もとアイドルの君はぬいぐるみが怖い
華川とうふ
アイドルのプレゼントにぬいぐるみはNGな理由
「はい、これ……ちょっと早いけどホワイトデー」
そういって、俺が小さな包みを渡すと、涼音は嬉しそうに笑った。
ああ、こんな風に笑えるようになったんだなと、その笑顔を見てほっとする。
半年前まで、涼音は国民的美少女グループに所属しているアイドルだった。
だけれど、ファンによる暴行事件によって芸能界を去った。
涼音は今は普通の女の子で俺の幼馴染だった。
アイドルになって遠い世界にいってしまったように感じていたので、またこんな風に二人きりでデートする日が来るなんて想像もしてなかった。
涼音と二人きりで過ごせるのは楽しいし嬉しいけれど、どこか後ろめたさがあった。
涼音と恋人としてデートできる日々は、涼音の犠牲によってなりたっている。
彼女のアイドルになりたいという夢を捨てた結果がこの穏やかな日々なのだから。
「ねえ、開けてみてもいい?」
涼音はアイドルだったときと変らずに可愛らしい笑顔をこちらに向けた。
「もちろん。涼音のために選んだんだ」
そう言っているうちに涼音はしゅるりとプレゼントのリボンをほどく。
そして過剰すぎる包装から姿を現したのは一体のぬいぐるみだった。
「えっ……」
涼音は困惑した顔をした。
笑顔が引きつる。
「なにか、気に入らなかった?」
俺が聞くと涼音は不安そうに話し始めた。
アイドルをしているときファンの人からぬいぐるみをプレゼントされたときは事前に事務所が盗聴器や隠しカメラがないか確認していたことを。
実際、結構そのような小型機器がしかけられていることはあるらしい。
「ごめん。やめておけばよかったね」
俺が謝ると、涼音は「ううん。大切にするね」と言って抱きしめた。
だけれど、涼音は知らない。
涼音のファンが暴行事件を起こしたのは涼音の部屋に男の影を感じたから。
その映像は隠し撮りされていた。
涼音の部屋にもとからあったぬいぐるみの中に仕掛けられた小型カメラによって。
もとアイドルの君はぬいぐるみが怖い 華川とうふ @hayakawa5
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます