第10話
ミネアはタンジア王子の口づけを拒めなかった。
(王子が、私のことを好き?)
ミネアは、王子の言葉が信じられなかった。だがそれ以上に、今まで剣士として生きてきたミネアは、恋というものが、わからなかった。
「初めて会ったあの夜、私はあなたに恋をした。ミネア、結婚してほしい。」
タンジア王子は、ミネアの手に口づけて言う。王子の吐息が、指から感じられる。ミネアは、ほぅっと溜め息をついた。
(王子が、私と結婚する?でも、王子には、確か婚約者がいたはず。。)
ミネアは、何度か、タンジア王子とユーナ姫が二人で過ごしているところを護衛している。ユーナ姫は、タンジア王子を愛おしそうに見つめ、タンジア王子もそれに応えていた。
ミネアは、ユーナ姫の幸せそうな表情を思い浮かべ、正気を取り戻した。
「王子には、婚約者のユーナ姫がいらっしゃいます」
ミネアは、冷静な口調で言った。
タンジア王子は、痛いところをつかれ、苦しげな表情になる。
「ユーナ姫とは結婚はしない」
「婚約解消ですか?もう、結婚式は、あと1ヶ月になっています。ユーナ姫を裏切り、悲しませるのですか?」
その口調は冷たく、ミネアの心は、固く閉ざされていた。
「しかし、私が愛しているのは、ミネアだ。真の愛なく結婚しても、ユーナ姫は幸せにはなれない」
タンジア王子は、ミネアの手を握りしめ、必死の表情で説得する。
「ユーナ姫は、タンジア王子を愛しています。タンジア王子のために、我が国を離れ、アリシア王国まで来たのです。その姫が、婚約を破棄されたら、愛もプライドもズタズタに切り裂かれます。きっと、ユーナ姫は、壊れてしまいます。タンジア王子は、それでも良いのですか?」
ミネアはタンジア王子の握りしめた手を払いのけ、きっぱりと言った。
「それは。。」
タンジア王子は、問題の大きさに気づき、言葉を濁した。
「私は、ユーナ姫の幸せを壊してまで、自分の幸せをとることはありません。王子も、そうでしょう?」
ミネアは、口調を和らげ、王子に諭すように聞いた。
タンジア王子は、婚約破棄が非人道的な行為であることを知り、何も言い返せなくなる。
「う、、む。しかし、私の愛はどうなるのだ」
タンジア王子は、苦しそうに言い返す。
「私への思いは、一時の気の迷いです。ユーナ姫と結婚をし、子が生まれ、安らかな幸せが愛情となっていきます」
ミネアはそう言って、タンジア王子に背を向けた。
「やはり、私は、後ろから王子をお守りしています」
(危なかった。剣士は、、やはり影の存在。どんな理由があっても、衣を脱いではいけなかったのだ)
ミネアは、自分の間違いに気づき、悔しく、恥ずかしかった。
(一瞬でも、ときめいてしまった。自分が愚かしい)
ミネアは、踵を翻し、王子から離れた。タンジア王子は、離れていくミネアを止めることはできなかった。
その夜、ミネアは天井からタンジア王子が眠るのを見張りながら、タンジア王子の口づけが頭から離れなかった。初めて女の子扱いをされ、雲のように浮いた気分になってしまった。ミネアは、自分を責める一方で、王子に惹かれてしまう気持ちを、抑えることができなかった。
ふいに、天井に人の気配がした。
(カリューシャ?!)
ミネアは、天井裏の闇を睨み、剣を取り、構えた。
「俺だ、ランビーノだ」
ランビーノの声を聞いた途端に、緊張が解放される。
「お父さんか。驚かさないでよ」
ミネアは心底安心して言った。
「悪い、悪い。さっき戻って、部屋にいないからここかなと思って」
「ええ。夜は一番危険な時間だから、一時も目が離せないわ」
「しかし、ミネアはいつ寝てるんだ?」
「大丈夫。昼に休んでいるわ」
「それも少しの時間だろ?今夜は、俺が変わるから、ゆっくり休め」
ランビーノは、ミネアの目の下のくまを見逃さなかった。
「大丈夫よ。それより、カリューシャは見つかったの?」
ミネアは、タンジア王子から目を離したくなかった。
「いや。何の足取りも掴めなかった。しかしな、ある興味深い話を聞いたんだよ」
ランビーノは、にやにやと笑い、得意気に話した。
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