イチャついてなんかない
席を取って、しばらく待つと美菜璃がラーメンを持って戻ってきた。うん。さっきの空気感の中良くラーメンなんて買ってこれたね。逆に尊敬するよ。
私と瑠菜が隣同士で並んで座ってたから、美菜璃は私の前に座った。
「いただきます」
美菜璃も来た事だしと、私はそう言って瑠菜が作ってくれた弁当の蓋を開ける。
正直に言うと表情には出てないけど、好きな人が作ってくれたお弁当だ。かなり楽しみだったんだよ。
中を見ると、卵焼きにハンバーグ、ブロッコリーにご飯が入っていた。控えめにめちゃくちゃ美味しそう。
私は食事中に喋るタイプでは無いので、黙って食べ進める。
それは瑠菜も美菜璃も分かっているので、気まずい空間にはなってない……と思う。
「美味しい?」
半分ぐらい食べ進めたところで瑠菜がそう聞いてきた。
普段は私が食べ終わるまで話しかけてこないんだけど、さっきから隣でうずうずしてたのは分かってたし、感想が聞きたかったんだと思う。
私もそう聞かれたら答えるしかないので、素直に答える。
「美味しい」
「良かった」
瑠菜はそう言って含羞む。
一瞬ドキリっ、と心臓が大きく動いたが、表情は変わらない。
私はまた黙って食事を再開したのだが、さっきは食事に集中していて気が付かなかったが、めちゃくちゃ美菜璃のラーメンを啜る音が聞こえてくる。
ラーメン、麺類なんだから別に文句は無いけど、初対面の人を前によくそんなに恥ずかしげもなく食べれるなーと軽く感心した。
「美味しかった。ご馳走様」
「私もご馳走様」
私が食べ終わると同時に美菜璃も食べ終わったみたい。
瑠菜はまだ少し残っていた。
何となく美菜璃のラーメンの器を見ると、メンマが残っていた。
「美菜璃ってメンマ嫌いなの?」
「あー、ちょっと苦手かな。食べる?」
そう言って美菜璃はメンマを箸でつかみ、私に向けてくる。
「じゃあ、貰う」
私は差し出されたメンマを口に入れる。
「は?」
すると瑠菜が何故か低い声でそう言った。
幸い小さい声だったので隣にいる私にしか聞こえてないようだった。
一体どうしたというんだろう。瑠菜もメンマ食べたかったとか? いや、流石にそんなことであんな声は出さないか。
「ご馳走様」
私がなんで瑠菜が怒っているのかを考えているうちに、瑠菜も食べ終わったみたいだった。
「弁当箱洗って返す」
「いい」
瑠菜はまだ怒っていた。
美菜璃は気づいてなさそうだけど、声のトーンが違う。ずっと一緒にいたからこそ分かる違いだ。
「今日は学校から一緒に帰るから」
瑠菜はそう言い残すと私の分の弁当箱も持って、一人教室に戻って行った。
「……私達も戻る?」
「え、うん。大丈夫なの?」
まぁ、声のトーンで気が付かなくても、あの態度を見れば不機嫌なのは分かるか。
「大丈夫」
大丈夫なはず。なんで怒ってるのか理由もわかってないけど、2人きりになったら言ってくれるはずだ。
そう思っていたらスマホが震えたので、開いてみると瑠菜からだった。
【次あの子とイチャついたら許さない】
……何を言ってるんだろうか。
あの子ってのは多分美菜璃のことだと思う。というかそれ以外に思いつかない。でも、私は美菜璃とイチャついたことなんて一度もない。
いや、もしかして頭を撫でたことを言ってる? 有り得そうではあるけど、さっきまで嬉しそうにしてたのに、いきなりあのタイミングでその事について怒るかな?
やっぱり分からない。
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