第32話 一人検証(Мダム)と新しい御守りと②

「今、カチカチと音が鳴っているのは、※トリフィールドです」


現在、トリフィールドメーターの画面の数値は0。

GoProにその様子を映した朔夜くんは、デニムジャケットの胸ポケットの中に、トリフィールドを入れた。


「視えるコタローがいないので、トリフィールドの反応=《イコール》霊なのかが、正直俺には分からないので、その時は※スピリットボックスやってみたいと思います」


少し顔が強張っているように見えるものの、カメラを前にした朔夜くんは、キリッとしたプロの顔をしている。

普段は砕けた口調なのに、カメラの前では丁寧な口調になるというギャップがまた最高である。


「いつもの一人検証と、そんなに大きく変わらないのですが、俺がメインの動画だと思うと、めっちゃ緊張する……」


丁寧な口調が砕ける瞬間もまた最高である。まる。



――ここで!

【トリフィールド】と【スピリットボックス】って何だっけ?と、思っている方のために、改めて説明しよう!


【トリフィールド】とは、電磁波測定器のことである。

霊は電磁波エネルギーで形成されていると言われていて、メーターの数値が上がり、カチカチと聞こえている音が、ジジジジジ!とかビャーービャーーという、けたたましい音に変わった場所には、霊がいる可能性があるのだ。

トランシーバーなどの通信機器を使用していたり、電波塔の近くなど、電磁波が発生している場所では、検証には向かないというデメリットが有る。


【スピリットボックス】。略してスピボ。

特殊な高周波数を介することで、霊と会話ができるというアイテムである。

ラジオや無線の音声が紛れ込むこともあり、信憑性があるとは言い切れないものの、『YES』『NO』以外の答えが必要な質問にするなど、使い方次第では可能性が無限大だ。


※次いでに【Мダム】は架空のダムです。(by作者)



「Мダムは小さい方なので、その真上にあるこの橋も当然短いです。こんな風にライトで先を照らすと終わりが見えます。……でも、何だろ。一人だからなのか、緊張してるのか、とても不安な気持ちになるな」


朔夜くんはライトで正面を照らしながら、橋の上をゆっくりと歩きはじめた。


「……この場所で身投げが絶えないという噂は、あながち嘘ではないみたいですね」


立ち止まった朔夜くんの持つライトとカメラが向けられている先は、一番手前の橋の欄干部分だ。


欄干には、網目の細かいフェンスが張り巡らされているだけでなく、その上には有刺鉄線まである。

金属製なのか所々が錆び付いている欄干と、色褪せが少なく比較的綺麗なフェンス。

状態からしてフェンスが後付けであることが察せられる。


「ダム自体も高さがあるのに、更にその上にこの橋。は相当高いはずです」


朔夜くんが、橋の真ん中辺りに視線を向けた時。


――カン。

静まり返った橋の上で硬質な音が響いた。


「今の音は……何?金属音のような硬い音でしたね」


カメラを構えたまま、ぐるりと周囲を見渡すと、

――カン。カン。

シーンと静まり返った橋の上で、先ほどと同じ音が二回鳴った。


「……また同じ音だ。えーと、今のところトリフィールドに反応はありませんが、これって家鳴りみたいに、自然界では普通に鳴る音――なのかな?」


胸ポケットからトリフィールドを少し持ち上げて数値を確認した後、朔夜くんはフェンスの向こう側にある欄干に視線を向けた。


「音的には、金属製の欄干を何かで叩いたような音のように聞こえるんですけど――」


フェンスの隙間に手を伸ばして欄干を指で弾くと、似たような音がした。しかし、こんなに軽い音ではない。


「んー、少し違うかな。もっと、石みたいな物を使って……」


そうそう。爪の先とかではなくて、小さな石で叩いたように、少し重みが伴っていたと私も思うよ!


