ぬいぐるみの気持ち

とりあえず 鳴

第1話

 私は猫のぬいぐるみ、名前はまだ無い。


 いやあった。私には確かエリザベスとか言う名前がついている。


 主人はまだ歳が四歳なのによくそんな名前を知っているものだ。


 私には一つ悩みがある。


「エリザベス。今日も一緒に遊ぶよ」


 今の状況を簡単に説明しよう。私の主人が私の腕を掴んでブンブン上下に振っている。


 私の主人は元気があり過ぎる。いつも私は腕が取れるんじゃないかと不安になる。


 主人の母親はそれを笑って見ているし。


 いや確かに子供は元気がある方がいいのだろうけど普通に危ない。


(もし私の腕が取れたりしたら、私を捨てて新しいぬいぐるみを買わされるんだからな。だから「微笑ま〜」みたいな顔してないで止めよ。マジで)


「エリザベス。今日はなにしよっか」


 やっと振り回すのをやめて座らせてくれた。


 でも問題はまだ続く。


「え、なにぷろれすごっこ?」


(言ってない)


「分かった。いくよ」


(いくな)


 主人が私の腕と足を引っ張る。


 だからその「微笑ま〜」をやめろ。ほんとにちぎれる。


(ほら言った)


 私の腕が引きちぎれた。


 そして主人が呆然とちぎれた私の腕を見ている。


「エリザベス、いたい?」


(捨てられると思うと心は痛いな)


 主人が私の腕が繋がっていた場所を撫でる。


「ごめんなさい」


 主人が涙を流し始めた。


 人間は失うか傷つけるまで何が駄目なことなのか気づかない。


 それを私の腕一本で気づけたのなら安いものだ。


 ぬいぐるみとして主人に買われたのは決して後悔してない。


 私が最期の時を待っていると、腕が繋がっていた。


 どうやら主人の母親が私の腕を縫い合わせてくれたようだ。


 主人がとても嬉しそうにしている。


(よかったよ)


 そしてしばらくの時が経って。


「じゃあね、エリザベス。……名前変えようかな」


 大人になった主人がそんなことを言って家を出た。


 あれからずっと主人は私を大切に扱ってくれている。


 私は本当に幸せ者だ。


 主人、ありがとう。

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ぬいぐるみの気持ち とりあえず 鳴 @naru539

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