そのぬいぐるみは貴重品

カフェ千世子

そのぬいぐるみは貴重品

 何かの資源が有害だとして、不使用になったり。何かの資源が希少になって保護されるようになり、不使用になったり。

 そんなことはどの時代でも繰り返し起こっていることで。


 布や生地と呼ばれるものが資源として回収されることが起こったのだ。

 その前は宝石などの貴金属。レアメタルが取りつくしてしまって宝石の類も装飾品から資源へと回されることになったのだ。

 文化的価値のある美術品なんかも回収されて、大層反対運動などが起こった。これは現代における焚書ではないか。文化破壊ではないか。と。

 しかし、映像での保護技術がより高度になり。質感までも再現が可能になり。データとして残すから、との論調で押し切られてしまったのだ。


 布製品の回収。あたかも、戦時中の金属回収のようだった。


 衣服は液状繊維の発明により、よりシンプルで少ない素材で作られるようになった。

 貫頭衣か全身タイツのような見た目の服達。おしゃれは失われた。


 常識の改変に次ぐ改変により、だんだん人類はそれを受け入れるようになった。

 なにより、原料がないのだ。


 昔を知る人間ほど、いたたまれない気持ちになる。そして、過去に作られた布製品は次から次へと回収されていった。



 すべての衣類や布製品が回収される前に、無人の惑星の発見により、その地を植民地として利用することで資源の枯渇は一旦解決した。


 失われたおしゃれがほんのわずかだが、復活した。


 今はまだシンプルなワンピースにリボンのような飾りを一部つけるだけの簡素なものでしかないが。幸いにして、映像資料は残っているので、これらの過去に作られた衣類の復活も夢ではない、との論調が高まっている。



 回収されかけたが難を逃れた布製品たちは、一旦資料館に展示の形で保護された。



「くまさん!」

「そう。テディベアって言うの」

「おリボンしてる! おしゃれしてる!」

「そう。このくまさんはね。初めてリボンを巻いてもらった日が誕生日になるの」

 キラキラした目で孫が見ているのは、私が作ったつたないぬいぐるみであった。

 娘時代にたわむれに作ったものなので、目の位置は不自然だし手足のバランスも不安定だ。

 素人の作ったものでなおかつクローゼットの奥底に沈んでいたものだから、回収からの難を逃れたのだ。

「かわいいね!」

 笑顔で嬉しそうに言う孫の姿に、なぜだか目に熱いものがこみ上げてきた。

 また、彼女のために作ってあげたい。そして、それを彼女が抱きあげる日をこの目で見たい。

 そんな日が、きっと来るはずだ。と希望を抱いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

そのぬいぐるみは貴重品 カフェ千世子 @chocolantan

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