イッツアスモールワールド
高吊本音
イッツアスモールワールド〜地竜編〜
【キャラクター紹介】
・ミーくん:物語の主人公格。男性。人間。外見は二十歳を少し過ぎたくらい。魔法をたくさん使えるが大半の魔法に実用性はない。シロ・クロの二人の女性とパーティを組んでいる冒険者であるが、持っている能力の特性上戦闘が苦手なため冒険者としての腕はイマイチ。通常戦闘ではシロ・クロのサポート役に徹することが多い。
・シロ:ミーくん・クロと一緒にパーティを組んでいる冒険者。女性。外見年齢は二十歳前くらい。髪から足先まで全身白い外見。戦いに向かないロングドレスを好んで着用する。肉体が武器であるため、鎧も武器もほぼ必要のない脳筋タイプ。力は強いが頭は弱い。力は強いが頭は弱い。ミーくんが大好き。
・クロ:ミーくん・シロと一緒にパーティを組んでいる冒険者。女性。外見年齢はミーくんと同程度。髪から足先まで全身黒い服装。武器も使えるし肉体でも戦える万能型ではあるが、基本的には頭脳労働型の策士。自分より弱い奴としか戦わない。
・酒屋の主人:街道に店を構える酒屋の主人。付近に宿屋などもないため酒場は旅人たちの憩いの場でもある。元村一番の力持ち。得意料理は自家製シチュー。
・酒屋の娘:街道に店を構える酒屋の主人の娘。器量好し。頭脳良し。旅人たちに一時の癒しと冒険に必要な情報を提供する。
・アドラ:酒屋を訪れた傭兵団の女団長。辺境の竜討伐のために来た。元騎士ではあるため、実力はかなり高め。魔法も剣も使える万能近接型。意外と人想いだったりする。
・カジック:酒屋を訪れた傭兵団の団員。筋骨隆々な大男。魔法を使わない肉体派だが、しっかり頭も切れるタイプ。でも直情的になりがちなのが玉にきず。
・地竜:山脈の側の魔境の森を根城にし始めた竜。ここを根城にし始めたのは最近のことだが、結構長生きしている竜。比較的温和だが、自分が生態系の頂点であることは自覚している。人語が理解できる程度には知的。
●世界観
かつて世界には大きな戦いがあった。竜族を滅ぼした愛を知らない神と、竜族を寵愛していた愛しか知らない魔神の、醜い醜い戦い。
白と黒の雨が降りしきる中交差される刃は大気を轟かせ、大地を幾度も割っていた。
中空で激しくぶつかり合う二柱の足元、砕かれた大地に溢れた雨は流れていかない。
それもそのはず。よくよく見ればその雨粒は遥か上空、空を埋め尽くす天使と悪魔が斬られ、焼かれ、刺され、砕かれ、黒い雨のように大地に散っている姿だった。
『何故、我々は戦わなければならない』
神は嘆いた。
『お前がそれを言うか』
神の剣を撃ち払いながら魔神は答えた。
『戦争を始めたのはお前だろう?我々を殺し始めた理由はなんだ?!』
『そうか。我々から始めたのか。ならば正義は我々にあるのだろう。理由はわからぬが貴様らには滅びてもらう』
『傲慢な考えだな……!何様だ……!!』
『知ってるだろう?神様だよ』
これは、今では天魔戦争という名で語り継がれている。
百八年に及ぶ戦いによって神と天使は消滅し、魔神も悪魔も魂だけの存在として砕け散った。
そんな、神話時代の戦争からさらに約千五百年。
変わらず魔獣は大地に蔓延り人類は脅威に晒されてはいたが、気まぐれな神と過干渉な魔神を失ったことで仮初めながらも、世界は平和だった。
仮初めながらも。
●街道の酒場(語り手:街道の酒場の主人)
「オヤジぃ、酒だ。」
酒場に入ってきた集団は二十人ほど。その先頭にいた無精髭を生やした中年の男が店に入ってくると同時に注文をいう。
皆軽装ながらも鎧に身を包み武器を携えていた。一目で傭兵集団とわかる。移動に使っていた馬は店の外に繋がれていたが、数が多く何頭かは放し飼いのようにされていた。
普段ならこんな片田舎の酒場にこれほどの集団は珍しい。
ここは王都から大きく離れた田舎村の酒場。村には農業を行う数十人程度しか暮らしていないが、なんだかんだでこのように冒険者などの旅人が多く足を運んでくれるおかげで村は栄えていた。
「あいよ!らっしゃい!」
今回訪れた集団の中で一際目を引く人物が一人。元騎士だろうか?装備が他の者とは質が違う。思い思いの装備を着ている集団の中では明らかに浮いていた。
他の面子の態度から見るに、恐らくこの人物がこの傭兵団の頭領だろう。
「すまないな。あと料理も出してくれ。全員分。代金はこれで足りるだろう」
頭領らしき高身長の人物が出してきたのは金貨一枚。金貨一枚といったら都で店を開いて約二週間分の売り上げだ。こんな片田舎の酒場にとって足りないわけがない。
なんならこんな片田舎の酒場では一ヶ月分の売り上げになる。
全身鎧(フルプレート)タイプの鎧を着込んでいるため最初気づかなかったが、この元騎士らしき人物は女性だった。歳は三十少し前くらいだろうか。
兜を脱ぐと一気に広がる髪は背中まで長く、錆のような赤茶色をしている。鎧の下から見える身体は筋肉質だった。
身長は思っていたよりさらに高い。周りの傭兵たちが大柄なおかげで相対的に低く見えたが、実際のところは俺と同じかそれ以上ぐらいだろうか。俺はこれでも昔は村一番の巨漢と言われていたが、彼女はそれ以上だった。
「お、おう。太っ腹だな。任せとけ!」
俺は彼女からの戦士としてのプレッシャーに若干気圧されながらも、それを誤魔化すように元気な声で注文を受けた。
「頼んだぞ。よし、お前ら!ここはあたしのおごりだ!戦いの前の英気を養ってくれ!」
「「「「「「「「うぉおおお!やったぜ!」」」」」」」」
歓喜に沸く傭兵たち。このような辺境の村まではそこそこの遠征だったのだろう。疲労感を見せていた幾らかの強者達も頭領の言葉に歓喜の雄叫びをあげる。
その後はもう宴会だった。払いは良く、好きなだけ飲み、好きなだけ食う。客としては上々だ。
こちらも気分がいい。
「おい嬢ちゃん、こっちにも酒追加だ!」
「はいはーい!今日は千客万来ですね!」
給仕を行なっているのは俺の娘だ。今年で二十歳。こんな平民、酒屋の生まれなのに教養・気品があり、自慢の娘だ。親バカとは言われるが、容姿も悪くはない。
嫁に出してやりたいところが、こんな片田舎では嫁の貰い手もいない。しかも、この子も「この家を離れない」とこった。
どうして俺たち夫婦の間にこのような良い子が生まれてしまったのだろう。可能なら良家の娘として産んでやりたかった。
「父さん、母さん、追加のオーダーね。ラムの香草焼きが十二皿、森の妖精エールが二十人前、牛の頭三つと鳥の揚げ物十五皿、農園サラダを四皿、それと――」
「ちょ、ちょっと待て待て!」
嫁と俺は全力で料理を作りながら厨房で目を回していた。こんな注文は久しぶりだ。幸い、備蓄はあったため材料に困ることはないが如何せん二人で捌ける注文量ではない。
「あ、やっぱ間に合わないよね。わかった。わたしも少し料理手伝うよ。あ、料理はちょっと待ってくださーい!はい、こっちはエールお待ちですー、五人前ねー。はいはいごめんなさいそこ喧嘩しないでくださいねー、料理ができるまではこの豆も食べてくださいねーうちの農園で育てた絶品ですよー。あ、父さんもうその肉焼けてるよ」
給仕、料理、接客全てをこなしながら働く我が娘、親である俺ですらすごすぎて絶句してしまう。
「はい、トカゲの尻尾焼き五本お待ち!……ところで皆さんはなんでこんな村へ?」
娘が傭兵たちに問いかける。
「そりゃ嬢ちゃんオメェ、ここに住んでおいてあの噂を知らない訳ねぇよなぁ?」
「そうだぜ。王都の方じゃもっぱらの噂よ」
「御察しの通りアレだよアレ」
彼等は口を揃えながら店の窓から見える山脈を指で指した。
地竜。
六年前よりこの村のそばの山脈を根城に、急に生態系の頂点に君臨するようになった化け物である。
竜族は天魔戦争にて天使と悪魔の戦いに巻き込まれほぼ絶滅したと言われているが、実際のところは数を減らし細々と生きているのが実情だ。
天地全てにおいて最強と言われた竜族も、今では大暴れしている姿はほぼ見られない。
数年に一度、若い竜が住処の住み替えで飛行している姿を見かけるくらいか。
「あ、やっぱり。あの竜、何とかしてくれますか?あの竜のおかげでお客さんがめっきり減っちゃって。昔はもっと旅人がこの村を訪れていたんですけど今では皆怖がっちゃってさっぱりですよ」
正直、その竜の討伐のための冒険者の来訪が増えたので村の収入自体は昔とは比較にならないほど上がっているのだが、竜がいる事で常に村滅亡の脅威にさらされているのも事実だ。娘だけでなく、この村の住人全員が同じ気持ちだろう。収入が増えることは嬉しいが、命あっての物種だ。歴史の古いこの村だと他の土地に移動するのを嫌がる輩も多い。そうなると、やはりあの竜にはいなくなってもらった方が良いのだ。
「任せとくがいい。こう見えてあたしらはギルドからの要請で数多の魔獣を討伐してきているからな。最近ではレッドキマイラ二体の討伐を成し遂げている。犠牲も無しだ」
天魔戦争が終わった今でも魔獣の脅威は健在だ。人同士の争いも多いながらも同じくらい魔獣の被害も多い。傭兵団の需要は多く、このような場所に派遣されることも少なくは無い。
しかし、その中でも竜相手はかなり特殊だ。脅威度が違うのである。
個体によってはその脅威度は国を脅かすほど。一国の軍隊全てを投入し、なお滅ぼされた王国もあったとも聞く。
「あの山に棲む地龍は比較的小型と聞く。しかも、あまり好戦的では無いそうだな」
「そうですね。ここに来る冒険者たちの話では大きさはせいぜい五馬身程、翼も無く発見できれば交戦は容易、また逃げても追ってくることはあまり無いとも聞いています」
「だそうだな。だからこそあの懸賞金だ。まぁ、それでもあの山脈の麓の森の生態系を大きく乱しているから討伐する必要はあるんでな、そのための私らよ」
よっぽど自信があるんだろう。団長は自信満々に話した。
事実、彼らの装備は軽装ではあるがそこらへんの冒険者に比べると圧倒的に質が良い。
手入れの行き届いた武具に、魔石のはめられた装備品。買うとなると金貨数十枚はくだらないだろう。
これだけの装備・人数なら高ランクの魔物相手でも十二分に通じるはずだ。
――だが、この和やかな空気の中。
俺は気づかなかった。
俺たち以外でその話に反応している輩がこの酒場にいることに。
「あーっはっはっはっはっはっはっはっ!」
大きく口を開けて笑っていたのはカウンターで飯を食っていた三人組のうちの一人だった。
傭兵団が入ってくる少し前に入ってきた冒険者だ。
「その程度の戦力で竜を相手するだと?笑わせてくれる。もって五分がせいぜいだろ」
驚いたことに野次を飛ばしていたのは少女。年は二十歳前くらいだろうか。純白の衣装と腰まで届く綺麗な白髪が特徴の美人だ。
冒険者ではありそうだが、それらしい装備はほぼ持ち合わせていない。後衛職などだと装備が薄いこともあるが、ここまで装備が薄いのは珍しい。まるで、外に散歩に来た貴族の令嬢のような格好だ。足元を隠す純白のロングスカートを履いているが彼女の立ち振る舞いがその清楚な雰囲気を台無しにしていた。本当にこの姿で冒険してきたのだろうか?