朔夜くんが首を傾げながら、何度か指で弾いていると、少し奥の方でまた『カン』と音が鳴った。


「一応、撮影前にしっかりと周囲の確認をしましたが、誰もいなかったんですよね。もしかして、後から誰か来たのかな。来てもおかしくない場所ですけど……」


顔を強張らせながら歩き始めた朔夜くんは、周囲をライトで照らしながら呼びかけた。


「……どなたかいらっしゃいますか?俺はYou◯ubeの撮影でここにいます。誰かに危害を与えるつもりは一切ありません。撮影が終わり次第、帰りますので、一旦この場から離れていただけると助かります。離れられないご事情などがおありでしたら、一度出て来ていただけませんか?お話をさせてください。勿論、許可なく撮影はしません」


きちんと伝わるように少し大きめな声で。

でも、できるだけ優しい声で。

敵意がないことを相手に伝えるための誠実な声音だった。


朔夜くんは、そうして何度も声を掛けながら暫く歩き回っていたけれど、誰も出て来なかった。


私から見ても人の気配は感じられない。


「……やっぱり、誰も居ないようです。取り敢えず、人怖ではなさそうなので良かったかな」


安堵したように言ったが、まだ警戒を解いてはいないようだ。


元々、心霊スポットには色んな人間が集まるが、ココには自殺志願者が来る可能性が高い。

自ら死を選ぶほどに追い詰められ、実際に足を運んでいる人間が、最期にどんな行動に出るか分からない。

その場にいる者を道連れにしようとする可能性も少なくはない。

だから、警戒を解かないことは正解だ。


『だったら、そんな危ない場所に行かなければ良いのに』

『そんな場所にいるのだから、怖い目に遭うのは当然』『自業自得』


……まあ、普通はそんな反応になると思う。

繰り返しになるかもしれないけれど、心霊スポットに行く人達の理由は人それぞれで、同じYou◯uber同士でも趣旨や目的が違う。


――『ヤラセなし。後付けもなし。危ない場所だからこそ、視聴者さんの代わりに自分達が行って、リアルな状況を伝えたい』


【ツヴァイリングホラーチャンネル】開設時に、朔夜くんとコタローくんが言っていたことだ。


二人は、無闇矢鱈に恐怖心や好奇心を煽るような撮影はしない。何かが有っても無くても動画を上げるし、動画の最後には必ず心霊スポットと言われる場所に行くことのリスク等の注意喚起を行っている。


同業者の動画では『こんなことがありました〜』という説明だけで終えることも、基本的にはカットせずにそのまま流す。その場の空気や緊迫感を少しでも伝えるためにのことだ。


……えーと。要するに何が言いたいかというと『推しは黙って優しく見守ろう!!』である。


朔夜くんもコタローくんも、起こり得る可能性やリスクを全て承知し、対策もした上で撮影をしている。


まあ、本人達だって、それでも怖いものは怖いだろうし、見ている側は不安だし心配もするけれど……!!



「誰も居ないなら、さっきの『カーン』は何だったんでしょう。気温とか気圧とかで欄干が鳴ったりするんですかね?コレ系に詳しい方がいらっしゃいましたら、コメント欄とかで教えて下さると助かります!!」


朔夜くんがお辞儀するのに合わせて私もペコリと頭を下げた。


……ふふふっ。

一心同体感があって良いわぁ……。

自己満足なんだけどね!――と、いけない、いけない。

今日の私は朔夜くんを守るためにココにいるんだから!!

私。今、推しの守護霊してます!ドヤッ。(鬱陶しい)


「あれ?」


朔夜くんの驚いたような声に、今度こそ(?)我に返ると、朔夜くんは困惑顔で進行方向と後ろ側を何度も見返していた。


「いつの間にか……橋の真ん中にいるんですよ、俺」


……うん?

呆然とする朔夜くんも可愛らしい♡……ではなくて。


朔夜くんの言いたいことが分かっていない私は、その後に続く言葉に耳を傾けた。

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