第8話 第15層 

 放課後。今日も今日とて俺たちはダンジョンに籠っていた。


 ベリアルの能力、<超重領域>は広域制圧が得意なスキルだが、逆に言えば無暗に学園で使えば他の生徒を巻き込みかねない能力でもある。


 広々とした場所ならまだしも、狭い場所で。


 それも人目につく場所でスキルを使ってしまえば、余計な詮索をされてしまうかもしれない。


 そのため、必然的に人目の少ないダンジョンでの鍛錬を余儀なくされるのだが……。


『また試運転か? 雑魚を潰すのも、いい加減飽きてきたんだがなァ』


 案の定、ベリアルが文句を垂れた。


「魔剣にも飽きるとかあるんだな」


『あ? バカにしてんのか』


「いや、ベリアルって戦えれば満足みたいなやつだと思ってたからさ。ちょっと意外だなって」


『ハッ、脳筋のお前に言われるとは、オレ様もナメられたもんだな』


 誰が脳筋だ。誰が。


 と、そんなことを話しているうちに、目的の第15層までやってきた。


『5層からいきなり15層か……ずいぶん飛んだな』


「今までが試運転だったんだし、別におかしなことじゃないでしょ」


 これまでは第1層でゴブリンやスライム相手に試運転をし、第5層で金策がてらにゴブリンを狩っていた。


 しかし、今回15層に来たのには別の目的がある。


「ついたぞ」


 ボス部屋の前まで到着すると、大きく深呼吸をした。


 第15層のボス、アラクネは昔のエイルが倒すのに失敗している相手だ。


 今回コイツを倒せれば、それだけ俺の力がついたということに他ならないのだが、果たして行けるのだろうか……。


『なにボケっとしてる。とっとと行くぞ』


「あ、ああ」


 そうだ。今の俺は一人じゃない。


 口は悪いが頼りになるベリアルがついているのだ。


 ここまで来て,何を恐れる必要がある。


 ボス部屋に足を踏み入れると、もわっとした熱気が立ち込めた。


 ダンジョンでは階層によって内部の様相が変化するのだが、ここ第15層では鬱蒼うっそうとしたジャングルが広がっていた。


 草木をかきわけて奥へ進むと、第15層のボス、アラクネが姿を現した。


 鳴き声と共に子グモを召喚すると、こちらに一斉に襲い掛かった。


「<超重領域>」


 ベリアルの能力で超重力を発生させると、子グモたちは動きを封じられ、その場に縫い付けられてしまった。


 そんな中でも、アラクネは押し潰されずこちらに警戒態勢をとっている。


 やはりボスだけあって、スライムやゴブリンほど容易い相手ではないということか……。


 それでも、超重力の中にあっては動きが鈍い。


「はぁぁぁぁ!!!!」


 まずは上段から斬りつけると、苦も無く命中。


 大振りで斬りつけると、威力は出るものの避けられやすい。


 それだけに、動きが鈍っている今であれば、避けられる心配をせずに攻撃に徹することができるというものだ。


『ハッ、デカい図体してるからだ。もっと潰れろ!』


 調子に乗ったベリアルが<超重領域>の出力を上げる。


「重力強すぎるって! これじゃあ俺まで潰れる!」


 潰れそうになる身体をどうにか支えると、アラクネもまた8本の足を地面にめり込ませていた。


 ジャングルという足場の悪い中、あの巨体なのだ。


 足を取られれば、当然機動力は落ちる。


 <超重領域>の出力を戻すと、地面にめり込んだアラクネの足を斬りつける。


「~~~!!!」


 声にならない悲鳴と共に糸が吐き出される。


 危ない!


 とっさに避けると、アラクネの腹の下に潜り込んだ。


 遠距離攻撃が得意なだけに、懐に潜り込まれれば弱いはず。


 そのまま片側の足をすべて斬り落とすと、アラクネがバランスを崩した。


 その場でもがくアラクネの頭に剣を突き立てると、煙と共に肉が崩れ始めた。


 体力がゼロになったのだろう。


 魔素となったアラクネを吸収すると、その場に拳ほどの大きさの魔石が転がった。


「よし! 見たか! ははは」


 思わずその場でガッツポーズ。


 かつてのエイルが倒せなかった相手を、いともあっさり倒してしまった。


 目に見える成長が気持ちいい。


『上出来だ。お前も<超重領域>の使い方がわかってきたみたいだな』


 コイツが素直に褒めるなんて珍しい。


 それだけ俺の成長を喜んでくれているということなのだろうか。


 ……今度いい砥石で磨いてやろう。


 そんなことを考えながら、その場に落ちた魔石を拾おうとすると、見覚えのある影が立ち塞がった。


「ここなら魔剣を使っても人目につかない……。まさにおあつらえ向きの場所ね」


「レティシア……」


「それじゃあ、いつぞやの続きをしましょうか」


 呆然とする俺に、レティシアが静かに剣を構えるのだった。

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