「あ?」
ドスの聞いた声で返事をしたのはよりによって傭兵団の隊長だった。
「あ?じゃあねぇんだよ。騎士崩れ。ちゃんとした竜種との喧嘩は初めてか?まさかとは思うが亜竜種を狩って自信がついたとかじゃねぇだろうな」
「言うじゃねぇか小娘。お前はあれか?竜と対峙したことあるのか?それとも尻尾巻いて逃げてきたのをさも自慢気に話しているのか?」
「そんなこともわかんねーから笑えるっつってんだよ。レッドキマイラをどうのこうのとか言ってたけどな、竜族にとっての『餌』を倒して自慢気でいるのことがおかしいわけねぇだろう」
「あーあーあー、シロ、やめとけやめとけ。何でもかんでもに突っかかるのはやめろ」
その白い女の傍、仲間の一人と思われる女が彼女を制止にかかる。白い彼女とは対称的に、真っ黒な髪と体型にピッタリとした黒い冒険着。まるで影が生きて動いてるようにも見えたが、その白い肌と赤い瞳が彼女を人たらしめる証拠となった。
それにしてもあの制止した黒い方、下卑た笑いをしていやがる。ありゃあ、本当は止める気ねぇな。あわよくば喧嘩になればいいと思ってるやつだ。
俺の店でふざけやがって。外でやりやがれ。
「うううううーーーるううううーーーーせえええええーーーーー!!!こいつはここでぶっ飛ばすのが正解だろ?私がやる!」
「ダメに決まってるだろ、シロ。自分の役割をちゃんと考えろ」
「よーし、お前ら、私を舐めてんな?舐めてんだろ?その喧嘩買ったぞ」
あ、やばい。あの団長も本気で怒っている。
やめろ。店の中は。外で。外でやれ。まじで。
「お客様――」
「――すまない、連れの口が過ぎたようだ。謝罪させてくれ」
娘が白い女を制止する言葉を遮り、今度こそちゃんとした制止が入る。制止に入ったのはその三人組の中の最後の一人。ボロマントの青年だった。歳の頃は二十歳を少し過ぎた頃だろうか。背は三人の中では一番高いものの、傭兵団の団長ほどではない。疲れ切っているその目に覇気は無く、迫力は無いに等しい。そんな彼が白い女と傭兵団長の間に入ってきた。
「シロ。いくら何でもお前なぁ、――――」
「どけぇえええええええええええええーーーーーー!!!!!!」
そして二人の間に入ってきた瞬間、その白い少女に胸ぐらを掴まれて店の外まで投げ飛ばされていた。
大の大人が壁を貫く轟音。
店の壁を貫き、数馬身先の地面にボロ雑巾のように身体を打ちながらそこからさらに数秒転がる。
え、え、流石に死んだ?死んだ?
外に放り出された青年はピクリとも動かない。その光景には流石の団長もドン引きのようだった。
怒りを忘れて彼の方を見ながら絶句している。
「え、えーと、え?」
ほら、混乱している。
「いくらダーリンでも!私の喧嘩を止めることは!許さない!!」
「いやダメだろ止めさせろよ。あたしら今日ここの宿に泊まるんだぞ。追い出されたらどうするんだテメー」
「え?」
「え?じゃねーよ」
黒い方が白い方の頭を叩く。
「いやだって、こう、ほら、私たちの力を世界に……」
「そんなことは後からいくらでもできるだろう?そんなことより今日の宿だこのバカ」
「え、え、え、えーと」
困惑している彼女はゆっくりと俺の方を振り返り、
「ごめんなさい」
俺に謝った。
いや、そうなんだけど団長にも謝れよ。
「いや、そうなんだけど団長にも謝れよ」
白い彼女をもう一度叩いたのは驚いたことに先ほど投げ捨てられていた青年だった。
生きていたのか。
流石に服は土まみれになっていたが、怪我らしい怪我があるわけでもなさそうだった。
「おや、ミーくん。生きていたのか」
「いやあれで生きてるわけねぇだろちゃんと死んだわ。身体バキバキよ」
「あははははは!」
黒い方の女は爆笑している。人の心がないのかこいつ。
「ともかく、シロ、お前は無用に喧嘩を売るのをやめろ。ややこしくなるんだよ。クロも!シロを煽るのをやめろ!」
「えー無理無理無理。だってシロを煽るの面白すぎだもん」
「子供か!」
「ダーーーーリィーーン!ちゃんとシロ謝ったよ!?偉かろう?偉かろう?」
「いや俺にも謝ろうね?」
「褒めるのが先だろうーーーーーーーー!」
そう言われ再度男は壁の穴から投げ捨てられた。
理不尽だ。
結局、数分後には再度彼が二人を諭す事になり事なきを得ることとなった。
「わかった。わかったよ。仕方ねぇな。興醒めしちまったからな」
団長もあのやりとりについてはもう追求はしなかった。
よかった。ちゃんと大人だ。
「良かった……てっきり喧嘩になるかと……」
娘が安堵の声をあげた。
「だが、こう、まぁ、私もお前も冒険者だ。今回の件、冒険者なりの流儀があるだろ?ん?」
あ、この団長思ったより子供だな?
