(1章完結)オリジナルコード〜美少女に転生した裏切り最強魔法剣士は2人の美少女に好きと言いたい〜

暗黒太陽

プロローグ

魔族界の象徴ともいえる魔王城の玉座の間に1人の男が立っている。


「数日ぶりだなギルファ。調子はどうだ?」


 黒いロングコートに身を包んだ20代半ばの人間の男が声を出す。彼の名前はネオ。


 魔法と剣術を極め、人間と魔族を含めてこの世界で勝てる者はほとんどいない。


 部屋の上には巨大なシャンデリアが吊るされている。だが、今はその明かりを完全に落としており、部屋を照らすのは彼の横にある柱の灯りだけだ。光る柱を追って目の前を見ると、そこには部屋の大きさに見合った豪奢な飾り付けの玉座に足を組んで座る男がいる。白銀の長髪に水色の瞳の男だ。


「ふん、そんなものお前なら一目見れば分かるだろうに」


 この暗い部屋には似合わない笑みを互いに浮かべながら会話を交わす。そう、ネオの前にいるこの男こそが魔界の王ギルファだ。


「いいのか。今、人間の軍に加わればお前達人間の勝利だ」

「悪いが、俺はあんなクソみたいな集団に加わる気はない。むしろ、俺が魔王軍に付いて奴らを滅ぼしてやる」


 ネオの口から出てきた言葉からは先程の軽い口調ではなく僅かにだが、確かな怒りが込められていた。


「聖剣の恩恵か、確かにあれの正体を知れば誰も勇者の味方などしないだろう。いや、今の人間にはそんなこと関係ないのか」


 魔王は呆れ混じりのため息を漏らす。


「そうだ。あれは所有者の欲望を力に変え、周りにいる欲深い人間にまで力を与える魔剣だ」


 聖剣シャングリフィア


 人間と魔族は遥か昔から争いを繰り広げていた。何が原因かは今となっては誰も分からない。それを止めるために俺と魔王ギルファは結界を作り、人間と魔族が争いをしないようにした。


 だが、俺と魔王の結界により収まりかけた戦争を聖剣という存在が壊した。聖剣が手にした人間の悪意を増幅させ、魔王に匹敵する程の力を与える能力がある。


 この聖剣を勇者が手にしてからは戦況が大きく変わってしまった。戦争が過激になり魔族の死者が増え、魔族界の王都に攻め込まれるまでに魔族は追い込まれた。現に今、両軍が戦っているのは魔族界の王都の近くにあるバルグレン大渓谷だ。


「勇者はたしかに強い。この私ですら勇者の一撃で魂にヒビが入ってしまった。だが、勝てない相手ではなかった。私は勇者を殺し、確かに魂を砕いたはずだった。それなのにまさか、ゴホッゴホッ!!」

「ギルファ!」


 魔王がいきなり激しく咳き込み右手で口を押さえる。手の間から魔族特有の紫色の血が大量に流れる。


 俺は彼に駆け寄ろうと足を進めようとする。だが、そんな俺を彼は空いている左手をかざし止める。


「大丈夫だ。この程度、お前に心配されるまでも無い。あまり私を見くびるな。」


 苦し紛れの笑みを浮かべているが額から大量の冷や汗が流れ、荒い息を繰り返している。


 そう、聖剣の攻撃は魔族にとっては劇薬と同じなのだ。一般的な魔物なら攻撃を一撃受けただけで消滅してしまう。


 最初の戦いで魔王は勇者による渾身の一撃をくらってしまった。その影響で魔王はどんどんと衰弱していき、肉体の崩壊まで始まってしまった。


「すまない、こうなったのも全部俺のせいだ」

「あのことに関してならお前のせいではない。お前は人類と魔族の和平のためによく尽力してくれている」


「ネオ、お前に、、、頼みが、、、ある。」


 魔王は息を切らしながら言葉を重ねる。


「私には幼い娘、、がいる。今はこの城から遠く離れた場所に、、信頼できる部下と共に避難させ、、、ている。ゴホッ、、、私では娘を守れ、、ない。頼むネオ、私の代わりに娘を守ってくれないか。」


 それは、今まで俺に見せてきた魔王としての、友としての顔でもない。たった一人の娘を心配する父親の顔だった。


「お前はどうするつもりなんだ。まさかこのまま勇者に殺されるとかアホみたいなことを抜かすんじゃないだろうな。」

「どのみち今の私では勇者には勝てない。」

「なら、俺が勇者を殺す。俺なら勇者を殺せる。」


 魔王は、ギルファは俺の初めての友と呼べる存在だった。だから、絶対に死なせたくない。


「そうだな、お前なら勇者を殺せる。だが、あの聖剣がある限り意味はない。それに私はもう限界だ。このまま何もしなくても死んでいくだけだ。ならば私は魔王として、勇者と戦って死にたい。頼む、私に勇敢な魔王として死なせてくれ。」


 俺はどうにかして彼の考えを変えようと必死で言葉を探す。だが、彼の顔を見て無駄だと確信した。


 俺は震える手を握りしめて


「分かった。お前の娘は俺が一生守り続けてやる。絶対にな」


 俺は誓った。

 恐らく俺は友をこの方法でしか救えない。最後の願いを叶えることでしか。



 その会話から少し後、魔王は勇者に討たれ消滅した。そして、魔王に与していた1人の魔法剣士により勇者も死亡。


 翌日、人間界ではこの出来事が知れ渡り、戦争に勝った喜びと、勇者死亡の悲しみに包まれた。当然勇者を殺したネオは全ての人間から恨まれ、後の時代までこう呼ばれるようになる。


 [裏切りの魔法剣士ネオ]、と。


 彼はこの後、姿を現すことはなかった。

 今、彼が何をしているのか分かる者は誰もいない。


 そして、500年の月日が流れた。


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