第22話

 アメジストは、口笛を吹き、銀の立髪をもつ、狼を呼んだ。

「リャンという。私の相棒だ」

 

 リャンは、立髪を風になびかせ、“ワォーン‘’と吠え、アメジストの頬に擦り寄った。


「後ろに乗ってくれ」


 アメジストは、リャンに跨って言った。ミネアは頷き、アメジストの後ろに乗り、背に掴まった。


「リャン、よろしくね」


 ミネアは、リャンの尻を撫でて微笑んだ。


 リャンは、嬉々として吠え、アメジストの家へと駆けた。


 アメジストの家に入ると、ランビーノと同じように、ミネアにゴザに座らせ、茶を沸かしてもてなした。


 囲炉裏で燃え立つ火を見ながら、アメジストはまじまじとミネアを見た。


「姉上にそっくりだ。美しい金髪、青い目、ふっくらと紅い唇。確かに、ミネアはサリーンの娘だ」


「私は、一度も会ったことがないの」


 ミネアは、死んでしまった母を、どのように想い描いたら良いか、わからなかった。


 ただ、このサーリャの地に入った途端に、懐かしい想いが胸に込み上げていた。


(なんだろう、体中に、強い力を感じる)


 アメジストは、ミネアの影った横顔を見て、辛いだろう気持ちを汲み、サリーンとの思い出を語った。


「昔は、よく2人で魔法の競争をしていた。どちらが遠くまで飛べるか、どちらの火がより強い炎か。。姉上の魔法力は本当に強く、私はほとんど勝てなかった」


 アメジストは、懐かしそうに昔を思い出し、嬉しそうに話す。


「姉上は、優しかった。私が負けると、必ず甘い蜂蜜で作られた菓子をくれた。あなたは充分強い、大丈夫、自信を持ってね。と、優しく励ましてくれた。手加減しないで、私を対等に見てくれた。だから、魔法力が弱かった私も強くなり、姉上の代わりができている」


 アメジストは、虚空を見て目を細め、溜め息をついた。


「あの強い姉上が、まさかあっさり殺されるなんて」


「母は、殺されたのですか?なんで、私は捨てられたの?」


 ミネアは、物心ついたときから、ずっと知りたかったこと、心に引っかかっていたことを、思い切って聞いてみた。


「ああ、私が調べた限りでは、正妃に毒で殺された。そして、おそらく、正妃が娘のミネア様も、殺せと命令したんだ」


 アメジストは、悔しそうに、苦しそうに、意志の強そうな眉根を歪ませた。


「ミネア、私はカルデア王国に復讐したい。守れなかった王も、同罪だ!だから、タンジア王子に加勢することにした」


 アメジストは、真剣な光を宿し、ミネアの目をまっすぐ見た。ミネアは、真実を直視するように、アメジストの目をしっかりと、見返した。


「ミネア様は、母の復讐をしたいと思いませんか?」


 アメジストは、誘導するように含みをもたせて、ゆっくりと聞いた。


「したくありません」


 ミネアは毅然とした態度で、きっぱりと反対した。


「なぜ?母を殺し、自分を殺そとした者が、憎くないの?」


「憎いに決まってます。でも、私が復讐をしたら、次は正妃の子や孫や、あなたのような妹や弟が、復讐をしようとする。その次は、その反対が復讐をしようとする。まるでイタチごっこのように、復讐は連鎖していく。多くの子や孫が憎しみを持つことは、間違っている」


 ミネアは、アメジストを説得するように、優しく話しかけた。


「それは、仕方がない。。」


 アメジストは、反論するも、言葉を詰まらせる。


「それに、復讐は何も生まない。だからこそ、母は何も言わずに、力を使わずに死んだのだと私は思う。。」


 ミネアは、魔法力が恐ろしく強いサリーンが、何も気づかずに毒を飲んでいたとは思えなかった。


「母は、もしかしたら、わざと気づかずに毒を飲んでいたのかもしれない。」


「そんな、なんでそんなことを!?」


 アメジストは、ミネアの言葉に驚きの色を隠せなかった。それと同時に、


(いや、毒の魔法も達者な姉上が、毒に気づかないわけがないのではないか。。)


 と、全く可能性がないわけでもないと、自答する。


「母上が、何故わざと毒を飲んだのかは、わからない。だから、それを探すためにも、カルデア王国に行かなければいけない」

  

 (タンジア王子を助けることと、自分の生い立ちを探すことが、重なっていく)


 ミネアは、縁の不思議さを実感しながら、アメジストの同意を求めた。


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