●道楽の冒険者(語り手:アドラ団長)
めんどくさい事になってしまった。
先ほど食べていた村の酒場のすぐ外、街道で私は自分の言葉を反省していた。
一時の感情に流され、流浪の冒険者と決闘をする事になってしまったのだ。
まるで子供だ。
一つの組織を率いる長として、感情に任せた判断は組織の生死に関わるので決して行ってはならない。そう教わっていたはずなのだが。
「私もまだまだだな」
誰にも聞こえないよう、独り言を漏らしながら彼らと対峙していた。
どうするべきか。流石に殺すのはやりすぎだろう。脚でも折ってしばらく休養させようか。
幸い、この酒場は宿屋もやっている。彼らもこの宿屋に泊まれば問題ないだろう。
峰打ちは得意ではないのだが、まぁやってみるとしよう。
そう思いながら剣に手を掛けたところで後ろから声をかけられた。
「隊長の出る幕はありませんよ。俺に任せてください」
私の言葉を遮り、名乗り出たのはうちの傭兵隊の一人、カジックという大柄の男だった。
身長はボロマントと同じ程度、しかし体格はカジック方が大きく優っていた。
カジックは片腕のみの鎧を装着しており、鎧のない自由な方の腕には彼の頭の倍はある鉄球がついたメイスを持っていた。我が傭兵団の自慢の攻撃役(アタッカー)だ。単純な戦闘力で言えばうちの傭兵団でも指折りである。
「……いいだろう。ただし、殺すなよ。我々は殺し屋ではないのだからな」
念の為釘を刺しておく。彼は実力はあるのだがすぐ調子に乗ってしまうのが玉にキズだ。王国の騎士団とも何度かいざこざになったこともある。流石にもう二度とそういうトラブルはごめんだ。
「わかってますよ隊長」
愛用の獲物、メイスを手に取りながらカジックはその男に話しかけた。
「お前、ミーくんだっけか?曲がりなりにも冒険者なんだろ?実力はどのくらいなんだ?」
ミーくんと呼ばれた青年は少し考えながら答える。
「えぇと、まぁ、一応シルバーウルフくらいなら」
「へぇ、シルバーウルフをやれんのか。大したもんだ」
シルバーウルフを狩れるなら十分中級冒険者の域だ。二馬身を超える体長のシルバーウルフは必ずつがいで行動しており、高い知性も持つため中級冒険者への登竜門扱いとされている。
「じゃあ、手加減は不要だな」
「いやぁ、お手柔らかに……」
やはり、彼もあまり決闘には乗り気ではなかったようだ。少し悪いことをしてしまった。
「一撃だ」
カジックは指を一本だけ立てて宣言した。
「一撃、俺の攻撃に耐えられたら終わりにしてやる」
「ウぅぅぅルセェ!一撃もクソもないわ!ダーリンがその程度で終わるわけがなかろうが!バァァカ!ブワァァカ!」
白い女が口汚く叫ぶ。その整った顔が怒りで歪んでいる。その様子から見るに、あのボロマント、実は結構な実力な持ち主なのだろうか。
「魔法は?」
「好きに使え。俺は今回使わん。このメイスだけで充分だ」
正確には使えないんだけどな。カジックは今時珍しい純粋な肉体のみで今の立場を確立したタイプだ。それ故に攻撃はシンプルだが脅威となる。
「そいつぁありがたい。無駄に死にたくないんでな」
男は即座に指で魔方陣を小さく描きながらブツブツ呟き出す。おそらく強化魔法だろう。指の動きに合わせ複数回全身がうっすら光る。身体に強化魔法がかかった証拠だ。
我が傭兵団の連中からも感嘆の声が上がる。魔法を契約書無しで行使する冒険者はかなり珍しい。私も今回で見るのは二回目だった。
「…………五秒待った。そろそろ行くぞ」
そう言った瞬間、カジックが一気に動いた。その体格・装備からは想像できないスピード。四馬身はあった間合いが一瞬で詰まる。
成人一人分の重量はあるメイスが目にも留まらぬ速さで空を切った。ボロマントの男が上体を反らし、紙一重でカジックの一撃を躱したのだ。
「うぉおお!?死ぬ!死ぬ!」
体勢を崩しながらも彼は指の動きを止めない。止めどなく魔方陣を空に描いては全身に魔法をかけていく。
私が見えただけでも最低な八つは魔法を重ねている。
奴のことは最初魔法戦士だと思っていたが、腰に下げた剣を手に取らないところを見ると実際のところは純粋な魔術師(マジックキャスター)のようだ。
従来、魔法は悪魔と契約して行使する。魔法の構成は人間には理解が不可能なため思考能力の一部を悪魔に捧げ、魔法の演算・行使を行うようにするのだ。そのため、多くの魔法を使うにはそれなりの思考容量を悪魔に捧げるわけで、それだけ人間性が失われていく。
才能にもよるが、一般的にはせいぜい三つ。熟練の魔法剣士でも習得できる魔法はせいぜい五つくらいだろう。それ以上は代償が大きすぎる。
だからこそ、本来はその代償を肩代わりしてくれる契約書を利用して魔法を唱えるのが普通なのだ。その分、契約書は使い捨てなので一枚につき一回しか魔法は行使できない貴重なもの。魔法主体で戦う魔術師にはかなり大きな制限となってしまうため自身の思考容量を悪魔に捧げることを厭わないものも少なくない。
これらの点から、これだけの魔法を契約書なしで行使する彼は魔術師で、腰の剣は接近戦もできる魔法戦士と誤認させるブラフだと考えた方がよさそうだ。
カジックも奴の動きを見ながら瞬時に見抜いたようだ。魔法の使えない純粋な戦士職である彼ではあるが、幾多の戦いをその観察眼で生き残ってきた。だからこそ――
「大振りしかできないとでも思ったか?」
――彼にはブラフは通じない。
メイスを振った勢いそのままに、全身で接近し高速の蹴りがカジックから体勢を崩した奴のくるぶしに放たれた。
「いぃ――――っだい!!!!」
痛みによる叫びだろう。宙を二回転しながら男は受け身の体勢をとった。
「『満たす器は聖者の掌、泉の一滴(ティアドロップ)』」
空中で受け身の体勢を取りながらも掌を正確にカジックに向ける。その瞬間、人体を包み込む様に球体の光の幕がカジックを包み込む。
初級ではあるが、強力な拘束魔法だ。あの光に包まれれば、全身が鉛の様に重くなり動作を大きく阻害する。
しかし、遅い。
「一手、遅かったなぁ!!」
カジックのメイスの方が速かった。剛腕によって振り抜かれたメイスは拘束魔法が効力を発揮する前にボロマントの彼の脇腹を捉え、視界から吹き飛ばした。
「ダーリン!!!!!」
決着は、一瞬だった。
カジックの勝ちだ。
カジックに吹き飛ばされたボロマントを受け止めたのはあの白い女だった。
距離で言えば四馬身以上吹き飛ばされたボロマントに一瞬で追いつき、受け止めたところを見るとあの女、身体能力はカジックを大きく上回りそうだ。
流石の私も驚きで息を飲んだ。
鎧はほぼつけていないが戦士職なのだろうか。それとも機動力に特化しているタイプなのだろうか。
いや、そうだとしたらあのボロマントを受け止めたことの説明がつかない。一瞬だが身体が発光したように見えたのは強化魔法か?
それにあのドレスは動きづらいはずだ。わからん。彼女はどんな役割をあのパーティで担っているのだろうか。
「ダーリン、幾ら何でも無茶しすぎだよ。痛くないわけじゃないんでしょ?」
「いやぁ、そうだよ痛いよ?死ぬほど痛いんだけどお前が原因じゃん。流石に俺がなんとかせんといかんでしょ」
「うぅっ……!ダ、ダーリンのそういうとこ好き!」
受け止めた彼をそのまま強く抱きしめる。
「シロ折れるシロ折れる背骨折れる折れるやめて痛い痛いいぃぃぃぃやあぁぁあああああああ!」
●勝負の行方(語り部:アドラ団長)
「あいつ、生きてましたね」
決闘を終えたカジックが私のそばにやってきた。
「……そうだな」
確かに、カジックの一撃をまともに受けて五体満足でいるあの男もかなり怪しい。強化魔法をかけていたとはいえ、普通なら一ヶ月は立ち上がることすら出来ないだろう。
「正直、手ごたえは結構あったんすよ。というか、手加減できなかったですね。あいつ、結構強いですよ。でもおかしいのは、そこじゃなくて」
「そこじゃないとは?」
「あいつ唱えていた魔法の数の割にはこう、殴った感触がほぼ生身だったんですよね」
「生身?」
「えぇ。あいつが唱えていたの身体強化魔法じゃない気がするんですよね」
「生身でお前の一撃を受けたのかあいつ?正気か?」
もしそうだとしたらあのボロマントには冒険者にとって最重要とも言える危機認識能力決定的に足りていない。
戦いにおいて一番大切なのは引き際だ。それが見極められないやつはいくら強くとも生き残ることはできない。
しかし現にあいつが生きているのをみると、何かしらの防御方法があったのだろう。
「恐らくですけど、あいつが唱えていたのは遅延型の回復魔法じゃないですかね」
「回復ぅ?」
「攻撃が当たった瞬間に発動するタイプで、重ねがけすることで一瞬で瀕死状態から回復したんじゃないかと思うんですよ」
「なるほど……確かにそれなら説明がつく。つまりあいつは剣士でも魔術師でもなく、癒し手(ヒーラー)ということか」
「同時にその回復力を活かした盾役(タンク)の可能性も否定できないですね。そしてあの白い女の身のこなし。確実にあいつの方が攻撃役(アタッカー)です」
「フッ。世の中には名の知られてない実力者はいるものなんだな。今後彼らが敵にならない事を祈ろう」
これは本音だ。
こちらの小さなプライド、戯れのために決闘はしたが、彼らの実力を侮っていたのは確かだ。今回はあのボロマントに勝利を譲ってもらったがもしあの白い女と本気で決闘していた場合、負けるとまでは思わないが互いに深い傷を負うこととなっていただろう。
そこを回避できただけでも良しとしよう。
「カジック。あいつらには敬意を持って挨拶をしろ。決闘は終わりだ。あと酒場の親父には店の修理代を出してやれ」
「え、いいんですか?」
「私の判断ミスで危うく部下を一人失ってたかもしれないんだ。実質的には勝ちも譲ってもらっている。そう考えればこれくらいは安いものだ」
少しだけ、悔しさはあるが、な。
●決闘を終えて(語り手:クロ)
「いやー負けたねぇ。アッハッハッハッハッハ!それとも負けてあげたのかな?」
私は戦いを終えたミーくんに声をかけた。見た感じ、特に大きな怪我はなさそうだ。
「ぺっ。何言ってんだよ、クロ。負けてあげたわけねぇだろ」
ミーくんが口の中の血を吐き出しながら答える。
「負けさせてもらったんだよ」
「ハッ、物は言いようだな」
というか、別にどっちも大した差はないぞ。
「そもそも、ダーリンはあいつに絶対勝てないもんね」
「いやまぁ、そうなんだけどさ。焚きつけたのお前だよね?」
「え?」
「え?じゃあねぇよ!!!」
「ダーリンってたまに変なこと言い出すよね……大丈夫?頭殴られたから?」
「お前えぇえええ!人が親切にすればつけあがりおってぇ!!!!」
「まぁまぁ。でも珍しいじゃないか。ミーくんが攻撃の直撃を受けるなんて。得意の防御魔法はどうした?」
「え、まぁ、うん」
「何かに気を取られたかい?」
「い、いや……」
「例えば、戦闘開始時にあれだけ時間があったのに自分にかけてた魔法が自分の口臭を消す魔法・歯を磨く魔法・鼻毛を剃る魔法・髪を洗う魔法・髪を乾かす魔法・服にシワが付かない魔法・服に汚れが付かない魔法とかだったりしなかったかい?」
「バレてる!!???」
まぁ、こんなことあの傭兵団には絶対教えられないが。
●ミーくんの秘密(語り手:クロ)
ミーくんは数多の悪魔と契約している。契約している、というか契約できている。その数、278392体。それも年々増えている状態だ。
世の中数体の悪魔との契約が主流ではあるのだが、厳密に言うと人間性の欠損を伴うので人によって限度はあるし、悪魔の強さによって喪失する人間性の多さは大きく異なる。
「ん?」
「どうした?クロ」
「いや、誰かにそれはもう説明したぞ、って言われた気がした」
「なんの話だ?」
「シロ、私には天から物語を円滑に進める大役を任されているんだ」
「?ふーん?地獄からの間違いじゃないの?」
「細かいところはどうでもいいだろ」
まぁ、そうは言っても日常生活にまで浸透している魔法を手軽に使う手段もあるのが実状だ。魔法の契約書。契約の内容を記載された契約書は、一度使うと消失してしまう使い切りタイプではあるのだが魔法を習得していない一般人が代償なく魔法を行使できるため人気は高い。今日のミーくんと戦ったあいつも、本来はその高い身体機能を活かしながら契約書を使い相手を攻め立てるタイプなのだろう。彼らがこれから竜を討伐に行くつもりなら、わざわざ決闘のために契約書の無駄遣いをしようとはしないはずだ。
そう。使い捨てであるという特性上、契約書を無駄遣いしてしまうことがどうしてもある。肝心な時に自分を守る魔法を唱えられないなど、笑えない。だからこそ、日頃から魔法の使用有無が生命に直結する魔法職寄りの冒険者は代償を払ってでも魔法を無手で唱えられるようにしたいのだ。
また一方で、使い捨てであるが故に契約書による魔法は常時発動ができない。そのため、身体に常にリスクを抱えているミーくんのようなタイプはどうしても直接契約を行なっていないといけない。ミーくんが契約している悪魔の九割九分九厘以上は彼の体を保つためのものであり、その魔法がないと彼の体はすぐに崩壊してしまう。これは彼の抱えている宿命なので致し方ない。
しかし、その魔法を使えるようになるための『私』だ。
人間が代償を支払うと人間性を失っていく。だが、代償を支払うのが『悪魔』だったらどうだ?
