09話

「おはよう」

「一時間前からずっと見ていたけど奏は挙動不審すぎ」


 なにも悪いことをしていなくてもあれだけキョロキョロしていたら怪しまれてしまう、でも、周りが悪いわけではない、落ち着きがない奏が悪いのだ。


「えぇ、それなら一時間前に来てよ……」

「五月に先に行っといてって何度も言われて仕方がなく出ただけ」


 近づこうとしたときにそれだったからやめたのだ、だってもしかしたら別の約束があったかもしれないから、その場合だと邪魔になってしまうからだ。


「うん、ずっと見ていたけど紫月が奏くんに近づかなかった理由はそれか」

「もうやだこの姉妹……」

「まあまあ、さ、ゲームセンターにでも行きましょうか」

「ちょっと待ったー! なんで私が着いていないのに行こうとするの!」

「あ、そういえば押切さんもいたんだっけ、よし、これで揃ったからレッツゴー」


 で、何故か勝負ということになってカラオケ屋さんに変わった。

 姉姉青青といった風に私達は歌えずに、なんてこともなく別の部屋だったから問題は一切なかった、流石の私でもお金を払っておきながらなにも歌わずに帰ることはできなかったから言いだしてくれた奏には感謝だ。


「なにか食べようか」

「あの二人は?」

「仲良しだからいいよ、紫月はなにが食べたい?」

「とんかつ」


 近い場所に安価で食べられるとんかつ屋さんがある、私的には安くて美味しければそれで十分だから挙げさせてもらった。

 拘っている人からすれば違うと言われてしまうかもしれないけど安いは正義だ。


「とんかつか、それならあそこだね」

「行こ」

「うん」


 向かっている間、やたらと楽しそうだったから聞いてみたら「楽しいよ、だって岩崎姉妹が一緒にいてくれているからね」と答えてくれたけどこれは洗脳、とまではいかなくてもよくない状態のように見えた。

 なにかを聞けば岩崎姉妹云々と答えるからだ、その度に変えてくれていればこんなことを考えなくて済んだ。


「っと、着いたけど二人がまだだから少し待とうか」

「とう」

「う゛、な、なんで攻撃されたんだ……」

「これで回復したはず、意見は変わった?」

「変わっていないよ」


 時間をかけた結果がこれならこれぐらいのことでなんとかなったりはしないか。

 それならばと通常の状態の青に同じことをしてもらったけど駄目だった、それどころかやたらと悲しそうな顔になってしまったからやめておいた。


「ははっ、それで奏くんに攻撃を仕掛けたの?」

「うん、だけど駄目だった」

「洗脳とかじゃないよ、ただ僕が二人と一緒にいたいだけなんだ」

「もう分かったから大丈夫」


 悔しさとかはないものの、これでは奏のためにならないのが残念だ。


「わ、私も参加できる話にしてほしいなー」

「あ、押切さんもいたんだ」

「なにおー!」

「しー! ここは店内だよ」

「あ、ごめん……って、岩崎さんに言われるのはむかつくっ」


 青が参加してくれることで通常の状態に戻ってくれるのならそれでいいか。

 口に出さなければ悲しそうな顔をされてしまうこともないだろうから活かしていこうと決めてなにを頼むかメニューを見始めたのだった。

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