていく。
そして、
「教室、教室。ここならとりあえずいても大丈夫だよな」
校舎の何処をどう通って来たかもよくわからないまま、足を踏み入れた教室。いつものように出迎える、均質に並べられた学習机。睥睨する黒板。
安心した瞬間、自分の喉から出たとは思えない悲鳴が木霊した。
あ
という、何十人もの口の形。何故かその全員が、黒く焼け焦げた体で座っていて。
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