悪魔にはそもそも人間性はない。では、その場合代償は払われるのだろうか?
その考えに至ったのがかつてのミーくんだった。
まず、何故魔法を習得すると人間性を喪失するのか。それは頭の一部に悪魔を顕現することでその演算処理能力を代行してもらうからだ。
つまり、その顕現する部分を外部に抜き取って集めることができたなら、悪魔を実体化することができる。そしてその悪魔に、代償を肩代わりさせる。
それが、『私』だ。
顕現した完全なる魔。ミーくんは遥か昔に魂だけの存在となった悪魔を蘇らせたのだ。
受肉した私はミーくんという主人に対しこの体の維持を願い出た。代わりとして私は彼に対する絶対の忠誠と、永遠を約束した。
不死の肉体。
それが私と契約しているミーくんの最大の魔法だ。二十万を超える魔法のほぼ全てを複合させて実現した究極にして禁忌の魔法。
いや、不死というのも言い過ぎだろう。彼が死んでいるのは事実だ。その死が確定しないよう、あらゆる要素を排除している、というのがこの魔法のキモである。それは、もちろん肉体・精神の回復魔法もそうだし、確率論や幸運値なども魔法で操作し死という現実を否定する魔法が複雑に絡み、結合し、一つの魔法となり死を回避する。
そして彼はその不死の肉体を使用して一つの目的を立てた。そのためにかけた強力な制約もある。
制約を破らない限りミーくんは不死だ。そんな彼を慕っているシロとの旅はどこに帰結するのか。私はかれこれずっと彼らの傍らでそれを酒の肴にする日を待ち続けている。
●竜に挑む(語り手:アドラ団長)
「いたぞ。話通りだ」
青の三人組と決闘をした翌日、早速私たち傭兵団は竜の討伐に出た。
そして宿の娘に教えてもらった通り、竜の住処は意外にも容易に発見できた。
本来竜は火山などの過酷な環境に巣を作るが、ここの地竜は山脈の麓にある森の真ん中に巣を作っていた。森には多くの魔獣が住み、決して住み良い環境とは言えないが、地竜にとっては些細な問題のようだ。
宿の娘の話だと、百年ほど前まで西の山脈に住んでいたらしいのだが、竜を狩るのを専門とした集団の台頭により住むことが出来なくなったそう。その後住処を転々としていたそうだが、六年ほど前にこの側の魔獣の森に居座り始めた。
現在では流石森の生態系の頂点を体現するかのごとく、中央にある丘の上で堂々と眠っていた。
「よし、囲め」
私の合図で我が傭兵団は静かだが確実に竜を包囲必殺の陣形の中に収めていく。奇襲ほど有効な攻撃手段など存在しない。
最初の一撃で決めるつもりだ。
「構え」
地竜は変わらず眠ったままだ。都合がいい。
「やれ」
合図と同時に傭兵団が一気に動く。総勢十名程で同時に急所である喉、脇、眼に刃を突き立てる。
「硬っ!!!!???」
必殺の一撃を叩き込んだカジックが真っ先に叫んだ。岩をも砕く彼のメイスは竜の鱗に阻まれ、傷一つ残すことが出来なかたのだ。
他の団員の攻撃も同様だった。
『ん?』
先ほどまで眠っていた竜が首をもたげる。
『我の眠りを邪魔するとは中々骨があるじゃないか。どこの何だ?』
しまった。流石に地竜が起きたか。できれば寝ている間に決着をつけたかったのだが。
「なっ!?喋るのか?!」
人語を喋る魔獣とはほぼ聞いたことがない。ある程度の知性はあっても、わざわざ人間の言語を習得する必要がないからだ。
「怯むな!鱗の隙間を狙え!!」
全員の動揺を払拭するために間髪入れず再度攻撃の指示を出す。
「うおおおお!」
『なるほど』
地竜は周囲を一瞥し、身をよじることで全ての攻撃をさばいた。地龍の特徴である岩石のような鱗は、あらゆる物理・魔法的攻撃を防ぐため、かなり苦戦を強いられている。
反撃がほとんどないのは、どういう意図だろうか。私たちの攻撃など反応するに値しないということなのだろうか。だとしたら、その慢心、最大限に活かさせてもらう。
「私も攻撃班に加わる!一気に――」
『飽きた』
瞬間、地竜に一番近かったカジックを含む前衛の六人が視界から消えた。地竜が尾を振り全員を一撃で弾き飛ばしたと気づくのには数瞬かかった。その数瞬の間にかつての仲間たちが細切れとなって落ちてきたわけだが、そんなことを気にしている場合では無い。
悲しくはある。驚愕もしている。恐怖もある。しかし今この瞬間はそのどの感情も必要がなかった。
今、必要なのは目の前の脅威と戦う意志だけだ。
「来るぞ!構えろ!」
我が傭兵団は優秀だった。動揺は一瞬。私の号令を聞き届け瞬時に戦う態勢に入った。残り八名の前衛が盾を構え同時に魔法の契約書で身体強化を図る、後衛はありったけの補助魔法を唱え支援する。視界を遮る魔法で地竜の動きを鈍らせ、味方の近接攻撃に鋭利化の魔法で地竜の硬い鱗の突破を試みる。もちろん、遠距離攻撃での撹乱も同時に行う。我が傭兵団必殺の連携だ。少し前にはこの連携で三つの村を滅ぼしたレッドキマイラのつがいを難なく狩りとった。
そして私の必殺の『毒連斬』。大沼蛇の牙から削り作り出したこの剣は傷つけたあらゆる相手を致死性の毒で死に至らしめる。文字通り必殺の連撃が地竜の鱗の薄い喉元を狙う。仲間にかけてもらった鋭化魔法によりどのような防御も無意味だ。
そしてその慢心も一瞬だった。
いや、慢心と言うのだろうか。一瞬、たった一瞬、この地竜を倒せると思ってしまった。
その一瞬を待たず地竜は私以外の全員を周囲の森と地形ごと一息で消し飛ばした。
竜の息吹は歴史上ほぼ記録が残されていない。そもそも竜の数が少ないのもあるが、理由はもう一つある。それは、見た者がほぼ誰も生き残っていないからだ。
私はその理由を体験という形で知ることとなった。
一瞬だけ視界が白くなり、その後肌が痒くなった。もっとも、痒くなったのは錯覚で、痛覚が許容できる範囲を超えてしまったことによる脳の防衛行動のようなものだという事実に気づくことはなかった。
続いて体が後方に押され、上下左右の感覚が消えた。衝撃波に押され、錐揉みしながら吹き飛ばされただけだったのに気づけたのは地面に叩きつけられたからだ。飛びかけた意識を正気に戻してくれる痛みだった。
「あ……が?」
何があったのかは自分でもわからない。
潰れた視界で周囲を見回す。
竜がいた。
ただ、それだけだった。
その竜が寝ていた丘も、丘を囲んでいた森も、森を住処にしていた危険な魔獣たちも、私の仲間たちも。
他の全てが跡形もなく無くなっていた。
全てが焼けた大地に飲まれており、その端に偶然私の体が転がっていただけだった。
『ほう。我の息吹を受けてまだ生きているとは。運の良い個体だな』
竜が私に気づき話しかけてくる。
「〜〜〜〜!」
声が、出ない。灼熱の息吹で喉が焼き切れたのだろう。
『あぁ、流石に無事では無いか。まぁ、そんなものよな。褒美だ。名を聞いてやろう。あるんだろ?人間にはそれぞれ固有の名が』
そう地竜が言った瞬間、喉の痛みが消えた。治癒魔法だ。息ができる。
逃げられる。
そう思ってしまった。心が完全に折れてしまっていた。こいつは今まで戦ってきたどの相手とも次元が違った。人間が安易に手を出して良い相手ではなかったのだ。
恐怖と後悔が私の体を駆り立て、その場から離れようとする。
そして気づく。そんなことはできないと。
その場から逃げる脚も、這って離れるための腕も、炭となって消えてしまっていた。
「あ、あぁ……ああああぁああああああああああ!!!!!!!!」
恐怖のあまりに声が出た。悲鳴だ。今だかつて聞いたことのない、自分の悲鳴。
声だけが出せる。それだけが今私ができる唯一の抵抗手段だったのかもしれない。私は、自分が何故叫んでいるのかもわからないまま悲鳴をあげ続けた。
『……そうか。残念だ。さらば、名も知らぬ人の子よ』
「うああああぁやめっ!やめっ!御免なさい!御免なさい!たすっ!助け!嫌だ!嫌だ!何で!何でぇ!!うああああああああああ!!!!!!たす」
竜によってつままれ、宙に放られた私の身体を支えるものはなく、助けてくれる仲間もなく、自分を守る手段ももはや無かった。
