第2話

 俺、立花雅人は取調室で川上大輝と対峙していた。


「川上さん、あなたが関口さんを殺したんですよね」

自分が犯人だと指摘されているにも関わらず、川上は眉一つ動かさない。

「違いますよ、私がここ最近あのマンションに入る時は毎回手ぶらでした。監視カメラにも映ってますよね?私は現場に凶器を持ち込めなかったんですよ」 

「そこなんです。あなたはワイシャツ姿でこのマンションへ出入りしていました。それがおかしいんです、今は3月ですよ?上着を車内に置いたまま外へ出るというのはかなり不自然です。あなたは監視カメラの映像を利用して自分にはナイフを持ち込めないとアピールをしたんだ」


 川上の表情は変わらない。よほどのポーカーフェイスなのか、そもそも逃げ切るつもりがないのかは判然としなかった。


 「ではナイフはいつ持ち込まれたのかですが、ファンからの贈り物の入った段ボールの中にあったと考えるのが妥当でしょう。ここで重要なのが、なぜぬいぐるみが切り裂かれていたのか、です」


「それは盗聴器が仕込まれている事に気づいた関口自身が……」

「そこもおかしいんです。ファンからアイドルへの贈り物に盗聴器や小型カメラが仕込まれているかどうかなんて真っ先に疑ってしかるべきでしょう。当然、運び込む前に事務所側で盗聴器発見器での簡易検査くらいはしたでしょう。つまり盗聴器が仕込まれたのはマンション内に運び込んだ後、おそらく警察へ通報前にあなたが入れた物でしょう」


 正面に座っている俺にしか分からないほど、微かに川上の表情が険しくなる。図星だ。

「ではなぜぬいぐるみが切り裂かれていたのか、考えられる可能性は一つ、中に入っているナイフを取り出すためです。そしてそれをカモフラージュするためにズタズタにされた。そうですよね?」


 「証拠は無いだろう?」と川上。余裕ぶってはいるが、動揺しているのは明らかだった。

「ぬいぐるみの中にナイフを入れた後、その継ぎ目を縫い合わせましたよね? その時に絶対に針を指に刺さなかったといえますか? あのぬいぐるみから微量でもあなたの血液が検出されればそれで充分です」

 川上は数秒の逡巡の後、負けを認めた。関口への悪質なストーカー行為は彼の仕業だった。ストーカー行為をマネージャーである自分に相談させることで、それを口実に毎日部屋へ通い親密になるというマッチポンプが目的だったが、上手くいかなかったために睡眠薬を飲ませ、自殺に見せかけて殺害したのだという。


しかし増田の云う通り、彼女なら絶対に頸動脈を切っての自殺などしなかったであろう。結局川上は彼女に自分の理想を押し付けていただけで、彼女の事を理解などしていなかったのだ。

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