懺悔と後悔とを吐く私に対し奴は何の感情も無い。ただただ、目の前の蝿を払うかの如く私の倍もあるその手を振り抜いた。
最後まで私は言葉を紡げぬまま、――ほんの一瞬だけ肉と骨がひしゃげる音を耳にし意識は闇から戻ることは二度となかった。
● 知らせ(語り部:クロ)
「あ、消えた」
酒場で飯を食べている最中、私は一言つぶやいた。
「何が?」
シロが肉を頬張りながら答える。
「あの傭兵団につけてた追跡魔法か」
さすがミーくん、よくわかってるぅ。
「そうだね。流石にあのレベルの傭兵団で解呪できたとは思えないから全滅したんだろうね。残念残念」
酒を喉に流し込みながら魔法の消失範囲を確認する。
近郊の魔獣の森で全滅。場所的にはあの酒場の娘が言っていた通りか。
そうなると、邪魔者がいなくなった今なら私たちも動いてもいいかもしれんな。
「ミーくんはさ、正直あいつらの勝率はどれくらいだと思ってたんだ?」
「ん?」
「シロはあぁ言ってはいたが、彼らの練度は決して悪い水準ではないと私は感じたんだよね。ミーくんそこらへんはよく分かるだろ?」
「うーん、まぁ、彼女らが竜相手に少しは善戦できるかってことか?」
「まぁ、そうだね。討伐できるレベルとは到底思えないが多少手傷を負わせることはできるんじゃないか、と思って」
「ん〜そうだね。確かに彼女らのレベルは低くはなかった。下っ端にオレが一方的にノされる程度には」
「武器も上等、それぞれの戦闘能力も悪く無い、あの団長の女の一声で攻撃を止められるし統率力も高そうだった」
ミーくんは彼女らを思い返しながら語った。思った以上に評価は高かったようだ。
「でも、それだけかな」
しかし、最後に彼が紡いだ言葉はそれらすべてを否定するものだった。
「竜を倒すってのなら足りないものがある」
「足りない?」
「そう」
ミーくんは酒を飲みながらゆっくりと答えた。
「『狂気」だよ」
返事をしたミーくんの顔は、笑顔だった。
「予てより竜一匹は一国の戦力に相当するとも言われているんだ。それを数十人足らずでなんとかしようというのは普通の思考じゃできない。と、思ってはいるんだがね。しかし残念ながら、彼女らはただの『無知」だよ。『狂気』じゃあ、ない」
飲みきった酒の杯を置きながらミーくんは最後に一言付け加えた。
「何か一つ、人から外れたものが無い限り、竜にとってはそこにいないのと同じだよ」
●アドバイス(語り手:ミーくん)
「おねぇさん、あんたあの地竜の話、他に何か知らないか?」
「私ですか?」
ミーくんが酒場の娘に話しかける。
「んー、私の知ってることはあまりないですけど、あそこに居座っている竜は、人語を話す、と聞いたことがあります」
「人語?知性があるってことか?」
クロが尋ねるも娘は口をつぐんでいた。彼女も実際に聞いたわけではないのだろう。
人語を話す魔獣もいなくもないが、それがただの模倣ではなく知性を伴った言葉の場合、その脅威度は段違いに跳ね上がる。竜がわざわざ多種族の言語を覚えるとも考えづらいが、気性が荒いタイプでもなさそうだし、あり得なくもないのか?
もしかして竜は体が小さい分代わりに知能が高めなのかもしれない。
「あ、あと、あの竜、確か種族は地竜らしいので、翼が無いと聞きました。だから、一度居着くとほぼ動かないらしいですよ」
「へぇ、それは助かるな。てっきりこれから奴と鬼ごっこをしないといけないかと思ったよ。じゃあ、今からわざわざ急いで向かう必要はないな。今日は寝て明日にしようか、ね?ダーリン?」
「まぁ、それもそうだな。明日にしようか」
俺は酒を飲み干しながらシロに答える。今日決闘もしたし俺にとってもその方が都合がいい。
「そうですか!じゃあ、こんばんはまだここに居るんですね?!どうですか?もう一杯!」
娘は笑顔で俺に酒を注いできた。
商売上手だな。
● 竜に挑む(語り手:ミーくん)
翌日。朝から宿屋を出て、正午を少し過ぎたところでやっと森の奥に俺たちは到着した。
森の奥は更地になっており、大地が焼け焦げた痕で真っ黒になっていた。
今現在は燃えているものはもうなくなっていたが、まだ少し熱気が残っている。
昨日戦ったはずの傭兵団の痕跡は一切見つからない。
「熱気がすごいな」
「焦げた匂いがいまだにするね。少し、お腹がすいてきちゃうよ」
シロが空気を読まないことを言う。
歩きながら更地となっている丘の上が見えてくる。
そこには、案の定、奴が鎮座していた。地竜は大地に伏せたまま、眠っていた。しかしある一定の間合いに入った瞬間より、首をもたげ、我々の方に視線を飛ばしてきた。
「よう、来てやったぞ」
手を振り、笑顔でその視線に答えてやる。
『ほう。今回はさらに少ないな。足りるのか?』
地竜は俺たちの方を見ながら答えた。口角が上がってはいなかったが、明らかに笑っていた。
「確かめてみろよ」
『それもそうだな』
竜が答えると同時に大地が一瞬光る。その後焦土の中から何かが起き上がってきた。それは人だった。手には剣。体には鎧。しかしその身体は欠損だらけで、足りない部分は土で埋められていたため人の形と言うにはかなり歪だった。所謂、動く死体だ。
「おや、団長じゃ無いですか。お仲間はどうしたんですか?」
クロが死体に対して茶化すようなセリフを吐く。
そう、竜の魔法であの傭兵団の団長を即席のゴーレムとして操っているのだ。
「こいつを超えて力を示せと?」
『不服か?』
「……いいや、そいつには借りがあるんでな。それを返してからでも遅くは無い」
正確には、こいつの部下にだが、まぁ、同じ様なもんだろ。
「シロ、お願いできるか?」
「任せてよミーくん。魔法で動いている以上、こいつは人間じゃ無い。気兼ねなく私が相手できる」
シロが前に進んで団長だったものと対峙する。羽織っていた外套を脱ぎ、その薄着の姿が露わになる。
彼女は鎧という鎧はつけていない。ほぼ素手と言ってもいい。だが恐れも不安もない。シロには武器の必要がない。その身体こそが剣であり、鎧なのだ。
そしてシロはそのまま袖もついていない腕を左右に広げ開いていた手の平を握りこんだ。
「よし、行くぞ」
足を踏み込み、一気に団長に接敵。右拳を思い切り上から下へ叩き込む。避けられ、地面に叩きつけられた拳は焦土と化していた大地を割り、天まで登る土埃をあげた。
土煙の中から団長が飛び出してくる。避けきれなかったのか、右腕は消失していた。しかしすぐに地面から泥が伸びてきて腕を修復する。
サービスが良いのか腕が追加で一本増えており、計三本になっていた。
「おいおい何でもありかよ」
腕には棘だらけの岩塊がついており、攻撃力が増し増しになっている。相手の力に合わせて進化していくタイプのゴーレムか。
団長だったものが、腕を振る。剣を持った腕と、鉄球のついた腕を同時に振り回すことで土煙を吹き飛ばす。視界に捉えたシロに向かい、鎌形となったもう一本の腕で素早く斬りかかる。
必殺の一撃、と言えただろう。攻撃の速度は決闘の時のカジックのものと遜色はない。しかしその攻撃が通ることはなかった。
紫電一閃。
稲妻のような発光とともに団長の腹部に蹴りが叩き込まれたのだった。蹴られた部分は粉々に吹き飛び、大きく体に穴を開ける形となった。
全身に紫電を纏い、シロが土煙から姿を現わす。露わだった素肌には多くの突起物が生えており、それにより団長の攻撃を防いでいたのがわかる。さらによく見ると、その突起物は鱗だと気づくことはできただろうか。
鱗の隙間から溢れ出るエネルギーが紫電となって全身を包んでいる。
そしてそのエネルギーを発生する起点となる場所は彼女の頭部。額から生えてきた一本の角だ。その角は白く発光しており、全身に戦闘のためのエネルギーを、余ったものは破壊のエネルギーとして供給している。
蹴り抜かれた団長の腹は消し飛んでいたが、すぐに大地の力を得て再生を開始した。しかし、再生してもすぐにシロの纏う紫電の破壊エネルギーに纏わり付かれ崩れていく。
『その角……!その娘も我と同じか?!』
シロの姿を見て地竜が驚愕の声を上げる。やっと奴が動揺する姿を見ることができた。
「見りゃわかんだろジジィ!」
シロが叫ぶ。聞こえてるのか。
そう、シロは人の姿を模している竜族なのだ。
確かに、竜族が人の姿に変化しているのはかなり珍しい。もとより、圧倒的な力を持つので擬態などの生存戦略を取る必要のない生物だ。
魔力操作が得意な竜族なら可能だろうが、わざわざ行うものはほぼいない。
『しかも一角の白竜じゃないか。白竜なぞ会うのは数百年ぶりだ』
「そうかい!私はお前と会うのは初めてだし、私がお前の会う最後の白竜だよ!」
この間も団長からの猛攻は続くがシロはその全てを捌いていた。決して団長のゴーレムが弱いわけではない。破壊と再生を繰り返すあの能力があればあれ一体で城一つを落とすことも可能だろう。今ではあの団長の原型はほぼ残っておらず、腕が六本、脚が四本、二対の翼と一本の尻尾を携えた化け物となっている。全部が岩石や土で出来ているから飛翔する事はないだろうが、全身凶器と言って差し支えない。
しかし、そんな化け物でも紫電を纏った戦闘状態のシロに触れることすらできずにいる。
鱗を逆立てたシロは、その纏っている紫電だけでなく、その爪と掌で近づくもの全てを破壊していた。
団長も抵抗のため腕の凶器を振り回すが、その全てを一瞬で打ち砕かれてゆく。
尻尾だ。両腕だけでなく、今までスカートの中に隠していた尻尾でも打ち払っているのだ。
「団長さん、もうあんた頭くらいしか要素ないからもう、いいよね?」
シロは一気に団長の四肢を引き裂くと、残っていた頭部に高速で尻尾を叩きつけた。
団長の上半身は消し飛び、残された再生中の下半身に顔を向けた。
「かぁっ!」
シロの竜の息吹。視界が一瞬だけ白に染まる。
空気が破裂する音とともに白い閃光が宙を駆け抜けた。遅れて衝撃波とシロが体に纏っているものと同質の紫電が追って走る。
団長だったものは跡形もなく消し飛び、そこには大地ごと抉られた焦げ跡の一本線が残るだけだった。
「雑魚が!バーカ!バーカ!」
呆気ない幕引きだった。
『ふふふ面白い!』
地竜は歓喜の笑い声を上げていた。
『久しぶりに同族と会ったと思ったら戦う運命にあるとは!』
興奮したのか終始寝そべって状況を見ていた地竜が上体を起こし戦闘への意欲を示し始めた。
「え?馬鹿を言うな。私がお前なんかと戦うわけないだろ」
そう言いながらシロは額に再度角を収め、逆立てていた鱗も収めていた。
『何?』
てっきり好戦的なシロと戦うことになるのを予想していたのだろう。盛大な肩透かしだった様だ。
「もちろん私がお前なんかに負けるわけがないのだが。お前を負かす、その役割は私じゃないんだ」
シロはすでに外套を羽織り終え、地竜に背を向けていた。
「お前を倒すのはダーリンだよ」
『だー……りん……?』
困惑する地竜に対し、クロが口を開いた。
「噂くらいは聞いたことないか?『竜殺し』がお前の相手だと言っているんだ」
「なんだと……?あの『竜殺し』だと?あの存在は噂ではないのか……?」
「喜べ。今貴様のお前にいるのがその『竜殺し』だ」
「小娘、お前が……?!」
「「え、違う違う」」
シロクロ二人が同時に否定する。
毎回ハードル上げるのはやめてほしいな。恥ずかしいから。
『えぇ、じゃあこの冴えないのが……?』
「冴えないとか言うな!」
思わずツっこんでしまった。
「俺が『竜殺し』だ」
なるべくかっこよく。なるべくかっこよく。
「我が野望のために消えてもらうぞ」
●竜を殺す剣(語り手:クロ)
「まぁ、なんだかんだ『竜殺し』などと呼ばれているが別に戦闘が得意というわけじゃあ、ないんだ」
ミーくんはシロと交代し、地竜と対峙した。
「俺は竜より少しだけ、しぶといだけだよ」
『なぁに、気にしないで良い。伊達に我も長生きしているわけではない。お前みたいなしぶとい奴など腐るほど見てきたさ』
地竜は『竜殺し』について聞いた時は少し驚く様子があったが、すぐに落ち着きを取り戻していた。
『だから安心して消えるがいいぞ『竜殺し』とやら』
余裕もかなり戻ってきた様だ。
「安心させてみろよ。出来るのならな」
先に仕掛けたのはミーくんだった。
「『貫くは弱者の刃、反逆剣(レベリオン)』」
短い詠唱で高位魔法を叩き込む。ミーくんの指し示した右手の人差し指から黒いエネルギー状の剣が地竜に向かって疾ってゆく。
地竜は避けず、その硬い鱗で受けた。黒い放電が起き、地竜の鱗が数枚剥がれ落ちる。
「ほう、初めて見るが我の鱗を貫く魔法か。悪くはないが、この程度では千発受けても我は倒れんぞ」
「『満たす器は愚者の頭蓋、栓を抜く鎖を顎で千切れ。血鋏(レッドスライス)』」
二本の赤い刃が挟み込むように地竜の首元に現れ、斬りつける。
しかし、その刃は今度は地竜の鱗に弾かれた。
「ぬっ?」
『驚くことじゃないだろ。さっきのあの白竜もやっていたじゃないか。竜気解放だ』
地竜の鱗は逆立ち、黄金色の竜気を吹き出していた。
竜気解放を行なった竜族は全身の鱗が逆立ち、体内に収められていた莫大なエネルギーを外部に放出する。その際、戦闘力が飛躍的に向上し、同時に気性も荒くなる。
そのため、昔から竜気を出している竜を見たら黙って振り返って全力で逃げろ、もしくは生きるのを諦めろ、というのが通説だ。
確かに、竜気解放をした地竜の圧力は想像を遥かに超えておりその高い脅威度が見て取れた。
流石にあのミーくんも苦戦するか?
『人の分際で我に挑んだのは評価するが、もう少し賢くあるべきだったな』
瞬間、ミーくんの立っていた位置が石柱に変わる。
「ダーリン!」
シロが叫ぶ。
『岩の牢獄だ。耐久力に自信のありそうな奴はだいたいこれで終わる』
確かに、ミーくんは数多の魔法によって不死ではあるが無敵というわけではない。
生きたまま封印されてしまったらそれまでだ。
「おいおい……ミーくん、何してんだ」
思わず口から言葉が漏れてしまった。
しかし、心配も数秒。すぐにミーくんが囚われた石柱にヒビが入り始め、砕けた。
「っとっとっと、腐っても竜か。少しだけ、焦ったぞ」
ミーくんは服にかかった埃を払いながら石柱から出てきた。シンプルに力技で脱出したようだ。
膂力を上げる魔法はいくつか持っているが、いずれも体への負担が大きいためあまり多用しない。
しかし流石に今回は使わざるを得なかったようだ。
おそらく、限界以上に体を酷使したので秒間数百回の体の破壊と再生を行なっていることになるのだが、そのような様子は毛ほども見せていない。
そういうところがミーくんの凄いところなんだよな。
「だが、その程度では俺は止められんぞ!」
再生が終わる。失われた血は蒸発し、再度彼の体の中に取り込まれる。
「そして悔いるがいい。俺に竜殺しの剣を抜かせる隙を与えてしまったことを」
そして彼は封印解放の言葉を口に出した。
「『竜殺しの剣』」
そう言い、ミーくんは両の腕を前に突き出し手を組んだ。ゆっくりと、手を離していく。両手の平の間から少しずつ姿を表したのは淀んだ青色の剣だった。
しかし剣と言ってもそれは形だけ。よく見るとただの歪な棒にしか見えない。刃らしい刃もついていない。少し歪んだ長く青い棒。それが、『竜殺しの剣』だった。
『何だそれは……?随分と……恨みを買っているようだな』
「聞こえるのか。お前には。この剣の叫びが」
ある程度の魔力適正を持っていると、この剣はずっと叫んでいるのがわかる。悲鳴だ。
「こいつは精霊の骨でできている。お前ら竜族に殺された精霊たちの、だ。恨み言は多いだろうぜ」
『どおりで。懐かしい音がすると思った』
「そう言うこと言ってるから滅ぼされたんだぜ」
『種の存続に興味はないな』
「ま、そうだよな」
ミーくんが竜殺しを水平に構え、重心を低くして構えた。
「だからお前らは滅びるんだ」
そう言ってミーくんは駆け出した。側から見たら無謀な特攻に思える。地竜にもそう見えたのだろう。
地竜は無言で竜の息吹を吐いた。一瞬の閃光と押し寄せる灼熱。生物なら一瞬で消し炭になる熱量だ。
しかし、今の竜殺しを持ったミーくんには効かなかい。
その息吹を『竜殺し』で受けると、息吹が真っ二つに割れたのだ。
『何ぃ?!』
そのまま急接近し、『竜殺し』で斬りかかる。地竜はその堅牢な鱗で受けようと左前脚を突き出した。
おそらく、地竜は自分の防御力には絶対の自信があったのだろう。特に地竜は大地の力を宿した竜のため、その鱗は鋼より硬いとも言われている。だからこそ、その堅牢な鱗は盾に足り得る、と思ったようだ。
だがその期待は大きく裏切られるのを私は知っていた。
刃もついていない棒はその自慢の鱗を溶けた雪のように削り取ったのだった。
地竜の咆哮が響き渡る。
怒りではなく、驚愕と痛みによる咆哮だ。
「竜殺しの所以だ。こいつは竜を喰う」
削り取られた竜の左前脚は千切れかけ、血を大量に撒き散らしながらぶら下がっている。もはや肉体としては機能していないのは明白だった。
「体を喰われるのは初めてか?今回が最初で最後だから安心しろよ」
『調子に乗りおって!!!人間如きが!』
地竜が叫ぶと大地が揺れ、地面から岩でできた無数の棘がミーくんを襲う。さらに、地面から灼熱の溶岩が吹き出始めた。
さすが地竜。大地の全てが彼の支配下か。
体の大きさについてはそこまでではないが、不要な体の大きさを抑えより高い戦闘能力を有した個体もいる、とも聞いたことがある。あいつはおそらくそのタイプだろう。そうそう大自然まで支配下におけるような個体がいてはたまらん。
『消えろ』
地を宙を縦横無尽に駆け回るミーくんも流石に無事ではなかった。溶岩に左腕を焼かれ、胸と左脚に棘が刺さる。普通なら明らかに致命傷だ。しかしそれを無視し、再生を繰り返しながら突き進む。
竜の息吹を複数回撃ち込まれるも、その全てを竜殺しで払う。龍を殺すためだけに生み出された最強の剣はそれを持つための無敵の肉体と合わせて初めてその真価を発揮した。
「ハハッ!その程度か?!」
『ふん、別に特段高い防御力があるわけではないのだろう?その剣を持った右腕を振るわせなければ良いだけだ』
「そ、それはどうかな?」
おいおい弱点バレてんじゃねーか。
「やってみろ!その前に!」
ミーくんが竜殺しを振り被りながら地竜に飛びかかる。
『そうだな、その前に、だよ』
再度、大地から無数の棘が飛び出てきてミーくんを串刺しにする。しかも竜殺しを持った右腕も根元から千切れ飛んでいた。
『しぶとい奴には慣れている、と言っただろう』
棘に貫かれているミーくんの体が石化していく。
『今度こそ、固めて、終わりだ』
流石に竜と言うべきか。魔獣などと比べると遥かに知能が高い。人間と遜色ない思考能力は相対する者にとって一番の脅威と言える。
しっかりとどのような攻撃で対策をするべきかわかっている。
「ダーリン!」
シロが再度心配の一声をあげる。
しかしそれもまた一瞬。石化を始めたミーくんの全身から無数の青い棒が枝の様に生え始め、体を貫く石の棘や石化した体を砕き始めた。
宙に磔にされていたミーくんの体は地面に落下する。地面に着地するときには、石化した下肢は崩れ落ち、新しい脚が再生されていた。
全身からはまだ無数の水晶の様な青い棒が枝の様に生えていたがミーくんはそれを気にした様子もなく、立ち上がった。
「お前、俺が『竜殺し』を抜いた時を見なかったのか?俺の体から生えていただろ?つまり、『竜殺し』は俺の中にあり、俺自身が『竜殺し』なんだよ」
目から生えていた青い枝を折り、剣の形に整形しながら同時に体の再生も済ませていく。全身から生えていた枝も粉になりながら崩れ落ちていった。
「だから竜由来の攻撃は俺には効かないし、竜由来の防御は俺の前では無力だぜ」
その代わり、それ以外の全ての攻撃は効くしそれ以外を攻撃すると契約違反で死ぬ制約だけどな。
「だからどう頑張ってもお前は俺には勝てん。大人しく死んでくれ」
『何度も言わせるな。調子に乗るな、と。この我が貴様ら下等生物に狩られることなど絶対に無い』
「そうか、なら仕方ないな」
ミーくんはそう言うと、手に持っていた『竜殺し』をやり投げの横領で地竜に投擲した。『竜殺し』は吸い込まれる様に地竜の左目に突き刺さり、大きな咆哮が上がった。
その終わりを聞くまでもなく、ミーくんは新しい『竜殺し』を生成しながら地竜との距離を一気に縮め、残っている右脚に一閃。根元から先を斬り飛ばした。
両前脚を失った地竜は頭を垂れるように地面に倒れ込んでしまう。そこにミーくんは巨大な『竜殺し』を上空に生成し、地竜を地面に背中から串刺しにして縫い付けた。
血を撒き散らしながら叫ぶ地竜だったがまたすぐに力尽きるように地に伏した。
その姿は、まるで斬首を待つ罪人のようだった。
「俺がお前を殺すのは、正義のためでもないし、世界のためでもない。ただただ、俺の幸せのために殺すだけだ。だから恨んでもいいし、呪ってもいい」
ミーくんは地竜の頭の横に歩み寄り、『竜殺し』を振りかぶる。
『貴様……その力はどこから……?』
「ミーくんは竜を殺すために全てを捧げたのさ。シロを守るために」
既に地竜に戦う力はない。私も安心して近づきながら会話に加わる。
「白竜は元来竜族にとっては忌むべき呪いの象徴。竜族としては生かしておいてはいけない、……ってのは流石に竜族だし知ってるだろ?」
今節丁寧に説明をしてあげる。地竜は息も絶え絶えで、話をしっかり聞いているかどうかはわからないが私は語りを止めなかった。
やはりこういう敗者に高説垂れる役は最高に気持ちがいい。
「しかしそんな彼女と恋に落ちた人間が彼女を守るためには力が足りない。それこそかつて存在した勇者、英雄の如く神の祝福を受けれるなら簡単に力を得られただろうが、神無きこの世界では魔に贄を捧げるしか力は得られない。だからこそ、彼は全て、――その守ろうとする彼女も含めて全てを捧げたのさ」
『……なるほど。だが愚かな。限りある生を捨てるなどもはや人では無い。魔獣の生き方ぞ』
「長く生きているくせに失礼な奴だな。人を人たらしめるのは限りある生ではなくてどのように生きるかだよ」
ミーくんが『竜殺し』を構えながら答える。
「それに、こう見えて身体は人間そのままなんだぜ」
だからどうした?と私は内心思ってしまうのだが、口には出さないでおく。人間の体であることで痛みはある。つまり死ぬ様な傷を何度受けてもその痛みに耐える精神を持ち合わせていなければならない。つまり死なない時点でそれはもう心身共に化物であり、魔獣とも比較にならないのだ。ミーくんは認めないだろうけど君は私が今まで出会った中で最高の化物だよ。
そういうところが可愛くて好きなんだけどねー。
「俺は誓ったのさ。世界の最期までシロと添い遂げると。そのために邪魔なものは全て排除する。世界を平和にするんだ。だからクロに全てを捧げた。俺も、世界も、シロも」
『全て、か。本末転倒だな』
ミーくんの言葉を聞き、地竜は短く答えた。あれだけ身体を削られているのにまだ生きていられる生命力はさすがと言うべきか。
「いいんだよ。俺は後悔はしていないし俺が死んだ後に関しても興味はないね」
『平和のために竜を殺す一生か。少しだけ、興味はそそられるが続きが見れないのは残念だな』
「済まんな、竜はシロだけでいいんだ。お前はあの世で見てくれ」
『ふっ……竜が死後の世界を信じているわけないだろう』
「確かに、それもそうだな。まぁ、じゃどっかでお前が蘇生されたら会おうな。俺はずっと生きてるからどこかで会うでしょ」
『その時はまた我を殺すんだろう?』
「当たり前だろ」
『だろうな。……そろそろ我も逝くぞ』
「あぁ、あんたの名誉のために言っておくが今まで俺が殺してきた三十二頭の竜の中で一番強かったぜ、あんた」
『光栄だ』
その言葉を聞き届け、ミーくんは竜殺しを振り下ろして地竜の頭を刎ねた。
●(語り手:???)
あぁ、いなくなってしまった。
次の手を考えないと。
● 策士(語り手:クロ)
地竜を討伐した夜。私たちは三人で祝杯をあげていた。宴は村の酒場で夜まで続き、ミーくんもシロも酔いつぶれて寝てしまっていた。
「あらあら二人とも寝てしまいましたね」
酒場の娘がカウンターで寝てしまった二人に毛布をかける。
「すまないね」
労いの言葉を一声かける。
彼女は少しだけ返事を迷った様子だったが、意を決したのか早口で話し始めた。
「いえいえ、あの竜を倒した功労者ですからね。本当にありがとうございます!おかげで――」
「おかげで、飯の種がなくなった、か?」
私は酒を飲みながら答えた。
ほんの一瞬だけ、彼女の視線が揺れた。
「まさか、そんなわけないじゃないですか」
次の瞬間には今までの明るい笑顔に戻っていた。
「ちゃんと感謝しているんですよ――」
しかし彼女の視線は氷のように冷たい。笑っているように見えるが決して笑っていない表情。
日常的に嘘をついている顔だ。
「――あの竜には」
彼女は私たちの飲んだお酒を片しながらゆっくりと答えた。
「こんな片田舎の酒場なんて長くは続かないですよ。材料を仕入れるにも魔獣の蔓延る村の外に行かないといけないし、その危険度の割には村に住んでいる金のない飲んだくれの老人くらいしかお金を落としていかない。父も母もいつもお金がなくて苦しんでいました」
「そんな中あの竜が来てくれたんです。金の生る木ですよ。あいつは大人しいくせに強いからこの村周辺の魔獣は大人しくしているし、あいつを討伐するために冒険者がいくらでも外からやってきてここでお金を落としていく。父も母も喜んでいました」
「やはりな」
私は杯に残っていた最後の酒を飲み干しながら返答する。
「どう考えてもおかしいんだよ。この村は。魔獣の巣食う森の側でこの人数の村、若者もほぼいない、そんな所がそうそう長く残るわけがねぇ。つまり、だ。この村を存続させるために誰かが動いているってことだ」
「……少し、外でお話ししましょうか」
おっと、笑顔が怖い。
夜も更けて満月が顔を覗く空の下、私たち二人は村を出て少し離れた丘の上まで移動していた。風が涼しい。酒の回った体にはちょうどいい感じだ。
「私、この村のことは好きじゃないんですけど、お父さんのこの酒場のことが大好きなんですよ」
彼女は私を先行し、丘の端まで歩き続ける。
「ずっと……ここで働きたかったなぁ」
「ふーん。悪いが、あまり興味はないね」
「あら、冷たいですね。私が心中を吐露しているというのに」
「人の心が無いもんでな。お前はさ、どこらへんで私たちの異質さに気づいた?」
「そんなの、最初からに決まってるじゃないですか。自分たちで気づいてなかったんですか?自覚なき馬鹿なの?」
え、あ、え、そうなの?言葉に詰まっちゃうからそんな辛辣なこと言わないで。
「私は、初めて見ましたよ。あれほどまでに『呪われた』人間を」
「……へぇ。色々人間を見てきたけどお前が初めてだよ。ミーくんを『人間』と評した輩は」
「彼は人間ですよ。だって行動原理がわかりやすいじゃあないですか。魔獣は行動原理がわかりませんからね。彼らは人間の思考とは全くの別物ですし、人間にあって彼らにない感情などもありますからね。まさしく魔『獣』ですよ。それに比べて彼は完全に考え方は人間ですからね。人間と評するのが正しいですよ。もっとも、倫理観は少し違うみたいですが」
満月の下、彼女はゆっくりと歩き出す。丘の上から見える夜の村の灯りが綺麗だった。
「……だから、最後までわからなかったのはあなただけなんですよ?」
「……ほう?」
「今回の私の落ち度は貴方の思考を読めなかったのに色々と行動に移してしまったことですかね。反省点です」
彼女は私の方を見ない。しかし指を立て、思い出したかの様に独り言をつけ加えた。
「その点あの竜はかなりわかりやすかったです。行動パターンがまるで機械のように一定でした。近づく者は殺す。ただそれだけでしたからね。自分でルールを決められる獣はほぼ人間と同じですよ」
「否定はしない。確かに私は人間じゃないし、思考は人間を『模倣』しているだけだ。全く、お前には驚かされる。いつからだ?私が人間じゃないことに気づいたのは」
「さっきも言ったでしょ?最初からですよ」
彼女がやっと振り返る。瞳に宿る光は鈍い。感情が乗っていない。
「そんないびつな歩き方をする人間なんていませんから。直ぐに人間の形をした『何か』というのはわかりました。流石に、貴方が彼と契約した魔の集合体が顕現した結果とわかるまで少し時間は必要でしたけどね」
「すごいな。こう見えてもおまえの歳の十倍以上はこの姿でいるのだが、歩き方が変と言われたのは初めてだ。それにお前、魔が顕現した姿なんて見たの初めてじゃないのか?」
「伝説上でしか聞いたことなかったですね。『魔と契約をしすぎた勇者はその魔に呑まれ、その身体を魔神の右手に、その魂を魔神の左手に、その人間性を魔神の舌に捧げることとなる。捧げられた供物を贄に魔神は魔人を産み落とし、新たな呪われた勇者を導く』、なんておとぎ話冒険者の間では割と有名でしたのでいつか遭遇することになるとは思っていましたが、まさか――」
「まさか、こんな美人だとは思わなかったか?」
「いえ、人のフリをした何かというのはこんなにも醜いとは思わなくて」
「テメェ」
「ふふっ、冗談ではないですよ」
「否定じゃないのかよ!?」
「私も驚きましたよ。貴方こそいつ私が全ての裏で糸を引いてると?」
「よくよく思い出すと、みんなお前が行き先やタイミングを決めているのに気づいただけだよ。それと、今となっては明らかに不審な点があったからな」
「あら、どこですか?」
「気づいていなかったのか?お前、今この場まで一回も私と話さなかっただろ。いや、逆か。『話せなかった』んだよな?私の正体がわからなすぎて」
「……なるほど。それは気づきませんでした。無意識に、避けていたのですね。どんなお客様にも分け隔てなく愛想振りまく人気の給仕としては流石に不自然すぎですよね」
一瞬目をつぶって再度こちらを見た彼女は心なしか少しスッキリした表情だった。
風が再度吹いた。
「そろそろ夜が明けるな」
「えぇ、そうですね」
「そろそろ終わるか」
「…………えぇ、そうですね」
「そういえば聞いてなかったな。お前、名前はないのかい?」
「無いわけではございませんわ。ただ、お客様に対して名乗るような名でもございませんので控えさせていただいてます」
彼女は笑っていた。
「そうか。それは残念だ」
「あばよ」
「ええ。またのご来店を、お待ちしております」
彼女は最後に酒場の給仕として完璧なお辞儀をし、私の腕から生えた大顎に全身を噛み砕かれた。
● エピローグ
帰ってこなかった傭兵団。討伐された竜と、急に消えた酒屋の娘。客の来なくなった酒場。
人知れず消えた三人の冒険者の行方を知る者はいない。
竜が討伐された数ヶ月後、通りすがりの冒険者が廃墟になった村を発見した。
人の姿はない。どこか別の地に移動したのか、もしくは魔獣に襲われたのか。
のちに語られる噂では、前者の方が有力だった。村は廃墟となっていたが、建物などはすべて無事であり、人間だけが突然消えてしまったようにしか見えなかったからだ。
しかし、そうだとすると誰も生存者の報告は無いのは不自然ではある。
真相は不明のまま年月が過ぎ、この村のことは人々の記憶から忘れられていった。
その原因となった竜の討伐、その功労者の存在とともに。
【イッツアスモールワールド 完】
【キャラクター紹介:ネタバレ版】
・ミーくん:物語の主人公格。数多の悪魔と契約した不死の戦士。実年齢は三百歳を超える。シロと永遠を生きるため世界征服を目論む。竜以外は傷つけることができないという強い制約により竜相手にはほぼ無敵の実力を発揮する。通称竜殺し(ドラゴンスレイヤー)。多数の悪魔と契約したことにより無駄に魔法がたくさん使える。一番使う魔法は寝ても朝ちゃんと起きれる魔法。
・シロ:この世界最後の白竜。ミーくんと永遠を過ごすのが目的。竜の寿命は数千年のため、一緒に添い遂げるために悪魔と契約し不死を得てくれたミーくんを愛している。ミーくんのためなら世界はいらないし、残そうとも思わない。しかし、悪魔がいないとミーくんの不死は維持できないのでクロを含めた一部の悪魔だけは残さなければならないことは自覚している。ミーくんの制約のように悪魔以外は傷付けないという強い誓約を自分に課している。つまり誓約を破ろうと思えばやれるけどミーくんがいる間は破る気は無い。通称悪魔殺し(セイントホワイト)。普段は人型に変化しているが、スカートだからと尻尾は隠さないスタイル。竜気解放により雷を身に纏うことが出来る。単純な実力ならミーくん、クロと比較すると圧倒的に上回る。というかやろうと思えば一匹で国を滅ぼせるが、比較的頭が悪いためミーくんやクロのサポートが必要になる。路銀に困った時は自分の鱗を売りに出してもいいと考えている程度には仲間想い。
・クロ:集合の悪魔。性別は本来無いが女性の姿をしている。実体はミーくんの不死のための契約を交わした2708392体の悪魔の集合体。主人格はクロと名乗っている。一応、ミーくんとシロが竜と悪魔しか殺せないのでその他の生物を殺す専門。制約も誓約も無いが、それでは面白く無いので基本は対人間専門を名乗っている。通称人殺し(マンイーター)。ミーくんもシロのことも好きだが、彼らの結末は悲劇であっても構わないとは彼らに公言している。内包している全ての悪魔の能力を使えるため万能に思われることが多いが、実力としては少し実力のある戦士程度でしかない。彼女の実力の本質はその思考能力であり、それによって人間の思考を読み取り、出し抜くことである。全身に口があり、何でも食べれる。
・酒屋の娘:全ての黒幕。店が繁盛する様に情報を操り、全ての人物の動きをそれとなく操るがクロにのみ看破され死亡する。
・アドラ:傭兵団隊長。元王国騎士。実力は折り紙付きだが、竜に力及ばず死亡する。あんな傭兵団にいながらも、生涯男を知ることはなかった。
・カジック:傭兵団団員。肉体派のアタッカーであり、その実力は傭兵団の中でも指折り。ミーくんとの戦闘ではその実力をいかんなく発揮するも、竜との戦いでは一瞬で殺される。さらば脳筋。
・地龍:千六百年生き続けている竜。六年前にこの地方に現れた。何か大きな目的があるわけでは無いが、大地が肥沃なため食料も多く、住んでいて快適とのこと。討伐隊が定期的にくるので、暇もしていない。実力で言えばシロの三倍は強い歴戦の猛者ではあるが、竜殺しことミーくんに相対し討伐される。宿屋の娘に利用されていることには生涯気づくことはなかった。
【タイトルについて】
イッツアスモールワールドとは、ミーくん、シロ、クロの三人のことです。
この世界では人間、竜、悪魔しかいない世界となりますので、この三人はこの世界の最小単位になると考えこのタイトルをつけました
【あとがき】
まず、この作品に目を通していただきまことにありがとうございます。
こちらは私がコミックマーケット101にて販売させていただいた作品となります。(内容も大半はコピペです)
自分は長らく創作活動から遠のいていたため、作品を作るのはかれこれ十年ぶりくらいになります。
リハビリもせずに勢いで書き始めた作品なのでかなり拙い自覚はありますがなんとか形にできました。
この作品を作る経緯には知り合いに馬鹿にされたという少しネガティブな動機があったのですが、作品作りしているうちにそんなことも忘れることができました。
作品作りって楽しいですね。
もしまたイベントに当選することができたらまた何か書きたいとは考えています。
ツイッター(twitter)を@takaturihonnneでやってますので軽率に、気楽に(ここ大事)感想や購入報告をいただけると励みになります。
たまにyoutubeもやってます。
ぜひご縁があればまた会いましょう。
Thanks for watching!
イッツアスモールワールド 高吊本音 @takaturihonne
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